第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述111

循環4

2015年6月7日(日) 13:10 〜 14:10 第9会場 (ガラス棟 G409)

座長:田畑稔(豊橋創造大学 保健医療学部 理学療法学科), 木村雅彦(北里大学医療衛生学部 リハビリテーション学科理学療法学専攻)

[O-0823] 高齢心疾患患者における介護保険サービス変更に関連する因子の検討

大田英登1, 小羽正昭1, 大島景2 (1.常滑市民病院リハビリテーション科, 2.常滑市民病院循環器内科)

キーワード:心疾患, 入院患者, 介護保険

【はじめに,目的】
急性期,回復期病院ではリハビリテーション実施患者の転帰に伴い介護保険申請に必要な情報の提供や利用する福祉用具,介護保険サービスの検討,さらに家屋訪問を行うことも多い。当院においては脳血管や運動器疾患患者に限らず,心疾患患者に対してもそのような機会を度々経験する。しかしながら,心疾患患者に対する介護保険サービスの利用状況やリハビリテーション実施に対する報告は散見されるのみである。また,介護保険を利用することになった患者の入院時の特徴に対する報告は見当たらない。そのような患者の傾向が把握できれば退院への準備を円滑に行うことが可能となり,退院後もシームレスに介護保険サービスを利用可能となる。そこで本研究の目的は退院時に介護保険の新規利用やサービス内容に追加,変更を要した心疾患患者と,それらの追加,変更がなかった患者の入院時の身体状況や環境因子を比較し,高齢心疾患患者が医療保険から介護保険サービスへ円滑に移行するための身体機能に関して議論することである。
【方法】
対象は2013年6月から2014年9月までに当院へ入院しリハビリテーションを実施した心疾患患者97例のうち,介護保険サービスを利用し退院となった21例(男性2例,女性19例,平均年齢86.6±7.7歳)とした。対象を入院前と同様の介護保険サービスを利用した群(不変群:8例,女性8例,平均年齢88.5±3.2歳)と,新規利用やサービスの追加,変更を要した群(変更群:13例,男性2例,女性11例,平均年齢85.8±9.4歳)に分類した。全対象の診療録から各群の背景因子として年齢,性別,BMI,ならびに慢性心不全,慢性腎臓病,糖尿病,高血圧の有無,入院前介護保険サービス利用,歩行補助車使用の有無を抽出した。入院時の状況として左室駆出率(LVEF),ヘモグロビン(Hb),アルブミン(Alb),クレアチニン(Cr),入院日からリハビリテーション開始日までの日数,リハビリテーションの進行状況として開始から端座位,立位,歩行開始までに要した日数と在院日数を調査した。統計処理は診療録の抽出項目のうち,スケールデータと順序データについては対応のないt検定かMann-Whitney U検定を用いて不変群と変更群の比較を行った。名義データの比較には,Fisherの直接確率法を用いた。統計学的有意水準は5%とした。
【結果】
数値データの結果は全て平均±標準偏差で示す。変更群,不変群の順に慢性心不全(10人;76.9% vs 2人;25.0%,p<0.05),糖尿病(0人;0% vs 3人;38.0%,p<0.05)の既往および,入院前介護保険(7人;53.8% vs 8人;100%,p<0.05),歩行補助車の使用(4人;30.8% vs 7人;88.0%,p<0.05)とAlb(3.1±0.4 vs 3.6±0.3,p<0.05),在院日数(47.4±22.8 vs 21.0±9.9,p<0.01)に有意差を認めた。年齢,性別,BMI,慢性腎臓病,高血圧の有無,LVEF,Hb,Cr,入院日からリハビリテーション開始日まで,開始から端座位,立位,歩行開始までに要した日数に有意差を認めなかった。
【考察】
入院時,既往に慢性心不全を有しAlbが低値であること,さらに入院前に介護保険を利用がなく移動手段に歩行補助車を使用していない患者で退院時に介護保険サービスの新規利用や利用しているサービスの変更を要する可能性が示唆された。慢性心不全患者は大幅な運動機能低下や生活機能障害を有することが,Albが低い患者は下肢筋力やADLが低下していることが報告されている。よって,慢性心不全を有しAlbが低かった患者は身体機能の予備能が低く,急性期治療に伴う安静臥床の影響を受けやすかったことが考えられた。以上のことから,このような傾向を有する患者において入院時や加療終了後早期から医療ソーシャルワーカーやケアマネージャと連携し介護保険申請の是非や新規利用,サービスの変更等も含めた情報の共有が必要であると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
介護保険サービスを新規に利用または,サービス内容の追加,変更を要した心疾患患者について入院時身体状況との関係を報告したものは認められない。本研究は入院時から介護保険利用の是非やサービス内容の変更に対するスクリーニング,および医療から介護保険サービスへの円滑な移行への一助になると考える。