第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述112

股関節

Sun. Jun 7, 2015 1:10 PM - 2:10 PM 第11会場 (ガラス棟 G610)

座長:山元貴功(宮崎県立延岡病院 リハビリテーション科)

[O-0830] 人工股関節全置換術後6カ月の快適歩行速度に関連する因子の検討

室伏祐介1,3, 芥川知彰1, 山本貴裕1, 近藤寛1, 小田翔太1, 永野靖典1, 岡上裕介2, 川上照彦3, 池内昌彦1,2 (1.高知大学医学部附属病院リハビリテーション部, 2.高知大学医学部整形外科, 3.吉備国際大学大学院保健科学研究科)

Keywords:変形性股関節症, 人工股関節, 快適歩行速度

【はじめに】
変形性股関節症例に対して行われる人工股関節全置換術(以下,THA)はADLの改善や除痛目的として施行されている。その為,最大歩行速度や歩行距離に関する報告は多く,歩行能力に影響を及ぼす因子として,重心移動や筋力などが挙げられている。中でも最大歩行速度をアウトカムにしている報告が多いが,日常生活での歩行は,最大努力での歩行をする場面より,快適歩行を行うことのほうが多い。我々は,THA後6カ月の快適歩行速度が,QOLの評価法の1つである日本整形外科学会股関節疾患評価質問票(以下,JHEQ)の点数に影響を及ぼすことを報告しており,術後QOLを向上させる為にも,快適歩行速度に影響を及ぼす因子を検討することは重要である。本研究目的は,THA後6カ月の快適歩行速度に影響を及ぼす身体機能と歩行分析の距離因子を検討することである。

【方法】
対象は,当院にて片側性の初回THAを施行した28名(女性21名,男性7名,平均年齢66.6歳)である。当院クリニカルパスから離脱した者は除外した。測定項目は,術後6カ月の筋力(股関節外転筋,膝関節伸展筋),歩行時痛,関節可動域(屈曲,外転,伸展),歩行分析である。筋力は,μTas F-1(アニマ社製)を用いて測定した。股関節外転筋の測定肢位は,背臥位で股関節内外転中間位とし,大腿遠位にセンサーパットを設置した。また,膝関節伸展筋は,股関節,膝関節90°屈曲位で,下腿遠位部にセンサーパットを設置した。また,得られた値は体重に対する割合にして用いた。歩行時痛はVisual Analog Scale(以下,VAS)を用い,歩行終了直後に問診した。関節可動域は,日本リハビリテーション医学会が推奨する方法に従い,5度刻みで他動的に測定を行った。歩行分析は,GaitScan(ニッタ社製)を用いて,日常で歩いている歩行速度でセンサーシート上を歩行してもらい,歩行速度,距離因子である歩幅,重複歩幅を計測した。歩幅,重複歩幅は身長で除した値を用いている。さらに,カルテより年齢,BMI,脚長差を抽出した。脚長差は,涙痕間線から左右の小転子までの距離の差をX線上で計測した。統計処理は,従属変数を6カ月歩行速度として,その他の測定項目,カルテからの抽出項目を独立変数にし,重回帰分析(ステップワイズ法)を行った。統計解析ソフトウェアはSPSS21.0(IBM社製)を用い,統計学的有意水準は5%とした。

【結果】
術後6カ月の歩行速度は,1097.7±229.9mm/secであり,股関節外転筋力は0.23±0.05kgf/kg,膝関節伸展筋力は0.37±0.11kgf/kg,関節可動域は屈曲98.9±9.5°,外転29.8±7.1°,伸展8.5±5.2°,歩行時VASは4.7±7.5mmであった。また,歩行分析の結果,重複歩幅の身長比は0.72±0.11m/m,歩幅は0.36±0.05m/mであった。重回帰分析の結果,術後6カ月の歩行速度に影響を及ぼす因子として,重複歩幅(β=0.884,p<0.01)のみが抽出された。

【考察】
我々の過去の報告で,THA後6カ月におけるJHEQの合計点に影響を及ぼす因子として,快適歩行速度が挙げられた。これは,快適歩行速度が向上すれば,QOLが高くなることを意味しており,歩行速度を向上させる後療法が重要なことを示している。今回の結果では,術後6カ月の快適歩行速度に関連する因子として,重複歩幅が抽出された。重複歩幅を向上させるには,歩行時の股関節伸展角度や股関節伸展筋力が考えられる。よって,後療法において,ただ股関節伸展可動域を拡大させるのではなく,歩行時の股関節伸展角度を向上させるアプローチが重要と考えられる。THA後早期における歩行時股関節伸展角度の減少は多くの報告されており,術後早期から歩行中の伸展角度を改善させる運動療法が推奨される。今回,股関節伸展筋力に関しては測定しておらず,さらに症例数を増やし,検討を進めていく必要がある。

【理学療法学研究としての意義】
本研究より,術後6カ月の快適歩行速度を向上させる為には,重複歩幅の拡大が重要であると示された。今回,術後理学療法における目的が明確に示されたことは,本研究の臨床的意義として高い。