第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述98

地域理学療法8

Sun. Jun 7, 2015 10:50 AM - 11:50 AM 第8会場 (ガラス棟 G402)

座長:山田実(筑波大学大学院人間総合科学研究科)

[O-0731] 生活が自立した変形性膝関節症患者における推奨される身体活動の定着に影響を与える因子の検討

身体機能,疼痛,心理社会因子,環境因子からの抽出:多施設共同研究

出口直樹1, 平川善之2, 中嶋正明3 (1.福岡リハ整形外科クリニック, 2.福岡リハビリテーション病院, 3.吉備国際大学大学院保健科学研究科)

Keywords:変形性膝関節症, 身体活動, 予防

【はじめに,目的】変形性膝関節症(以下膝OA)は,要支援・要介護の基礎疾患であるため,中等度の身体活動は予防の観点から世界的に強く推奨されている。しかし,第一次健康日本21最終報告書では推奨された身体活動の定着が課題とされ,健常者と比較し膝OA患者ではその割合はより低いことから,諸外国では膝OA患者を対象に行動変容を利用した身体活動推進の患者教育が実施されているが,本邦では見当たらない。また,身体活動の促進の介入は,文化的・人種的背景の考慮が必要であり,身体活動を促進する介入の実施にあたり推奨される身体活動の定着に影響する因子を日本人の膝OA患者で検討する必要がある。身体活動に影響を与える因子として,慢性疼痛を対象としたFear avoidance modelがあり,行動回避に疼痛や心因性疼痛の関連を示唆している。近年ではEcological modelが注目され,身体活動の関連因子を分析する際に環境因子を含める必要性が示唆されている。本研究の目的は,身体活動促進の介入実施にあたり,日本人膝OA患者の推奨された身体活動に影響する因子を身体機能,疼痛および心因性疼痛,心理社会因子,環境因子から人口統計学的因子の影響を考慮し検討することである。【対象】島根県I市,福岡県N区,H区,T区に住む過去に50歳以上で膝OAと診断された者であった。取り込み基準は,両脚立位時の膝の前後X線撮影で,膝OAと診断があるもので,歩行および生活が自立しているものとした。除外基準は,中枢疾患を有しているもの,膝関節に手術を行っているもの,認知症があるもの,合併症にリウマチがあるものとした。300名に配布し,分析可能であった81名を対象とした(平均年齢73.2±8.5歳,BMI24.1±3.6)。膝OA患者の重症度としてWestern Ontario and McMaster Universities osteoarthritis index(以下WOMAC)を調査し,対象のWOMACは24.7±17.1点であった。【方法】調査期間は,平成25年3月15日~平成26年9月30日で9施設共同研究の無記名自記入質問紙法のアンケート調査として実施した。調査項目は,行動変容stageの尺度であるTranstheoretical Model(以下TTM)を従属変数とし,TTMの前熟考期,熟考期,準備期を運動非定着群,実行期および維持期を運動定着群とした。説明変数は身体機能としてWOMAC機能,疼痛の評価としてVASおよびWOMAC疼痛,心理的な因子として運動self efficacy(以下運動SE),破局的思考尺度(Pain Catastrophizing Scale;PCS。日本語版)の反芻,無力感,拡大視を調査した。SF-36の心理社会因子の下位尺度(活力:VT,社会生活機能:SF,日常役割機能-精神:RE,心の健康:MH),環境因子として国際標準化身体活動質問紙環境尺度日本語版(以下IPAQ-E)を調査した。また,人口統計因子として年齢,BMI,婚姻および仕事の有無を調査し交絡因子とした。統計学的処理は,交絡因子は強制投入後,ステップワイズ法にて交絡因子から独立した説明変数を抽出し二項ロジスティック回帰分析にて分析し,有意水準は5%未満とした。【結果】分析可能であった81名で分析した結果,運動非定着群41名,運動定着群40名であった。統計学的手法により人口統計学的因子から独立し,説明変数ではWOMAC機能(p=0.002,β=-0.369:95%IC:-0.024~-0.006)と運動SE(p<0.000,β=0.377:95%IC:0.021~0.068),交絡因子では仕事(p=0.022,β=-0.279:95%IC:-0.526~-0.039)が抽出されたが,WOMAC疼痛,VAS,PCSのすべての項目,SF-36の下位尺度は抽出されなかった(p<0.001,R=0.648,R2=0.419,調整済みR2=0.355)。【考察】本研究の対象は生活が自立し,WOMACより軽度~中等度の関節障害を有したものと推察した。推奨された身体活動の定着への関連は,年齢,BMI,婚姻および仕事の有無から独立して身体機能と運動への自信であり,疼痛および心因性の疼痛,環境因子の影響は少なかった。膝OA患者における1年後の身体活動の定着の予測因子として活力が関与し(出口ら,2014),身体活動促進のための介入の際の患者教育として,活力に加え身体機能向上および運動への自信をつける必要があるかもしれない。【理学療法学研究としての意義】理学療法士が予防分野への積極的な参加が求められるなかで,予防の対象となる生活が自立した日本人膝OA患者の推奨される身体活動の定着に影響を与える因子を人口統計学的因子から独立し,環境因子も含め包括的に検討したことである。