第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述97

運動制御・運動学習6

2015年6月7日(日) 10:50 〜 11:50 第7会場 (ホールD5)

座長:笠原敏史(北海道大学大学院保健科学研究院)

[O-0728] 到達運動中に誘発される反射的な修正動作の機能的役割とその加齢影響

木村大輔, 門田浩二, 平松佑一, 木下博 (大阪大学大学院医学系研究科運動制御学教室)

キーワード:運動制御, 視覚運動座標変換, オンライン

【はじめに,目的】
ヒトが正確な運動を行うためには,環境の変化に応じて逐次的に動作を修正する必要がある。近年,到達運動中に到達目標が移動すると,その方向と一致した運動応答が,極めて短潜時(約120 ms)で到達腕に誘発されることが報告されている。このような素早い修正動作の生成には視覚-運動系の中でも高速の情報処理が利用されると予測されるが,その機能面は十分に理解されていない。さらに高齢者では視覚依存の運動制御となっていくことが知られているが,加齢がこの情報処理系に与える影響は明らかではない。そこで本研究では,この反射的な修正動作の機能的役割とこの情報処理系に対する加齢影響の2点を検討した。
【方法】
被験者は高齢者群25名(女性12名,年齢70±5歳),若年者群25名(女性13名,年齢23±4歳)であった。課題は右腕での視覚ターゲットに対する到達運動であった。被験者はイスに座り,手元に設置されたボタンを右手で押したまま待つ。その後ビープ音が呈示されるので,それを合図として,被験者から50 cm離れたところにある,スクリーンに映し出されたターゲットへ到達運動を開始する。ターゲットが動かない統制条件を除き,到達運動開始後0.15秒後にターゲットが上下左右のいずれかに移動する。ターゲットが移動しても被験者には腕運動を中断することなく,移動後のターゲットに向かって到達運動を継続するように指示した。修正動作自体の空間的な正確性を評価するために最終到達位置のばらつきを,修正動作の空間的正確性を評価するためにターゲット移動方向に対する短潜時の修正動作とその方向誤差を算出し両者の関係性を評価した。
【結果】
最終到達位置は,先行研究と同様に高齢者群では若年者群と比較して,有意に大きなばらつきを示した。しかし,統制条件に関しては群間差を示さなかった。このことは,高齢者群では修正動作自体の空間的正確性が低下していることを示している。他方,短潜時修正動作時の方向誤差の平均値には,年齢群間の差を認めなかった。このことは短潜時修正動作の空間的正確性に加齢の影響が少ないことを示している。さらに,最終到達位置のばらつきと方向誤差のばらつきは,若年者群では中等度の相関を示したのに対して,高齢者では相関を示さなかった。つまり,若年者群の結果から短潜時修正動作は最終的な空間的ばらつきを減少させている可能性を示している。
【考察】
随意的な修正動作を含む最終到達位置では,加齢の影響が観察されたのに対して,短潜時修正動作に対する加齢影響は少なかった。この理由として短潜時修正動作を生成する神経基盤は随意制御とは異なった加齢影響があると考えられる。さらに,若年者の結果から短潜時修正動作が最終的な運動の正確性に貢献している可能性が示されたが,この機能は加齢により低下する可能性がある。この原因として,高齢者では無意識的な素早い修正動作の正確性は維持されている,一方で随意的な修正動作の生成に問題があると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
日常生活で重要となるオンライン修正動作に対する加齢影響を明らかにした。無意識的な修正動作と随意的な修正動作を切り分け,両者の関係性を考慮することは,理学療法の新たな介入方法を創出する一要因になりうる。