第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述103

運動制御・運動学習7

Sun. Jun 7, 2015 12:00 PM - 1:00 PM 第7会場 (ホールD5)

座長:藤澤宏幸(名古屋大学大学院 医学系研究科リハビリテーション療法学)

[O-0770] 被験者と他者の足趾三人称イメージを用いた脳活動の比較について

~イメージ課題と運動実行課題の脳活動のfMRI研究~

牧野均1, 生駒一憲2 (1.北海道文教大学人間科学部理学療法学科, 2.北海道大学病院)

Keywords:三人称イメージ, ブロードマンエリア9野, 腹側運動前野

【目的】運動イメージを利用しパフォーマンスを向上させる報告が多数なされている。運動イメージは大別して一人称イメージと三人称イメージがある。三人称イメージとは他者が行っているのを見ているかのような運動イメージである。実際の治療場面で麻痺した手足に治療を行う場合,脳内のイメージのみならず鏡に映った自分自身の足を見ながら動くことをイメージすることや向かいに座った治療者の足の動きを見ながら動くことをイメージして治療を行うことがある。今回,被験者本人の足趾と治療者としての他者を想定した足趾三人称イメージの映像を用いて,運動を実際に行った場合と麻痺した足を想定し運動することをイメージした場合の脳活動について機能的磁気共鳴画像(fMRI)を用いて比較検討を行ったので報告する。

【方法】対象は,21-23歳の健常者17名(男性9名,女性8名)とした。方法は,今回,三人称映像として鏡に映った自分自身を想定した映像と向かいに座った治療者を想定した他者の映像を用いた。課題は,MRI装置の中から背臥位にてプリズムメガネでスクリーン上に投影された足趾動作の映像を模倣することとした。スクリーン上に投影される映像は,下腿以下の足趾三人称イメージとし,予め撮影した被験者本人と他者の左足趾映像とした。提示する映像の足趾動作は,足趾を開いた状態から第1趾を握り,そして残り4足趾を握る動作とした。課題は,映し出された映像に合わせて被験者の右足趾を実際に動かす「運動実行」課題と実際には動かさずに動かすことをイメージする「イメージ」課題,動く足趾を見る「見」課題とした。それぞれの課題を被験者自身の映像と他者の映像を組み合わせて2セッション計8分間行い,課題中の脳活動を測定した。fMRIの撮影は,所属する機関のMRI室GE製MRIスキャナSigna Lightning(1.5T)を用いた。撮像パラメータは,TE 40,TR 3000,Flip Angle 90,Slice Thickness 4.0,Spacing 1.0,スライス枚数22である。解析は,MathWorks社製数値計算ソフトMatlabとSPM8を組み合わせて行った。統計処理は,SPM8上のfamily wise errorで統計的推論を行い,p<0.05を有意水準として行った。脳賦活部位の同定は,SPM8で出力される標準脳のMNI座標系をMATLAB上でmni2talにて変換し,その後Talairach Daemon ClientにてTalairach座標に変換してBrodmann areaの決定を行なった。この設定の下で,被験者自身の足趾と他者の足趾の三人称イメージ映像に合わせて,「運動実行」課題,「イメージ」課題,「見」課題を行い比較検討した。

【結果】被験者自身の映像を用いての「運動実行」課題と他者の映像を用いての「運動実行」課題での比較では有意な差が無かった。被験者自身の映像を用いての「イメージ」課題と他者の映像を用いての「イメージ」課題での比較では有意な差が無かった。被験者自身の映像を用いての「見」課題と他者の映像を用いての「見」課題での比較では有意な差が無かった。他者の映像を見て足趾運動をイメージする「イメージ」課題と被験者自身の映像を見て足趾運動を実際に動かす「運動実行」課題の比較では,他者の足を見て足趾運動をイメージする「イメージ」課題の方が有意に左脳Brodmann area9野(以下BA9)の後方腹側領域で44野(BA44)背側近傍部・6野(BA6)腹側運動前野前方近傍部の賦活を生じた。

【考察】今回,自己の足趾を見て「運動実行」課題を行うことと比較し他者の映像を見て「イメージ」課題を行う方が左BA9後方腹側領域の賦活が生じた。BA9は動きの判断に関与し広義の背側経路で運動の順序や企画を担う。近接するBA44とBA6はミラーニューロンの重要な一部である。今回の研究でも他者のイメージ課題でミラーニューロンが賦活した可能性がある。他者の動きを認識し自己の動きと重ね合わせる場合,ミラーニューロンの働きが必須である。この領域は,他者の足趾動作をイメージする際に関与することが示唆される。

【理学療法学研究としての意義】治療場面で視覚的な模倣を行う場合,治療者の立ち位置により被治療者の脳賦活部位が変化することが示唆される。今回の研究をリハビリテーションに応用する場合,重度の麻痺を呈した症例の鏡を使用した治療においても,セラピストが他動的に動かすことによって,自分の足であることを認識しつつ運動を企画し,同部位を賦活することが可能と考える。