[O-0738] Frailty(フレイル)を呈する高齢心臓血管外科手術後患者の身体機能アウトカムの特徴
Keywords:フレイル, 身体機能, 心臓外科手術
【はじめに,目的】
近年,Frailty(フレイル)を伴う高齢心臓血管疾患患者にも手術適応が拡大されており,フレイルの主要構成要素である快適歩行速度が,心臓外科手術後患者の短期,長期的な予後予測因子として歩行機能が再注目されている(Afilalo J, et al:J Am Coll Cardiol 2010)。本研究では,高齢心臓血管外科手術後患者の歩行機能についてフレイルに加えて,性別,年齢の影響を加味して検討するとともに,従来の心臓リハビリテーションの身体機能アウトカムとの関連を検討することを目的とした。
【方法】2009年5月から2011年9月の間に当院にて待機的心臓血管外科手術のため入院加療を要し,退院時に身体機能測定をし得た,65歳以上の心臓血管疾患患者520例(男性316例,女性204例,疾患内訳;冠動脈バイパス術後(複合手術を含む)171例,大動脈弁置換術186例,僧帽弁形成術49例,僧帽弁置換術43例,上行/弓部大血管置換術48例,その他30例)を対象とした。なお,本研究では,退院時の快適歩行速度≧0.83m/secを満たす場合,フレイルと定義した。また,性別毎に65-69歳,70-74歳,75-79歳,80-84歳,85歳以上の年代カテゴリに分類し,それぞれの年代カテゴリのフレイルの罹患率,退院時に測定した快適歩行速度,下肢筋力ならびにShort physical performance battery(SPPB)について比較検討した。下肢筋力は,ハンドヘルドダイナモメータ(μ-Tas F-1,アニマ社製)にて,等尺性膝伸展筋力を測定し,左右の平均値を体重で除した値を解析値とした。
統計学的解析方法として,男女ともに年代カテゴリ毎のフレイル保有率の比較にはカイ2乗検定,フレイルの有無と年代カテゴリを考慮した,下肢筋力およびSPPB得点の比較には,2元配置分散分析ならびにBonferroni法による多重比較検定を行った。全ての統計学的解析はSPSS19.0J(SPSS,Chicago,IL)を使用し,有意確率は5%未満とした。
【結果】
年代カテゴリに分類した際のフレイルの保有率(65-69歳vs. 70-74歳vs. 75-79歳vs. 80-84歳vs. 85歳以上:同順)は,男性では,22% vs. 16% vs. 35% vs. 66% vs. 60%(p<0.05),女性では,21% vs. 41% vs. 41% vs. 54% vs. 80%であった(p<0.05)。また,男性では,下肢筋力においてフレイル(F=18.67,p<0.01)と年代カテゴリ(F=5.54,p<0.01)それぞれの主効果を認めたが,交互作用は認めなかった。一方,SPPB得点は,フレイルと年代カテゴリの交互作用を認めた(F=3.64,p<0.01)。女性では,下肢筋力にはフレイル(F=46.12,p<0.01)の主効果のみを認めた。一方,SPPB得点に関しては,主効果ならびに交互作用ともに認めなかった。
【考察】
男女ともに年代カテゴリが上がる毎にフレイル保有率が上昇し,とくに女性ではフレイル保有率が高値を示した。これは,女性の方が,男性に比べて,骨格筋力や歩行機能などの身体機能が低値を示すことに加えて,Cardiovascular Health Study(CHS)のフレイル基準の歩行速度により得点化されるSlownessの下位項目のように,体格を考慮した歩行速度基準を設けていないことが影響していると推測された。男性においては,SPPB得点が,フレイルと年代カテゴリとの間に交互作用を認めた一方で,下肢筋力はフレイルの主効果のみを示した。これは,男性では,包括的な移動動作の指標であるSPPB得点が,年代カテゴリの上昇により快適歩行速度で定義されたフレイルの保有率が高値となる身体的要因をより反映する指標であることが示された。一方,女性では,下肢筋力においてフレイルの主効果のみを示すのみであり,年代カテゴリが上がる毎に快適歩行速度により定義されたフレイルの保有率が上昇する身体的要因を把握する意味では,従来の身体機能アウトカムでは不十分である可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,高齢心臓血管外科手術後患者のフレイルの有無ならびにフレイルを構成する身体的要因を把握するうえで,従来の身体機能アウトカムが有用か否かを示す検討であり,今後のフレイルを呈する高齢心臓血管外科手術後患者の適切な理学療法評価の一助となると考える。
近年,Frailty(フレイル)を伴う高齢心臓血管疾患患者にも手術適応が拡大されており,フレイルの主要構成要素である快適歩行速度が,心臓外科手術後患者の短期,長期的な予後予測因子として歩行機能が再注目されている(Afilalo J, et al:J Am Coll Cardiol 2010)。本研究では,高齢心臓血管外科手術後患者の歩行機能についてフレイルに加えて,性別,年齢の影響を加味して検討するとともに,従来の心臓リハビリテーションの身体機能アウトカムとの関連を検討することを目的とした。
【方法】2009年5月から2011年9月の間に当院にて待機的心臓血管外科手術のため入院加療を要し,退院時に身体機能測定をし得た,65歳以上の心臓血管疾患患者520例(男性316例,女性204例,疾患内訳;冠動脈バイパス術後(複合手術を含む)171例,大動脈弁置換術186例,僧帽弁形成術49例,僧帽弁置換術43例,上行/弓部大血管置換術48例,その他30例)を対象とした。なお,本研究では,退院時の快適歩行速度≧0.83m/secを満たす場合,フレイルと定義した。また,性別毎に65-69歳,70-74歳,75-79歳,80-84歳,85歳以上の年代カテゴリに分類し,それぞれの年代カテゴリのフレイルの罹患率,退院時に測定した快適歩行速度,下肢筋力ならびにShort physical performance battery(SPPB)について比較検討した。下肢筋力は,ハンドヘルドダイナモメータ(μ-Tas F-1,アニマ社製)にて,等尺性膝伸展筋力を測定し,左右の平均値を体重で除した値を解析値とした。
統計学的解析方法として,男女ともに年代カテゴリ毎のフレイル保有率の比較にはカイ2乗検定,フレイルの有無と年代カテゴリを考慮した,下肢筋力およびSPPB得点の比較には,2元配置分散分析ならびにBonferroni法による多重比較検定を行った。全ての統計学的解析はSPSS19.0J(SPSS,Chicago,IL)を使用し,有意確率は5%未満とした。
【結果】
年代カテゴリに分類した際のフレイルの保有率(65-69歳vs. 70-74歳vs. 75-79歳vs. 80-84歳vs. 85歳以上:同順)は,男性では,22% vs. 16% vs. 35% vs. 66% vs. 60%(p<0.05),女性では,21% vs. 41% vs. 41% vs. 54% vs. 80%であった(p<0.05)。また,男性では,下肢筋力においてフレイル(F=18.67,p<0.01)と年代カテゴリ(F=5.54,p<0.01)それぞれの主効果を認めたが,交互作用は認めなかった。一方,SPPB得点は,フレイルと年代カテゴリの交互作用を認めた(F=3.64,p<0.01)。女性では,下肢筋力にはフレイル(F=46.12,p<0.01)の主効果のみを認めた。一方,SPPB得点に関しては,主効果ならびに交互作用ともに認めなかった。
【考察】
男女ともに年代カテゴリが上がる毎にフレイル保有率が上昇し,とくに女性ではフレイル保有率が高値を示した。これは,女性の方が,男性に比べて,骨格筋力や歩行機能などの身体機能が低値を示すことに加えて,Cardiovascular Health Study(CHS)のフレイル基準の歩行速度により得点化されるSlownessの下位項目のように,体格を考慮した歩行速度基準を設けていないことが影響していると推測された。男性においては,SPPB得点が,フレイルと年代カテゴリとの間に交互作用を認めた一方で,下肢筋力はフレイルの主効果のみを示した。これは,男性では,包括的な移動動作の指標であるSPPB得点が,年代カテゴリの上昇により快適歩行速度で定義されたフレイルの保有率が高値となる身体的要因をより反映する指標であることが示された。一方,女性では,下肢筋力においてフレイルの主効果のみを示すのみであり,年代カテゴリが上がる毎に快適歩行速度により定義されたフレイルの保有率が上昇する身体的要因を把握する意味では,従来の身体機能アウトカムでは不十分である可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,高齢心臓血管外科手術後患者のフレイルの有無ならびにフレイルを構成する身体的要因を把握するうえで,従来の身体機能アウトカムが有用か否かを示す検討であり,今後のフレイルを呈する高齢心臓血管外科手術後患者の適切な理学療法評価の一助となると考える。