[O-0765] 非接触型膝前十字靭帯損傷者の受傷前におけるDrop vertical jump中の初期接地時膝外反角度と膝関節運動の特徴
キーワード:膝前十字靭帯損傷, 着地動作, 膝関節キネマティクス
【はじめに,目的】
膝前十字靭帯(ACL)損傷は頻発するスポーツ外傷であり,それに伴う損失は莫大なものである。Drop vertical jump(DVJ)中の初期接地(IC)時膝外反角度の増大がACL損傷の主要なリスクファクターであると報告されているが,ACL損傷者と同程度の膝外反角度を呈する非損傷者が多く存在し,膝外反角度のみでACL損傷リスクの判断は不十分である。この問題点として,動作中の一時点のみの膝関節キネマティクスしか評価していないことが挙げられる。ACL損傷の危険因子に関して,動作中の膝関節キネマティクスを連続的に評価した研究は存在しない。本研究の目的はACL損傷者の受傷前におけるIC時膝外反角度と膝関節運動を非損傷者と比較し特徴を明らかにすることとした。
【方法】
本研究は1年間の前向きコホート研究における3ヶ月時点の中間報告である。対象は高校女子バスケットボール,バレーボール部に所属する者35名とした。除外基準は測定時に整形外科的疾患・内科的リスクを有する者とした。動作課題は30cm台から着地後直ぐに最大垂直跳びを行うDVJとし,反射マーカーを上前腸骨棘(ASIS)と膝蓋骨中央,足関節中央,大転子,大腿骨外側上顆,外果に貼付した。市販のビデオカメラにてDVJを前額面と矢状面の2方向より撮影した。解析対象は着地中のICから膝最大屈曲(MKF)時とした。解析は撮影した動画をQuickTime Playerにて60fpsの静止画に変換した後,解析ソフトImage Jにて膝外反角度と屈曲角度を算出した。膝外反角度はASISと膝蓋骨中央,足関節中央の3点,膝屈曲角度は大転子と大腿骨外側上顆,外果の3点がなす角度を180°から差し引いた角度と定義し,正の値を膝内反,負の値を膝外反とした。膝関節運動の指標として,Relative frontal motion(RFM)を考案した。これは1/60秒間の膝屈曲角度変化量を膝前額面角度変化量で除して算出する。ICからMKFの間にRFMの値が1以上(1/60秒間に膝屈曲角度より膝前額面角度の変化の方が大きい)となった回数をカウントした。各膝関節キネマティクスの算出後に,ACL損傷発生の追跡調査を実施した。
【結果】
本研究の対象者数は35名中,33名であった。2名は測定時に整形外科的疾患を有しており,対象者から除外した。追跡期間中にACL損傷は1件発生した。ACL損傷者1名,非損傷者32名であるため,統計解析は未実施である。ACL損傷者の年齢は15歳,身長は170cm,体重は63.1kg,非損傷者の平均年齢は16歳,身長は160.8cm,体重は54.7kgであった。IC時膝外反角度はACL損傷者3.6°,非損傷者-3.4°,1以上のRFMはACL損傷者3回,非損傷者2回であった。
【考察】
現在まで動作中の膝外反角度の増加がACL損傷の主要なリスクファクターであると考えられている。Hewettらは,非損傷者と比較しACL損傷者の方がIC時の膝外反角度が大きいことを前向き研究にて明らかにした。本研究はACL損傷者のIC時膝外反角度は膝内反位であり,先行研究とは異なる傾向を示した。IC時の膝外反角度によるACL損傷リスクの評価は不十分かもしれないが,統計的に検討が行えていないため継続的な調査が必要である。本研究ではRFMが1以上となる回数をアウトカムとした。RFMが1以上となる場合は膝屈曲角度の変化量よりも膝前額面角度の変化量の方が増加していることを指す。膝屈曲角度が漸増的に増加する着地動作において,矢状面変化よりも前額面変化量が大きくなるのは正常とは異なる膝関節運動の可能性がある。今後は一時点の膝関節前額面角度だけでなく,膝屈曲角度に対する前額面角度の変化量や,その運動方向等にも着目し,動作を連続的に評価する必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究結果は着地動作中の膝外反角度のみではACL損傷リスクの評価は不十分である可能性と,動作中に膝屈曲角度変化量に対し前額面角度変化量の方が大きくなるタイミングが存在することが示された。臨床においては,動作中の膝外反の増減だけでなく,膝関節の動態も評価することが必要かもしれない。
膝前十字靭帯(ACL)損傷は頻発するスポーツ外傷であり,それに伴う損失は莫大なものである。Drop vertical jump(DVJ)中の初期接地(IC)時膝外反角度の増大がACL損傷の主要なリスクファクターであると報告されているが,ACL損傷者と同程度の膝外反角度を呈する非損傷者が多く存在し,膝外反角度のみでACL損傷リスクの判断は不十分である。この問題点として,動作中の一時点のみの膝関節キネマティクスしか評価していないことが挙げられる。ACL損傷の危険因子に関して,動作中の膝関節キネマティクスを連続的に評価した研究は存在しない。本研究の目的はACL損傷者の受傷前におけるIC時膝外反角度と膝関節運動を非損傷者と比較し特徴を明らかにすることとした。
【方法】
本研究は1年間の前向きコホート研究における3ヶ月時点の中間報告である。対象は高校女子バスケットボール,バレーボール部に所属する者35名とした。除外基準は測定時に整形外科的疾患・内科的リスクを有する者とした。動作課題は30cm台から着地後直ぐに最大垂直跳びを行うDVJとし,反射マーカーを上前腸骨棘(ASIS)と膝蓋骨中央,足関節中央,大転子,大腿骨外側上顆,外果に貼付した。市販のビデオカメラにてDVJを前額面と矢状面の2方向より撮影した。解析対象は着地中のICから膝最大屈曲(MKF)時とした。解析は撮影した動画をQuickTime Playerにて60fpsの静止画に変換した後,解析ソフトImage Jにて膝外反角度と屈曲角度を算出した。膝外反角度はASISと膝蓋骨中央,足関節中央の3点,膝屈曲角度は大転子と大腿骨外側上顆,外果の3点がなす角度を180°から差し引いた角度と定義し,正の値を膝内反,負の値を膝外反とした。膝関節運動の指標として,Relative frontal motion(RFM)を考案した。これは1/60秒間の膝屈曲角度変化量を膝前額面角度変化量で除して算出する。ICからMKFの間にRFMの値が1以上(1/60秒間に膝屈曲角度より膝前額面角度の変化の方が大きい)となった回数をカウントした。各膝関節キネマティクスの算出後に,ACL損傷発生の追跡調査を実施した。
【結果】
本研究の対象者数は35名中,33名であった。2名は測定時に整形外科的疾患を有しており,対象者から除外した。追跡期間中にACL損傷は1件発生した。ACL損傷者1名,非損傷者32名であるため,統計解析は未実施である。ACL損傷者の年齢は15歳,身長は170cm,体重は63.1kg,非損傷者の平均年齢は16歳,身長は160.8cm,体重は54.7kgであった。IC時膝外反角度はACL損傷者3.6°,非損傷者-3.4°,1以上のRFMはACL損傷者3回,非損傷者2回であった。
【考察】
現在まで動作中の膝外反角度の増加がACL損傷の主要なリスクファクターであると考えられている。Hewettらは,非損傷者と比較しACL損傷者の方がIC時の膝外反角度が大きいことを前向き研究にて明らかにした。本研究はACL損傷者のIC時膝外反角度は膝内反位であり,先行研究とは異なる傾向を示した。IC時の膝外反角度によるACL損傷リスクの評価は不十分かもしれないが,統計的に検討が行えていないため継続的な調査が必要である。本研究ではRFMが1以上となる回数をアウトカムとした。RFMが1以上となる場合は膝屈曲角度の変化量よりも膝前額面角度の変化量の方が増加していることを指す。膝屈曲角度が漸増的に増加する着地動作において,矢状面変化よりも前額面変化量が大きくなるのは正常とは異なる膝関節運動の可能性がある。今後は一時点の膝関節前額面角度だけでなく,膝屈曲角度に対する前額面角度の変化量や,その運動方向等にも着目し,動作を連続的に評価する必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究結果は着地動作中の膝外反角度のみではACL損傷リスクの評価は不十分である可能性と,動作中に膝屈曲角度変化量に対し前額面角度変化量の方が大きくなるタイミングが存在することが示された。臨床においては,動作中の膝外反の増減だけでなく,膝関節の動態も評価することが必要かもしれない。