第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述106

神経・筋機能制御2

2015年6月7日(日) 12:00 〜 13:00 第10会場 (ガラス棟 G602)

座長:高木峰子(神奈川県立保健福祉大学)

[O-0787] キセノン光の星状神経節近傍照射を用いた精神的ストレス負荷軽減の可能性に関する検討

花田真澄1, 吉田英樹2, 片石悠介1, 谷脇雄次1, 志田航平1, 嶋田有紗1, 天坂興1, 中村洋平1, 前田貴哉2,3, 照井駿明2,4 (1.弘前大学医学部保健学科理学療法学専攻, 2.弘前大学大学院保健学研究科, 3.医療法人整友会弘前記念病院リハビリテーション科, 4.地方独立行政法人秋田県立病院機構秋田県立脳血管研究センター機能訓練部)

キーワード:キセノン光, 星状神経節, 精神的ストレス負荷

【はじめに,目的】
精神的ストレスは,交感神経活動の亢進を主体とした自律神経活動の変調を誘発し,胃腸障害や慢性疼痛,免疫力低下などの様々な問題を引き起こす原因となる。キセノン光の星状神経節近傍照射(Xe-LISG)は,交感神経活動を非侵襲的に抑制できることが近年の研究結果から示されており,その作用から精神的ストレスの軽減も期待できると考える。以上から本研究の目的は,キセノン光の星状神経節近傍照射を用いた精神的ストレス負荷軽減の可能性について検討することとした。
【方法】
若年健常者17名(女性8名,男性9名,年齢21.9±1.9歳)を対象とし,以下の2つの実験を実験順序をランダムとして,1日以上の間隔を空け実施した。<実験1>対象者は,10分間の安静背もたれ座位(馴化)終了後,精神的ストレス負荷としてイヤホンを介した5kHzの音刺激を聞きながら内田クレペリン検査(連続加算作業)に15分間取り組み,その後に馴化と同一肢位でのXe-LISG(照射対象:両側の星状神経節)を10分間受けた。<実験2>対象者は実験1と同様に,馴化終了後に連続加算作業に取り組み,その後はXe-LISGを伴わない安静背もたれ座位を10分間保持した(コントロール)。なお,本研究で採用した精神的ストレス負荷を加える手法の安全性については,先行研究で既に確認されている(荒木田,2007., etc.)。測定では,交感神経活動および精神的ストレスと関連する生理学的指標として既に確立された心拍変動と前頭前皮質脳血流量を採用した。心拍変動については,心拍計(RS800CX,Polar)を用いて,各実験の開始から終了まで連続測定した。前頭前皮質脳血流量については,本研究で採用した精神的ストレス負荷である連続加算作業と関連が深いと考えられる左大脳半球に注目し,近赤外線分光分析装置(OEG-16,Spectratech)を用いて,国際10-20法のFp1に近似するチャンネルから取得された酸素化ヘモグロビン量(Fp1-HbO2,単位:mmol/mm)を各実験の開始から終了まで連続測定した。さらに,心理学的指標として,日本語版POMS短縮版(POMS)の総合感情障害指標(Total Mood Disturbance:TMD)を用いて,対象者の気分・感情状態を各実験のXe-LISGおよびコントロール終了時に測定した。心拍変動の分析では,各実験の全心拍変動データを対象とした周波数解析を行い,交感神経活動の指標である低周波数成分と高周波数成分の比(LF/HF,単位:%)を求めた。その上で各実験間の値をMann-WhitneyのU検定にて比較した。Fp1-HbO2の分析では,各実験の馴化中の平均値を基準値とし,Xe-LISGとコントロールとの間での2分毎(0~2分,2~4分,4~6分,6~8分,8~10分)の平均値の基準値からの経時的変化をStudentのt検定(Bonferroni補正)にて検討した。TMDの分析では,各実験間の値をMann-WhitneyのU検定にて比較した。全ての統計学的検定の有意水準は5%とした。
【結果】
LF/HF(中央値)では,実験2(142.5)と比較して実験1(105.0)での有意な低下を認めた。Fp1-HbO2(平均値)では,統計学的有意ではないものの,実験2のコントロール中(0~2分:-0.01,2~4分:0.00,4~6分:0.02,6~8分:0.02,8~10分:0.02)と比較して実験1のXe-LISG中(0~2分:-0.01,2~4分:0.00,4~6分:-0.01,6~8分:-0.02,8~10分:-0.01)での低下傾向を認めた。TMD(中央値)では,実験1(106.0)と実験2(107.0)の間で明らかな違いを認めなかった。
【考察】
本研究結果は,心理学的指標ではXe-LISGによる精神的ストレス負荷の明らかな軽減効果を認めなかったものの,生理学的指標では交感神経活動の抑制および左前頭前皮質の活動の沈静化が認められた。本研究で認められた生理学的指標の変化は,いずれもヒトの精神的ストレスが軽減された際に認められる現象であることが先行研究で確認されている(Ishikawa, 2013., Igarashi, 2014., etc.)。このことから,Xe-LISGによる精神的ストレス負荷軽減の可能性が部分的に認められたと考える。本研究では,若年健常者に連続計算作業という一過性の精神的ストレスを負荷したものであり,実際の精神的ストレス負荷よりも軽度であった可能性は否定できない。今後,日常的な精神的ストレス暴露下にある対象者での追加検討が必要である。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,Xe-LISGを用いた精神的ストレス負荷の軽減効果について検討した初めての報告であり,Xe-LISGのメンタルヘルス面への応用の可能性といった波及効果の観点から意義が大きいと考える。