[O-0748] 静的ストレッチングにおける伸張角度の再設定が柔軟性に及ぼす影響
Keywords:スタティックストレッチング, 柔軟性, ハムストリングス
【はじめに,目的】
静的ストレッチング(static stretching:以下,SST)は,即時的に柔軟性を改善することが広く知られている。近年,SSTの伸張強度が高いほど柔軟性改善効果は大きくなるが,高強度SSTの実施中には伸張部位に疼痛を伴うことが報告されている。そのため,痛みを伴わずに大きな柔軟性改善効果を得るSST方法の検討は,効果的かつ効率的なSST実践に向けた方法論の確立に寄与すると考えられる。一方,SST中の変化に着目すると,他動的な抵抗の指標である静的トルクは時間経過とともに次第に低下することから,対象筋に加わる張力は相対的に減弱する。したがって,「痛みの出る直前」の伸張角度でSSTを実施した後,改めて「痛みの出る直前」の伸張角度を再設定し,再びSSTを実施することで,より大きな柔軟性改善効果を得ることが期待できる。しかし,このSST方法や再設定の頻度による柔軟性改善効果は明らかではない。そこで,本研究はSSTにおける伸張角度の再設定が柔軟性に与える影響について検討することを目的とした。
【方法】
被験者は健常学生12名(男性8名,女性4名,平均年齢21.4±0.9歳)とし,対象筋は右ハムストリングスとした。被験者は股関節および膝関節をそれぞれ約110°屈曲した座位(以下,測定開始肢位)をとり,等速性運動機器(BTE社製PRIMUS RS)を用いて測定を行った。SSTの実施時間は合計300秒とし,大腿後面に痛みの出る直前の膝関節伸展角度にて行った。実験は,伸張角度の再設定を,1)行わない場合(300秒×1回群),2)60秒毎に行う場合(60秒×5回群),3)30秒毎に行う場合(30秒×10回群)の3条件で行った。評価指標はstiffness,最大動的トルク,ROMを用い,測定開始肢位から大腿後面に痛みの出る直前の膝関節伸展角度まで5°/秒の角速度で他動的に伸展させた際のトルク-角度曲線より求めた。Stiffnessは膝関節最大伸展角度からその50%の角度までの回帰曲線の傾きと定義し,最大動的トルク及びROMはそれぞれ膝関節最大伸展角度における値とした。実験はまず,stiffness,最大動的トルク,ROMを測定し,15分の休憩後,各条件のSSTを行い,同時に静的トルクと伸張角度を測定した。SST終了後は,再びSST前と同じ手順でstiffness,最大動的トルク,ROMを測定し,SST前後の値を比較した。なお,被験者は,全ての実験を24時間以上の間隔を設け行った。
【結果】
SST中の静的トルクは,全ての群において,低下が確認された。伸張角度の再設定を行った60秒×5回群と30秒×10回群では再設定後に伸張角度と静的トルクの増加が確認された。Stiffnessは,SST終了後に全ての群で有意に低下した。最大動的トルクおよびROMは,SST終了後に全ての群で有意に増加した。Stiffnessの変化率は,300秒×1回群よりも60秒×5回群ならびに30秒×10回群の方がそれぞれ有意に低値を示した。最大動的トルクの変化率は,300秒×1回群よりも30秒×10回群の方が有意に高値を示した。ROMの変化率は,300秒×1回群よりも60秒×5回群ならびに30秒×10回群の方がそれぞれ有意に高値を示した。
【考察】
本研究結果より,SST中の静的トルクが全ての群で低下したことから,SSTが適切になされたことが確認された。また,伸張角度の再設定を行わない300秒×1回群よりも伸張角度の再設定を行った60秒×5回群,30秒×10回群の方がROMが増加した。ROMの増加の要因は,伸張に対する痛み閾値を反映するとされる最大動的トルクの増加と筋腱複合体の粘弾性などの力学的特性を反映するとされるstiffnessの低下の関与が報告されている。このことから,本研究では,再設定を行った2群の方が再設定を行わない300秒×1回群よりも最大動的トルクの増加およびstiffnessの低下が大きかったため,ROMの増加が大きくなったと考えられる。先行研究にて,静的トルクを一定に保つストレッチング後のROMの増加とstiffnessの低下は伸張角度を一定に保つストレッチングよりも大きくなり,その要因として対象筋に加える張力の増加が報告されており,今回の結果では再設定後に静的トルクの増加が確認されたことから同様な要因が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
SSTを施行する際はSSTを一定時間伸張し続けるよりも,繰り返し伸張角度を再設定して行った方がstiffness,最大動的トルク,ROMの改善効果が認められることが示唆される。
静的ストレッチング(static stretching:以下,SST)は,即時的に柔軟性を改善することが広く知られている。近年,SSTの伸張強度が高いほど柔軟性改善効果は大きくなるが,高強度SSTの実施中には伸張部位に疼痛を伴うことが報告されている。そのため,痛みを伴わずに大きな柔軟性改善効果を得るSST方法の検討は,効果的かつ効率的なSST実践に向けた方法論の確立に寄与すると考えられる。一方,SST中の変化に着目すると,他動的な抵抗の指標である静的トルクは時間経過とともに次第に低下することから,対象筋に加わる張力は相対的に減弱する。したがって,「痛みの出る直前」の伸張角度でSSTを実施した後,改めて「痛みの出る直前」の伸張角度を再設定し,再びSSTを実施することで,より大きな柔軟性改善効果を得ることが期待できる。しかし,このSST方法や再設定の頻度による柔軟性改善効果は明らかではない。そこで,本研究はSSTにおける伸張角度の再設定が柔軟性に与える影響について検討することを目的とした。
【方法】
被験者は健常学生12名(男性8名,女性4名,平均年齢21.4±0.9歳)とし,対象筋は右ハムストリングスとした。被験者は股関節および膝関節をそれぞれ約110°屈曲した座位(以下,測定開始肢位)をとり,等速性運動機器(BTE社製PRIMUS RS)を用いて測定を行った。SSTの実施時間は合計300秒とし,大腿後面に痛みの出る直前の膝関節伸展角度にて行った。実験は,伸張角度の再設定を,1)行わない場合(300秒×1回群),2)60秒毎に行う場合(60秒×5回群),3)30秒毎に行う場合(30秒×10回群)の3条件で行った。評価指標はstiffness,最大動的トルク,ROMを用い,測定開始肢位から大腿後面に痛みの出る直前の膝関節伸展角度まで5°/秒の角速度で他動的に伸展させた際のトルク-角度曲線より求めた。Stiffnessは膝関節最大伸展角度からその50%の角度までの回帰曲線の傾きと定義し,最大動的トルク及びROMはそれぞれ膝関節最大伸展角度における値とした。実験はまず,stiffness,最大動的トルク,ROMを測定し,15分の休憩後,各条件のSSTを行い,同時に静的トルクと伸張角度を測定した。SST終了後は,再びSST前と同じ手順でstiffness,最大動的トルク,ROMを測定し,SST前後の値を比較した。なお,被験者は,全ての実験を24時間以上の間隔を設け行った。
【結果】
SST中の静的トルクは,全ての群において,低下が確認された。伸張角度の再設定を行った60秒×5回群と30秒×10回群では再設定後に伸張角度と静的トルクの増加が確認された。Stiffnessは,SST終了後に全ての群で有意に低下した。最大動的トルクおよびROMは,SST終了後に全ての群で有意に増加した。Stiffnessの変化率は,300秒×1回群よりも60秒×5回群ならびに30秒×10回群の方がそれぞれ有意に低値を示した。最大動的トルクの変化率は,300秒×1回群よりも30秒×10回群の方が有意に高値を示した。ROMの変化率は,300秒×1回群よりも60秒×5回群ならびに30秒×10回群の方がそれぞれ有意に高値を示した。
【考察】
本研究結果より,SST中の静的トルクが全ての群で低下したことから,SSTが適切になされたことが確認された。また,伸張角度の再設定を行わない300秒×1回群よりも伸張角度の再設定を行った60秒×5回群,30秒×10回群の方がROMが増加した。ROMの増加の要因は,伸張に対する痛み閾値を反映するとされる最大動的トルクの増加と筋腱複合体の粘弾性などの力学的特性を反映するとされるstiffnessの低下の関与が報告されている。このことから,本研究では,再設定を行った2群の方が再設定を行わない300秒×1回群よりも最大動的トルクの増加およびstiffnessの低下が大きかったため,ROMの増加が大きくなったと考えられる。先行研究にて,静的トルクを一定に保つストレッチング後のROMの増加とstiffnessの低下は伸張角度を一定に保つストレッチングよりも大きくなり,その要因として対象筋に加える張力の増加が報告されており,今回の結果では再設定後に静的トルクの増加が確認されたことから同様な要因が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
SSTを施行する際はSSTを一定時間伸張し続けるよりも,繰り返し伸張角度を再設定して行った方がstiffness,最大動的トルク,ROMの改善効果が認められることが示唆される。