[O-0749] プレコンディションニングとしての温熱刺激が高強度スタティック・ストレッチングに与える影響について
Keywords:スタティック・ストレッチング, 温熱刺激, 柔軟性
【はじめに,目的】
スタティック・ストレッチング(static stretching:以下,SST)には,即時的な柔軟性改善効果が知られている。先行研究では伸張強度が高いほど,柔軟性改善効果は大きく,その効果持続時間は延長したと報告されており,高強度SSTはより柔軟性改善に効果的であることが示唆されている。また,臨床現場では温熱刺激が疼痛緩和などを目的に使用されており,SSTと併用することでROMの改善効果がより大きくなることが先行研究において示されている。しかし,伸張強度の異なるSSTと温熱刺激との併用による柔軟性改善効果を経時的に比較・検討した報告はない。そこで,本研究はプレコンディショニングとしての温熱刺激が異なる伸張強度のSSTに与える影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】
被験者は健常学生17名(男性10名,女性7名,平均年齢21.7±0.9歳)とし,対象筋は右ハムストリングスとした。被験者は股関節及び膝関節をそれぞれ約110°屈曲した座位(以下,測定開始肢位)をとり,等速性運動機器(BTE社製品PRIMUS RS)を用いて測定を行った。SSTは大腿後面に痛みの出る直前の膝関節伸展角度を100%とし,100%,120%(以下,100%群,120%群)のいずれかの伸張強度にて300秒間保持して行った。また,SST中は静的トルクを測定し,1分毎に痛みの強度をNumerical Rating Scale(以下,NRS)にて聴取した。柔軟性の評価指標には,stiffness,最大動的トルク,ROMを用い,測定開始肢位から膝関節伸展角度まで5°/秒の角速度で他動的に伸展させた際のトルク-角度曲線より求めた。Stiffnessは膝関節最大伸展角度からその50%の角度までの回帰曲線の傾きと定義し,最大動的トルク及びROMはそれぞれ膝関節最大伸展角度における値とした。温熱刺激には加温器で84℃に設定された乾熱式ホットパック(以下,HP)(山一社製品Cat-belly)を用いた。温熱刺激は測定開始肢位で右大腿部後面を20分間加温した。実験は,まず柔軟性の各評価指標を測定し,20分間の安静またはHPによる加温を行った。その後,各評価指標を再測定した後,いずれかの伸張強度のSSTを行い,SST直後から15分毎に90分後まで経時的に各評価指標の測定を繰り返した。被験者は,100%群,HP+100%群,120%群,HP+120%群の4種類すべてにランダムな順番で参加し,24時間以上の間隔を設け行った。統計処理には,Wilcoxonの符号付順位和検定及びSpearmanの順位相関係数を用いた。有意水準は危険率5%未満とした。
【結果】
HP+100%群及びHP+120%群はHP直後に最大動的トルク,ROMが有意に増加したが,stiffnessには有意な変化は認められなかった。SST中のNRSは120%群とHP+120%群との間に有意な変化を認めなかった。静的トルクはすべての群でSST前と比較し,SST後に有意に低下したが,その変化量はHP+120%群が最大となり,100%群及びHP+100%群と比較して有意に大きかった。Stiffnessの変化率はHP+120%群のみSST施行15分後まで有意差を認め,100%群との間に有意差が認められた。また,静的トルク変化量とSST直後のstiffness変化率との間に有意な負の相関関係を認めた。
【考察】
本研究結果より,ハムストリングスに対するHPの温熱効果は,最大動的トルク及びROMを増加させた。最大動的トルクは先行研究より,痛みを誘発するのに必要な伸張量であり,その値は伸張刺激に対する痛み閾値を反映する指標として用いられている。そのため,痛み閾値の変化がROMの増加に寄与したと考えられる。また,先行研究において静的トルクの低下量が大きいほど,stiffnessの低下率が大きくなることが報告されており,本研究においても同様の結果を示した。また,先行研究からSSTによる静的トルクの低下には神経学的な要因よりも力学的なストレス緩和が主に関与していることが示されている。これらのことから,HPと高強度SSTの併用による静的トルクの低下にも,力学的なストレス緩和の関与が伺われた。
【理学療法研究としての意義】
本研究より,温熱とSSTという異なる2つの刺激の併用による柔軟性改善効果や効果持続時間を把握することは,目的に沿ったより有効なストレッチングを施行する一助になると考える。
スタティック・ストレッチング(static stretching:以下,SST)には,即時的な柔軟性改善効果が知られている。先行研究では伸張強度が高いほど,柔軟性改善効果は大きく,その効果持続時間は延長したと報告されており,高強度SSTはより柔軟性改善に効果的であることが示唆されている。また,臨床現場では温熱刺激が疼痛緩和などを目的に使用されており,SSTと併用することでROMの改善効果がより大きくなることが先行研究において示されている。しかし,伸張強度の異なるSSTと温熱刺激との併用による柔軟性改善効果を経時的に比較・検討した報告はない。そこで,本研究はプレコンディショニングとしての温熱刺激が異なる伸張強度のSSTに与える影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】
被験者は健常学生17名(男性10名,女性7名,平均年齢21.7±0.9歳)とし,対象筋は右ハムストリングスとした。被験者は股関節及び膝関節をそれぞれ約110°屈曲した座位(以下,測定開始肢位)をとり,等速性運動機器(BTE社製品PRIMUS RS)を用いて測定を行った。SSTは大腿後面に痛みの出る直前の膝関節伸展角度を100%とし,100%,120%(以下,100%群,120%群)のいずれかの伸張強度にて300秒間保持して行った。また,SST中は静的トルクを測定し,1分毎に痛みの強度をNumerical Rating Scale(以下,NRS)にて聴取した。柔軟性の評価指標には,stiffness,最大動的トルク,ROMを用い,測定開始肢位から膝関節伸展角度まで5°/秒の角速度で他動的に伸展させた際のトルク-角度曲線より求めた。Stiffnessは膝関節最大伸展角度からその50%の角度までの回帰曲線の傾きと定義し,最大動的トルク及びROMはそれぞれ膝関節最大伸展角度における値とした。温熱刺激には加温器で84℃に設定された乾熱式ホットパック(以下,HP)(山一社製品Cat-belly)を用いた。温熱刺激は測定開始肢位で右大腿部後面を20分間加温した。実験は,まず柔軟性の各評価指標を測定し,20分間の安静またはHPによる加温を行った。その後,各評価指標を再測定した後,いずれかの伸張強度のSSTを行い,SST直後から15分毎に90分後まで経時的に各評価指標の測定を繰り返した。被験者は,100%群,HP+100%群,120%群,HP+120%群の4種類すべてにランダムな順番で参加し,24時間以上の間隔を設け行った。統計処理には,Wilcoxonの符号付順位和検定及びSpearmanの順位相関係数を用いた。有意水準は危険率5%未満とした。
【結果】
HP+100%群及びHP+120%群はHP直後に最大動的トルク,ROMが有意に増加したが,stiffnessには有意な変化は認められなかった。SST中のNRSは120%群とHP+120%群との間に有意な変化を認めなかった。静的トルクはすべての群でSST前と比較し,SST後に有意に低下したが,その変化量はHP+120%群が最大となり,100%群及びHP+100%群と比較して有意に大きかった。Stiffnessの変化率はHP+120%群のみSST施行15分後まで有意差を認め,100%群との間に有意差が認められた。また,静的トルク変化量とSST直後のstiffness変化率との間に有意な負の相関関係を認めた。
【考察】
本研究結果より,ハムストリングスに対するHPの温熱効果は,最大動的トルク及びROMを増加させた。最大動的トルクは先行研究より,痛みを誘発するのに必要な伸張量であり,その値は伸張刺激に対する痛み閾値を反映する指標として用いられている。そのため,痛み閾値の変化がROMの増加に寄与したと考えられる。また,先行研究において静的トルクの低下量が大きいほど,stiffnessの低下率が大きくなることが報告されており,本研究においても同様の結果を示した。また,先行研究からSSTによる静的トルクの低下には神経学的な要因よりも力学的なストレス緩和が主に関与していることが示されている。これらのことから,HPと高強度SSTの併用による静的トルクの低下にも,力学的なストレス緩和の関与が伺われた。
【理学療法研究としての意義】
本研究より,温熱とSSTという異なる2つの刺激の併用による柔軟性改善効果や効果持続時間を把握することは,目的に沿ったより有効なストレッチングを施行する一助になると考える。