第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述112

股関節

Sun. Jun 7, 2015 1:10 PM - 2:10 PM 第11会場 (ガラス棟 G610)

座長:山元貴功(宮崎県立延岡病院 リハビリテーション科)

[O-0829] 人工股関節全置換術後の在院日数に影響を及ぼす因子の検討

森坂文子1, 沢入豊和1, 杉浦未奈代2 (1.豊橋市民病院リハビリテーションセンター, 2.豊橋市民病院看護局)

Keywords:人工股関節全置換術, 在院日数, 杖歩行

【はじめに,目的】
変形性股関節症や関節リウマチ,大腿骨頭壊死症などの外科的治療として人工股関節全置換術(以下THA)は選択肢の一つであり,当院においても年間約60例のTHAが施行されている。近年の報告ではTHA術後の安静度の拡大は徐々に早まり,術後在院日数(以下,在院日数)も短縮している。当院においても3週間のクリニカルパス(以下パス)に従ってTHAの周術期管理が行われていたが,術後15日程度での自宅退院目標症例も増加してきている。しかし当院におけるTHA術後患者の術後経過と在院日数との関係は未だ不明瞭である。THA術後の在院日数に影響を与える因子を抽出し,当院におけるTHA術後経過の現状を把握することを目的とする。
【方法】
当院において2012年4月からの2年間に,変形性股関節症,関節リウマチ,大腿骨頭壊死症,大腿骨近位部骨折に対しTHAが施行された症例94例を対象とした(術後の指示がパスに則らなかった症例や非荷重症例,転院症例は除外)。対象は年齢62±12歳,男性25例,女性69例であった。当院のパスは術後1日目ベッドアップフリー,2日目より全荷重許可のもと車椅子乗車・歩行練習開始,術後21日前後での退院予定であった。調査項目は,手術前歩行様式(以下術前歩行;屋外独歩,屋外杖使用,屋外シルバーカー使用,屋内歩行屋外車椅子,屋内外車椅子),退院時歩行様式(独歩,T字杖歩行,松葉杖歩行,シルバーカー歩行)と端座開始病日,車椅子乗車開始病日,歩行練習開始病日,T字杖歩行練習開始病日(以下杖開始日),在院日数とした。在院日数に影響を与える項目を検討するため,Spearmanの順位相関係数を用いて在院日数と各調査項目の相関係数を検定した。また,在院日数を従属変数とし,在院日数と相関関係を認めた項目を独立変数としてstepwise法にて重回帰分析を行った。重回帰分析で抽出された項目について在院日数の中央値を状態変数とし,ROC曲線を用いて在院日数を予測するカットオフ値を算出した。統計学的有意水準は5%未満とした。
【結果】
端座開始病日2.0±0.3日,車椅子開始病日2.0±0.3日,歩行練習開始病日2.2±0.7日,杖開始日8.2±3.2日,在院日数19.7±5.1日であった。在院日数との相関関係は杖開始日と術前歩行のみ軽度認められた(r=0.455,r=0.246)。重回帰分析の結果,在院日数に影響を与える因子として杖開始日のみが抽出された(p<0.01)。在院日数が中央値である20日以下の群(短期群)と20日以上の群(長期群)に分け,杖開始日の予測値を検定した結果,感度0.729,特異度0.717にて7.5日がカットオフ値,AUC area 0.752であった(P<0.001)。陽性的中率71.7%,陰性的中率56.3%,全体的中率63.8%であった。短期群の中で杖開始日が7日以内であった33症例の術前歩行は12症例が屋外独歩,21症例が屋外杖使用であった。長期群の中で杖歩行日が8日以上であった27症例のうち,手術前屋外独歩は4症例のみであった。
【考察】
THA術後の在院日数に影響を及ぼす因子を検討したところ,杖開始日が抽出された。杖開始日の関連は過去の報告でも言われており,これを支持する結果となった。ROC曲線の結果から,在院日数を中央値で区切り検討したところ,杖開始日のカットオフ値は7.5日であった。陽性的中率は70%を超えるが,陰性的中率が60%を下回る。このことからT字杖歩行練習が7日以内に開始されていると,20日以内の自宅退院の可能性が高まり,8日以上であっても20日以内で退院できている症例が混在していることが考えられた。また,術後7日以内にT字杖歩行が開始できた全症例は,術前の歩行様式において独歩もしくは杖にて屋外歩行が可能であった。在院日数と術前歩行に軽度の相関関係が認められたことから,術前歩行もパスの進行に関連する可能性が示唆された。過去の報告において自宅退院に向けてのスケジュール説明,多職種による患者への情報提供,歩行練習介入等を行うことで,患者の不安を増大させることなく3週間パスから2週間パスへと適応できたとするものがある。従って,術前歩行を踏まえて随時理学療法評価を行い,T字杖歩行練習が開始できる症例に対しては理学療法時に積極的に開始し,その状況を医師や看護師と情報共有することで,早期自宅退院につながる可能性が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
THA術後の現状を把握することで,今後理学療法士として在院日数短縮に向けての介入ポイントを見極めることにつながる。