[O-0732] 座位での前方リーチにおける見積もり誤差に与える影響
~座面の違いや足底接地の有無に着目して~
Keywords:前方リーチ, 見積もり誤差, 転倒予防
【はじめに】
高齢者がねたきりになる原因や支援が必要になる原因として,転倒骨折が挙げられている。入院患者における転倒場所としては病室内が多いとの報告があり,その転倒の原因は様々な因子が挙げられている。一方,病室内で転倒した患者からは物を取ろうとした際に,実際手の届かない距離であっても「手が届くと思った」などの内省をしばしば聴取することがある。これは自身の能力を過大評価している見積もり誤差であると考えられる。見積もり誤差を測定することは身体運動を正確に認識しているかどうかを判断するのに有効な方法(市橋,2014)とされており,加齢によって誤差が大きくなると言われている。見積もり誤差に関して様々な研究はみられるが,座面の違いや足底接地の有無が与える影響について検討された報告は見当たらない。そこで健常成人を対象とし,座面の違いや足底接地の有無が座位における前方リーチ動作の見積もり誤差に影響するのかを調査,分析した。
【方法】
対象は健常成人30名(平均年齢27.8±5.3歳)とした。方法は治療用ベッド(PARAMOUNT BED製KC-237)上端座位(以下ベッド)と,病室で使用しているマット(PARAMOUNT BED製KE-403)上端座位(以下マット)で,それぞれで足底接地(以下接地),非接地(以下非接地)の4条件で端座位からの前方リーチの予測値と実測値の計測を行った。開始姿勢は大腿長の2/3がベッドの端となるよう座り,肩峰と大転子を結ぶ線が床と垂直,両股関節内・外転0°とした。接地は膝関節90°屈曲位,足関節背屈0°となる高さとした。また非接地は接地時の姿勢から足底が床から十分離れるまで座面を上げた状態とした。測定は自作の測定装置を使用した。予測値の測定は検者が被検者の肩の高さで視標を遠位から被検者に近づくように動かし,被検者が最大限に上肢を伸ばせると予測した地点を予測値とした。実測値の測定はDuncanの方法を参考にし,被検者には上肢を水平に前方挙上し,前方・水平に上肢を出来るだけ遠くまで伸ばすように指示し,最大リーチとなった地点を計測した。その際,測定装置に触れること,体幹の回旋,支持基底面を変えるなどは制限した。測定は2回行い,その平均値を実測値とした。見積もり誤差は最大リーチ距離の実測値から予測値を引いた値とした。なお測定中は予測値と実測値の結果についてフィードバックしないものとした。統計は予測値,実測値,見積もり誤差について,それぞれでの条件間の比較は二元配置分散分析を用いた。さらに予測値,実測値,見積もり誤差に関して上記4条件それぞれでの比較は対応のあるt検定を用いた。有意水準は5%未満とした。
【結果】
予測値,実測値,見積もり誤差は分散分析で有意差が認められた(p<0.01)。座面の違いや足底接地の有無での比較は,ベッドでは非接地が接地に比べて有意に予測値,実測値ともに小さく(p<0.01),見積もり誤差には接地-3.1cm,非接地-6.2cmと有意差はなかった。マットでは非接地が接地に比べて有意に予測値,実測値が小さく(p<0.01),見積もり誤差は非接地-11.7cm,接地。7cmと有意に低値を示した(p<0.01)。接地ではマットがベッドに比べて有意に予測値,実測値ともに小さく(p<0.01),見積もり誤差はベッド-3.1cm,マット2.8cmと有意差はなかった。非接地はマットがベッドに比べて有意に予測値,実測値が小さく(p<0.01),見積もり誤差はマット-11.7cm,ベッド-6.2cmと有意に低値を示した(p<0.05)。
【考察】
今回の分析結果より,見積もり誤差はベッドや接地時には変化がなく,マットで非接地の際に他の条件に比べて低値を示すことが分かった。これはマットで非接地の際には予測値に対し実測値が小さくなる,すなわちより過小評価となることを示している。見積もり誤差についてRobinovitchらは若年者が自己の身体能力を過小評価するのに対し,高齢者は過大評価するとしている。今回の結果から,見積もり誤差への影響は加齢のみでなく,座面の違いや足底接地の有無も影響を与えることが示唆された。入院患者の多くは高齢者であることから,若年者のように座面の違いや足底接地の有無の変化を捉えることが出来ず,それにより自己の身体能力を過大評価してしまうことが,病室内の転倒の原因の一つになっているのではないかと考える。
【理学療法学研究としての意義】
今回の研究では条件の違いにより,見積もり誤差が変化することが示された。今後は高齢者や障害者の見積もり誤差が過大となりやすい要因について調査し,転倒予防の対策へと発展させる必要がある。
高齢者がねたきりになる原因や支援が必要になる原因として,転倒骨折が挙げられている。入院患者における転倒場所としては病室内が多いとの報告があり,その転倒の原因は様々な因子が挙げられている。一方,病室内で転倒した患者からは物を取ろうとした際に,実際手の届かない距離であっても「手が届くと思った」などの内省をしばしば聴取することがある。これは自身の能力を過大評価している見積もり誤差であると考えられる。見積もり誤差を測定することは身体運動を正確に認識しているかどうかを判断するのに有効な方法(市橋,2014)とされており,加齢によって誤差が大きくなると言われている。見積もり誤差に関して様々な研究はみられるが,座面の違いや足底接地の有無が与える影響について検討された報告は見当たらない。そこで健常成人を対象とし,座面の違いや足底接地の有無が座位における前方リーチ動作の見積もり誤差に影響するのかを調査,分析した。
【方法】
対象は健常成人30名(平均年齢27.8±5.3歳)とした。方法は治療用ベッド(PARAMOUNT BED製KC-237)上端座位(以下ベッド)と,病室で使用しているマット(PARAMOUNT BED製KE-403)上端座位(以下マット)で,それぞれで足底接地(以下接地),非接地(以下非接地)の4条件で端座位からの前方リーチの予測値と実測値の計測を行った。開始姿勢は大腿長の2/3がベッドの端となるよう座り,肩峰と大転子を結ぶ線が床と垂直,両股関節内・外転0°とした。接地は膝関節90°屈曲位,足関節背屈0°となる高さとした。また非接地は接地時の姿勢から足底が床から十分離れるまで座面を上げた状態とした。測定は自作の測定装置を使用した。予測値の測定は検者が被検者の肩の高さで視標を遠位から被検者に近づくように動かし,被検者が最大限に上肢を伸ばせると予測した地点を予測値とした。実測値の測定はDuncanの方法を参考にし,被検者には上肢を水平に前方挙上し,前方・水平に上肢を出来るだけ遠くまで伸ばすように指示し,最大リーチとなった地点を計測した。その際,測定装置に触れること,体幹の回旋,支持基底面を変えるなどは制限した。測定は2回行い,その平均値を実測値とした。見積もり誤差は最大リーチ距離の実測値から予測値を引いた値とした。なお測定中は予測値と実測値の結果についてフィードバックしないものとした。統計は予測値,実測値,見積もり誤差について,それぞれでの条件間の比較は二元配置分散分析を用いた。さらに予測値,実測値,見積もり誤差に関して上記4条件それぞれでの比較は対応のあるt検定を用いた。有意水準は5%未満とした。
【結果】
予測値,実測値,見積もり誤差は分散分析で有意差が認められた(p<0.01)。座面の違いや足底接地の有無での比較は,ベッドでは非接地が接地に比べて有意に予測値,実測値ともに小さく(p<0.01),見積もり誤差には接地-3.1cm,非接地-6.2cmと有意差はなかった。マットでは非接地が接地に比べて有意に予測値,実測値が小さく(p<0.01),見積もり誤差は非接地-11.7cm,接地。7cmと有意に低値を示した(p<0.01)。接地ではマットがベッドに比べて有意に予測値,実測値ともに小さく(p<0.01),見積もり誤差はベッド-3.1cm,マット2.8cmと有意差はなかった。非接地はマットがベッドに比べて有意に予測値,実測値が小さく(p<0.01),見積もり誤差はマット-11.7cm,ベッド-6.2cmと有意に低値を示した(p<0.05)。
【考察】
今回の分析結果より,見積もり誤差はベッドや接地時には変化がなく,マットで非接地の際に他の条件に比べて低値を示すことが分かった。これはマットで非接地の際には予測値に対し実測値が小さくなる,すなわちより過小評価となることを示している。見積もり誤差についてRobinovitchらは若年者が自己の身体能力を過小評価するのに対し,高齢者は過大評価するとしている。今回の結果から,見積もり誤差への影響は加齢のみでなく,座面の違いや足底接地の有無も影響を与えることが示唆された。入院患者の多くは高齢者であることから,若年者のように座面の違いや足底接地の有無の変化を捉えることが出来ず,それにより自己の身体能力を過大評価してしまうことが,病室内の転倒の原因の一つになっているのではないかと考える。
【理学療法学研究としての意義】
今回の研究では条件の違いにより,見積もり誤差が変化することが示された。今後は高齢者や障害者の見積もり誤差が過大となりやすい要因について調査し,転倒予防の対策へと発展させる必要がある。