第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述103

運動制御・運動学習7

Sun. Jun 7, 2015 12:00 PM - 1:00 PM 第7会場 (ホールD5)

座長:藤澤宏幸(名古屋大学大学院 医学系研究科リハビリテーション療法学)

[O-0769] 立位における随意的前方重心移動時の姿勢制御戦略と静的・動的バランスの関連性について

落合都1,2, 西田宗幹3, 淵岡聡1 (1.大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科, 2.介護老人保健施設鴻池荘訪問リハビリテーション, 3.秋津鴻池病院)

Keywords:姿勢制御, 静的バランス, 動的バランス

【はじめに,目的】
一般にバランスは支持基底面の移動を伴わない静的バランスと支持基底面が移動する動的バランスに分けられ,立位における姿勢制御には足関節戦略,股関節戦略,踏み出し戦略が用いられるとされている。静的バランスと動的バランスとの関連や,安定性限界と姿勢制御戦略の関連についての報告はみられるが,姿勢制御戦略と静的・動的バランスの関連について一定の見解は得られていない。そこで本研究では,立位で重心を随意的に前方移動させる際の姿勢制御戦略と静的バランスおよび動的バランスの関連性を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は健常成人女性20名(年齢25.2±1.9歳,身長155.9±4.8cm,体重52.9±6.1kg)とし,バランスに影響する整形外科疾患および神経疾患は除外した。測定項目は,年齢,身長,体重,静止立位,前方重心移動距離,5m歩行時間とした。静止立位は重心軌跡測定器(T.K.K581,竹井機器工業株式会社製)を用いて60秒間の閉脚立位にて行い,総軌跡長,単位時間軌跡長,外周面積,矩形面積を測定した。前方重心移動距離は,閉脚立位で重心を随意的に前方移動させた際の重心移動距離を床反力計・三次元動作解析装置(VICON NEXUS,Vicon Motion Systems社製)を用いて測定した。歩行時間は,全長11mの歩行路における中間5mの最速歩行時間をストップウォッチを用いて測定した。随意的な前方重心移動動作の分析から姿勢制御戦略を以下のように決定した上で2群に分類し,各測定項目について群間で比較した。2群の分類は,股関節屈曲10°未満で,且つ足関節が背屈するものを足関節戦略群(AS群)とし,股関節屈曲10°以上で,且つ足関節底屈位となるものを股関節戦略群(HS群)とした。尚,各項目の関連についてはPearsonの積率相関係数を算出して検討し,群間比較には対応のないt検定を用いた。有意水準は5%未満とした。
【結果】
立位において随意的に重心を前方移動させた際の姿勢制御戦略はAS群11名(年齢25.9±1.6歳,身長157.0±4.6cm,体重52.6±6.3kg)とHS群9名(年齢24.3±1.8歳,身長154.5±4.6cm,体重53.2±5.9kg)であった。両群間での年齢,身長,体重に有意な差はなかった。測定結果はAS群,HS群の順に,静止立位時の総軌跡長807.58±149.71mm,913.73±28.43mm,単位時間軌跡長13.47±2.5mm/sec,15.24±2.12mm/sec,外周面積335.83±112.32mm2,522.01±212.08 mm2,矩形面積539.34±204.96mm2,847.3±396.7 mm2,前方重心移動距離114.01±22.26mm,77.36±28.43 mm,5m歩行時間2.15±0.3秒,2.4±0.15秒であった。各項目の間に特筆すべき関連はみられなかった。2群間の比較では,AS群において前方重心移動距離は有意に大きく(p<0.01),静止立位時の外周面積,矩形面積,5m歩行時間は有意に小さかった(p<0.05)。その他の項目に有意な差はみられなかった。
【考察】
結果より,立位で随意的に重心を前方移動させる運動課題を足関節戦略により行う方が,静止立位保持における安定性および歩行能力が高いことが明らかとなり,足関節戦略の方が股関節戦略より静的バランス,動的バランスともに優れている可能性が示唆された。立位における重心移動距離はAS群において有意に大きいことから,足関節戦略は股関節戦略より大きな重心制御が可能であると考えられる。歩行は重心の前方移動の連続であり,立位において大きな重心移動が可能な足関節戦略の方が前方への重心移動に対する安定性が高く,歩行時間が有意に短くなったと考えられる。また,先行研究において足関節戦略は股関節戦略と比べて速い運動が可能で,微細な制御が可能とされていることから,AS群は静止立位においても微細な制御が可能であり,静止立位における外周面積,矩形面積が小さかったと考えられる。足関節戦略での運動制御は股関節戦略に比べ,足関節背屈可動域と足関節底屈筋力が必要と言われており,今回の結果と合わせて,足部の機能に対する運動療法が,静的バランスおよび動的バランスの両者の改善を図れる可能性があることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
姿勢制御戦略と静的・動的バランスの関連が明らかになったことで,足関節戦略を練習することで,バランス機能の向上が図れる可能性があることを示した点。