[O-0789] 超音波照射による関節可動域の変化―筋硬度と感覚閾値および組織温度との関連性―
Keywords:超音波, 関節可動域, 組織温度
【はじめに】
超音波療法は,組織温度の上昇,コラーゲン線維の伸張性増加などの生物物理学的効果を有することから,関節可動域(ROM)制限に対する物理療法として臨床応用されている。このため先行研究では,ROMを指標とした効果検証が多くなされている。しかし,ROMの変化には軟部組織の粘弾性や感覚閾値が影響することから,ROMの効果検証にはこれらの評価を複合させる必要がある。本研究では,軟部組織の粘弾性や感覚閾値の評価に筋硬度や圧痛閾値および伸張痛閾値を指標に検討した。さらに,これらの生理学的指標と関連する表面温度と深部温度などの組織温度を評価項目に加えた。本研究の目的は,ROMに対する超音波照射の効果を検証することと,ROMに影響する筋硬度や感覚閾値および組織温度に対する効果とその関連性を明らかにすることである。
【方法】
対象は,健常成人男性11名(平均年齢27歳,平均身長173.5±5.2 cm,平均体重61.5±5.5 kg)である。施行条件は,1.超音波照射あり(US群),2.超音波照射なしの擬似的施行(Placebo群),3.安静(Control群)の3つとした。超音波照射条件は,周波数3MHz,強度1W/cm2,照射時間率100%,照射時間10分間とした。照射には超音波治療器(EU-940,伊藤超短波社製)を用いた。US群は上記方法による超音波照射を実施し,Placebo群では強度0 W/cm2としてストロークを実施した。Control群には安静を指示した。施行・測定部位は,右僧帽筋上部線維部とした。測定項目は,1.頸部左側屈のROM(自動運動・他動運動),2.筋硬度,3.感覚閾値(圧痛・伸張痛),4.組織温度(表面温度・深部温度)とした。他動ROMの評価にはハンドヘルドダイナモメーター(HHD)を使用し,右側頭部を30Nで押圧した際のROMを測定した。伸張痛は,他動ROM測定時(筋が伸張された状態)における疼痛の程度とし,VASを用いて評価した。測定機器は,デジタル角度計(MJ-1,佐藤商事社製),組織硬度計・圧痛計(OE-220,伊藤超短波社製),HHD(μ-Tas MT-1,anima社製),放射温度計(THI-700L,Tasco Japan社製),深部温度計(コアテンプCM-210,TERUMO社製)を使用した。測定プロトコルは,T1(測定開始時),T2(測定開始時より10分後,各施行の直前),T3(各施行直後),T4(各施行後10分),T5(各施行後20分),T6(各施行後30分)とし,それぞれの時点で各項目を測定した。統計解析は,二元配置分散分析を行った後に多重比較(Tukey)検定を実施した。
【結果】
二元配置分散分析の結果,自動・他動ROM,筋硬度,圧痛閾値,表面・深部温度の各測定項目において交互作用(p<0.01)を認めた。他動ROM測定時の伸張痛のVASにおいては交互作用が認められなかった。多重比較の結果では,自動・他動ROM,圧痛閾値,深部温度において,T3からT6までUS群がPlacebo群とControl群に比べ高かった(p<0.05)。筋硬度は,T3からT6までUS群がPlacebo群とControl群に比べ低かった(p<0.01)。表面温度は,T3からT5までUS群がPlacebo群とControl群に比べ高かったが(p<0.05),T6では有意差が認められなかった。
【考察】
超音波は,筋硬度の低下と感覚閾値の上昇によりROMを増大させ,さらに30分間持続的にその効果が維持されることが示唆された。照射後における伸張痛の程度は主観的疼痛評価であるVASにおいて変化が認められなかった。すなわち,超音波照射後ではROMは増大するが,主観的に感じる痛みの程度は照射前やPlacebo群およびControl群と変わらなかった。このことは,超音波は伸張刺激に対する閾値を上昇させROMを増大させる効果があることを示している。ROMに対する効果として,第1に超音波が高閾値機械受容器やポリモーダル受容器,筋紡錘などの感覚受容器に影響を与えたことが考えられる。第2に,超音波が筋硬度を低下させ,筋を主とした軟部組織の伸張性を増大させたことが要因として考えられる。これら神経性要因および物理的要因から,感覚閾値や組織伸張性の増大を引き起こし,ROMを持続的に増大させたものと考える。これらの効果の持続性は,超音波照射後の組織温度の経時的変化からも超音波の温熱効果と超音波刺激そのものから得られる機械的効果が影響したものと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
ROMに対する超音波の効果を示す科学的根拠の1つとなり,その臨床的意義は高いものと考える。
超音波療法は,組織温度の上昇,コラーゲン線維の伸張性増加などの生物物理学的効果を有することから,関節可動域(ROM)制限に対する物理療法として臨床応用されている。このため先行研究では,ROMを指標とした効果検証が多くなされている。しかし,ROMの変化には軟部組織の粘弾性や感覚閾値が影響することから,ROMの効果検証にはこれらの評価を複合させる必要がある。本研究では,軟部組織の粘弾性や感覚閾値の評価に筋硬度や圧痛閾値および伸張痛閾値を指標に検討した。さらに,これらの生理学的指標と関連する表面温度と深部温度などの組織温度を評価項目に加えた。本研究の目的は,ROMに対する超音波照射の効果を検証することと,ROMに影響する筋硬度や感覚閾値および組織温度に対する効果とその関連性を明らかにすることである。
【方法】
対象は,健常成人男性11名(平均年齢27歳,平均身長173.5±5.2 cm,平均体重61.5±5.5 kg)である。施行条件は,1.超音波照射あり(US群),2.超音波照射なしの擬似的施行(Placebo群),3.安静(Control群)の3つとした。超音波照射条件は,周波数3MHz,強度1W/cm2,照射時間率100%,照射時間10分間とした。照射には超音波治療器(EU-940,伊藤超短波社製)を用いた。US群は上記方法による超音波照射を実施し,Placebo群では強度0 W/cm2としてストロークを実施した。Control群には安静を指示した。施行・測定部位は,右僧帽筋上部線維部とした。測定項目は,1.頸部左側屈のROM(自動運動・他動運動),2.筋硬度,3.感覚閾値(圧痛・伸張痛),4.組織温度(表面温度・深部温度)とした。他動ROMの評価にはハンドヘルドダイナモメーター(HHD)を使用し,右側頭部を30Nで押圧した際のROMを測定した。伸張痛は,他動ROM測定時(筋が伸張された状態)における疼痛の程度とし,VASを用いて評価した。測定機器は,デジタル角度計(MJ-1,佐藤商事社製),組織硬度計・圧痛計(OE-220,伊藤超短波社製),HHD(μ-Tas MT-1,anima社製),放射温度計(THI-700L,Tasco Japan社製),深部温度計(コアテンプCM-210,TERUMO社製)を使用した。測定プロトコルは,T1(測定開始時),T2(測定開始時より10分後,各施行の直前),T3(各施行直後),T4(各施行後10分),T5(各施行後20分),T6(各施行後30分)とし,それぞれの時点で各項目を測定した。統計解析は,二元配置分散分析を行った後に多重比較(Tukey)検定を実施した。
【結果】
二元配置分散分析の結果,自動・他動ROM,筋硬度,圧痛閾値,表面・深部温度の各測定項目において交互作用(p<0.01)を認めた。他動ROM測定時の伸張痛のVASにおいては交互作用が認められなかった。多重比較の結果では,自動・他動ROM,圧痛閾値,深部温度において,T3からT6までUS群がPlacebo群とControl群に比べ高かった(p<0.05)。筋硬度は,T3からT6までUS群がPlacebo群とControl群に比べ低かった(p<0.01)。表面温度は,T3からT5までUS群がPlacebo群とControl群に比べ高かったが(p<0.05),T6では有意差が認められなかった。
【考察】
超音波は,筋硬度の低下と感覚閾値の上昇によりROMを増大させ,さらに30分間持続的にその効果が維持されることが示唆された。照射後における伸張痛の程度は主観的疼痛評価であるVASにおいて変化が認められなかった。すなわち,超音波照射後ではROMは増大するが,主観的に感じる痛みの程度は照射前やPlacebo群およびControl群と変わらなかった。このことは,超音波は伸張刺激に対する閾値を上昇させROMを増大させる効果があることを示している。ROMに対する効果として,第1に超音波が高閾値機械受容器やポリモーダル受容器,筋紡錘などの感覚受容器に影響を与えたことが考えられる。第2に,超音波が筋硬度を低下させ,筋を主とした軟部組織の伸張性を増大させたことが要因として考えられる。これら神経性要因および物理的要因から,感覚閾値や組織伸張性の増大を引き起こし,ROMを持続的に増大させたものと考える。これらの効果の持続性は,超音波照射後の組織温度の経時的変化からも超音波の温熱効果と超音波刺激そのものから得られる機械的効果が影響したものと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
ROMに対する超音波の効果を示す科学的根拠の1つとなり,その臨床的意義は高いものと考える。