第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述99

循環2

Sun. Jun 7, 2015 10:50 AM - 11:50 AM 第9会場 (ガラス棟 G409)

座長:内山覚(新東京病院 リハビリテーション室), 森沢知之(兵庫医療大学 リハビリテーション学部)

[O-0737] 高齢心臓外科手術患者における術後リハビリテーション進行および身体機能の推移に関する検討

~前期高齢者と後期高齢者の比較~

堀健太郎, 齊藤正和, 岩佐祐子, 河合佳奈, 塩谷洋平, 中嶋翔吾, 小薗愛夏, 有光健, 上脇玲奈, 安達裕一, 山田智美 (公益財団法人日本心臓血圧研究振興会附属榊原記念病院理学療法科)

Keywords:高齢者, 心臓外科手術, 身体機能

【はじめに,目的】
近年,手術技術や周術期管理の進歩により,従来は手術対象とはならなかったハイリスクな高齢者においても手術適応となってきている。本邦における高齢化率は25.1%(前期高齢者12.8%,後期高齢者12.3%)であるが,高齢化の進行とともに後期高齢者の増加が予測されている。後期高齢者は生理的機能の低下により疾患の発症率が高まり,日常生活活動能力や認知機能が低下しやすいことなど,前期高齢者とは異なる特徴を有することが報告されていることから,心臓外科手術においても前期高齢者とは異なる経過となる可能性がある。しかし,本邦においては前期高齢者と後期高齢者の術後リハビリテーション(リハビリ)進行および身体機能の推移を調査した報告は皆無である。そこで,65歳以上の高齢心臓外科手術患者を対象に,前期高齢者と後期高齢者の術後リハビリ進行および手術前後の身体機能の推移を明らかにすることを本研究の目的とした。
【方法】
2013年4月から2014年6月にかけて当院にて待機的心臓外科手術を施行し手術前後の身体機能評価が可能であった高齢心疾患患者261例のうち,術後脳梗塞発症6例を除く255例(年齢75±6歳,男性136例,女性119例)を対象とした。
対象を75歳未満の前期高齢群115例,75歳以上の後期高齢群140例の2群に分類し,両群の術前および周術期の臨床的患者背景因子,術後リハビリ進行および手術前後の身体機能の推移を調査し比較検討した。なお,術後リハビリ進行は端坐位,立位,歩行開始病日,日本循環器学会の心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(2012年改訂版)の病棟内歩行自立の目安である100m歩行自立病日および術後5日以内の病棟内歩行自立割合を調査した。また,身体機能評価は術前および退院時にShort Physical Performance Battery(SPPB)を実施した。
統計解析はSPSS19.0J(SPSS,Chicago,IL)を用いてχ二乗検定,t検定および繰り返しのある二元配置分散分析を実施し,すべての結果の有意水準は5%未満とした。
【結果】
臨床的患者背景因子の比較では,後期高齢群は前期高齢群と比較して,骨関節疾患,貧血,frailty(フレイル)の罹患率およびEuro ScoreIIが有意に高値であり(p<0.05),血清ヘモグロビン値,血清アルブミン値,Geriatric Nutritional Risk Index(GNRI),推定糸球体濾過量が有意に低値であった(p<0.05)。術後リハビリ進行においては,端坐位,立位,歩行開始病日,100歩行自立病日および術後5日以内の病棟内歩行自立割合のいずれも両群間で統計学的有意差は認めなかった。一方で,後期高齢群は前期高齢群と比較して手術前後でSPPB得点が1点以上低下した割合が高値であり(後期高齢群:33% vs.前期高齢群:19%,p<0.05),二元配置分散分析においてSPPB得点は年齢(前期高齢群vs.後期高齢群)と時期(術前vs.退院時)との間で有意な交互作用(F=5.7,p<0.05)を認めた(術前:前期高齢群11.4±1.7点vs.後期高齢群10.8±2.2点,退院時:前期高齢群11.2±1.9点vs.後期高齢群10.3±2.5点)。
【考察】
本研究結果より,後期高齢群は前期高齢群と比較して,骨関節疾患,貧血やフレイルの罹患率が高く,腎機能や栄養指標が低値である症例が多いことが示された。一方で,術後端座位,立位,歩行開始病日および病棟内歩行自立病日などの術後リハビリ進行には両群間で有意差を認めなかった。これは,近年の周術期管理の向上に加えて,早期離床を含むfast track recoveryが定着したことに起因すると推察される。しかしながら,前期高齢群,後期高齢群ともに時期による有意な主効果を呈するとともに,交互作用を認めていることからも,とくに後期高齢心臓外科手術患者においては,従来型の早期から離床を開始し,段階的に安静度を拡大していく術後リハビリの限界を示すものである。また,周術期管理に加え,術後の入院期間自体も短縮化しており,如何に高齢心臓外科手術後患者の身体機能低下を予防するとともに,スムースに自宅退院に繋げられるような術後リハビリプログラムの立案が重要であると推察される。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,早期離床ならびに段階的に安静度を拡大する従来型の術後リハビリプログラムだけでは,高齢心臓外科手術後患者における身体機能低下の予防に不十分であることを示唆しており,今後の高齢心臓外科手術後患者に対する術後リハビリプログラムのパラダイムシフトの必要性を示す重要な研究であると考える。