[O-0810] 熱ショック転写因子1の欠損は温熱刺激による骨格筋肥大を抑制する
キーワード:筋肥大, 熱ショック転写因子, 温熱刺激
【はじめに,目的】骨格筋は可塑性に富んだ器官であり,温熱刺激によって骨格筋の量的増大すなわち筋肥大が引き起こされるが,その分子機構の全貌は明らかになっていない。温熱刺激を骨格筋細胞に負荷すると,熱ショック転写因子(heat shock transcription factor 1:HSF1)を介したストレス応答により熱ショックタンパク質(heat shock proteins:HSPs)の発現が誘導される。HSPsは分子シャペロン機能を有し,タンパク質の保護や合成促進に寄与すると考えられている。しかしながら,温熱刺激による骨格筋肥大におけるHSF1依存性のストレス応答の生理学的意義は不明である。そこで本研究では,HSF1欠損(HSF1-null)マウスを用いて,HSF1の欠損が温熱刺激による骨格筋肥大に与える影響について検討し,温熱刺激による骨格筋肥大におけるHSF1およびHSF1を介したストレス応答の役割を解明することを目的とした。
【方法】本実験は,HSF1-null雄性マウスおよび野生型雄性マウス(ICR)を用い,ヒラメ筋を対象筋とした。両マウス共に2群(温熱刺激群および対照群)に分類し,温熱刺激群のマウスを41℃の暑熱環境で60分間飼育することで,温熱刺激を負荷した。温熱刺激を負荷しないマウスを対照群とした。なお,餌および水は自由摂取とした。温熱刺激負荷前と負荷後1,3および7日目に,マウスの体重を測定した後,両群のマウス後肢よりヒラメ筋を摘出し,結合組織を除去した。筋湿重量測定後,体重あたりの筋重量を算出し,骨格筋量の変化を評価した。摘出した筋組織はprotease inhibitorとphosphatase inhibitorを含むタンパク質抽出液を用いてホモジネートし,Bradford法によりタンパク質量を測定した。また,筋組織の一部より全RNAを抽出・精製し,cDNAに逆転写した。得られた試料を用いて,HSP70ファミリー(HSP72,HSP110)のmRNAレベルおよびタンパク質レベルの発現量,Aktとp70S6Kのリン酸化レベルをリアルタイムRT-PCR法ならびにウェスタンブロット法により評価した。また,Pax7を指標に筋衛星細胞の挙動を免疫組織学的手法により評価した。実験で得られた測定値の比較には対応のないt検定,又はマウスの種類と時間経過を要因とした二元配置分散分析及び多重比較検定(Tukey-Kramer法)を用いた(有意水準5%)。
【結果】本研究で用いた温熱刺激は,マウスの体重に影響を及ぼさなかった。野生型マウスのヒラメ筋における筋重量および筋タンパク質量は,温熱刺激により有意に増加した(p<0.05)。さらに,温熱刺激は野生型マウスのヒラメ筋におけるHSP72とHSP110の発現を有意に増加させた(p<0.05)。しかし,HSF1-nullマウスに対する温熱刺激は,筋重量ならびにHSP70ファミリーの発現量の増加をもたらさなかった。温熱刺激後の野生型マウスにおけるPax7陽性核数(筋衛星細胞数)は増加したが,HSF1-nullマウスでは変化は認めなかった。また,温熱刺激によるAktとp70S6Kのリン酸化はHSF1欠損により抑制された。
【考察】温熱刺激はヒラメ筋に肥大を引き起こすと共に,HSPs発現の誘導,Akt/p70S6Kの活性化ならびに筋衛星細胞数の増加を引き起こした。しかしながら,これらの変化はHSF1欠損により抑制されたことから,HSF1が直接あるいはHSF1依存性のストレス応答が温熱刺激によるヒラメ筋の肥大において主要な役割を担っていると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】温熱刺激による骨格筋肥大には,HSF1あるいはHSF1依存性のストレス応答が寄与していると考えられた。効果的な温熱療法を確立する上で,温熱刺激による骨格筋肥大の分子機構の解明は重要である。さらには,物理療法における科学的根拠を提示するだけでなく,安全かつ効率的な新規筋力増強法の開発に繋がり,運動器リハビリテーション分野の発展に大きく貢献できると考えている。本研究の一部は日本学術振興会科学研究費(基盤C,25350641,26350818;挑戦的萌芽,26560372)ならびに上原記念生命科学財団「研究助成」からの助成を受けて実施された。
【方法】本実験は,HSF1-null雄性マウスおよび野生型雄性マウス(ICR)を用い,ヒラメ筋を対象筋とした。両マウス共に2群(温熱刺激群および対照群)に分類し,温熱刺激群のマウスを41℃の暑熱環境で60分間飼育することで,温熱刺激を負荷した。温熱刺激を負荷しないマウスを対照群とした。なお,餌および水は自由摂取とした。温熱刺激負荷前と負荷後1,3および7日目に,マウスの体重を測定した後,両群のマウス後肢よりヒラメ筋を摘出し,結合組織を除去した。筋湿重量測定後,体重あたりの筋重量を算出し,骨格筋量の変化を評価した。摘出した筋組織はprotease inhibitorとphosphatase inhibitorを含むタンパク質抽出液を用いてホモジネートし,Bradford法によりタンパク質量を測定した。また,筋組織の一部より全RNAを抽出・精製し,cDNAに逆転写した。得られた試料を用いて,HSP70ファミリー(HSP72,HSP110)のmRNAレベルおよびタンパク質レベルの発現量,Aktとp70S6Kのリン酸化レベルをリアルタイムRT-PCR法ならびにウェスタンブロット法により評価した。また,Pax7を指標に筋衛星細胞の挙動を免疫組織学的手法により評価した。実験で得られた測定値の比較には対応のないt検定,又はマウスの種類と時間経過を要因とした二元配置分散分析及び多重比較検定(Tukey-Kramer法)を用いた(有意水準5%)。
【結果】本研究で用いた温熱刺激は,マウスの体重に影響を及ぼさなかった。野生型マウスのヒラメ筋における筋重量および筋タンパク質量は,温熱刺激により有意に増加した(p<0.05)。さらに,温熱刺激は野生型マウスのヒラメ筋におけるHSP72とHSP110の発現を有意に増加させた(p<0.05)。しかし,HSF1-nullマウスに対する温熱刺激は,筋重量ならびにHSP70ファミリーの発現量の増加をもたらさなかった。温熱刺激後の野生型マウスにおけるPax7陽性核数(筋衛星細胞数)は増加したが,HSF1-nullマウスでは変化は認めなかった。また,温熱刺激によるAktとp70S6Kのリン酸化はHSF1欠損により抑制された。
【考察】温熱刺激はヒラメ筋に肥大を引き起こすと共に,HSPs発現の誘導,Akt/p70S6Kの活性化ならびに筋衛星細胞数の増加を引き起こした。しかしながら,これらの変化はHSF1欠損により抑制されたことから,HSF1が直接あるいはHSF1依存性のストレス応答が温熱刺激によるヒラメ筋の肥大において主要な役割を担っていると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】温熱刺激による骨格筋肥大には,HSF1あるいはHSF1依存性のストレス応答が寄与していると考えられた。効果的な温熱療法を確立する上で,温熱刺激による骨格筋肥大の分子機構の解明は重要である。さらには,物理療法における科学的根拠を提示するだけでなく,安全かつ効率的な新規筋力増強法の開発に繋がり,運動器リハビリテーション分野の発展に大きく貢献できると考えている。本研究の一部は日本学術振興会科学研究費(基盤C,25350641,26350818;挑戦的萌芽,26560372)ならびに上原記念生命科学財団「研究助成」からの助成を受けて実施された。