第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述112

股関節

Sun. Jun 7, 2015 1:10 PM - 2:10 PM 第11会場 (ガラス棟 G610)

座長:山元貴功(宮崎県立延岡病院 リハビリテーション科)

[O-0831] 人工股関節全置換術後翌日の歩行時における自覚症状発生の要因

石井健史1, 田中友也1, 林洋暁1, 美崎定也1, 杉本和隆2 (1.苑田会人工関節センター病院リハビリテーション科, 2.苑田会人工関節センター病院整形外科)

Keywords:人工股関節全置換術, 術後翌日の歩行, 自覚症状

【目的】
人工股関節全置換術後(THA)の早期離床は,深部静脈血栓症の予防や入院期間の短縮に有効であることが示されている。当院においても術後翌日から全荷重が許可されており,積極的に歩行練習を実施している。しかし,術後翌日は循環動態が不安定な為,歩行中にめまいや嘔気等の自覚症状を呈する症例に遭遇する。自覚症状の発生は,転倒や意識レベルの低下,嘔吐を引き起こす可能性がある。術前,術後の情報から自覚症状を事前に予測できれば,歩行練習を実施する上でのリスク管理が可能となる。本研究の目的は,術後翌日の歩行時における自覚症状発生の予測因子を検討し,歩行練習の是非を判断する一助とすることである。

【方法】
対象は2010年8月から2014年9月までに,当院で初回THAを受け,翌日の初回リハビリ介入時に歩行練習まで実施できた症例とした。除外基準は,神経筋疾患,認知症,他関節への整形外科手術,重篤な合併症を有する者とした。調査項目は,1)年齢,2)BMI,3)手術時間,4)術前,術後翌日のヘモグロビン値の差(Hb値差),5)術後直後から術後翌日までの水分摂取量と排泄量の差(in-outバランス),6)出血量(体重比%),7)尿量(体重比%),8)OAグレード(Kellgren-Lawrence分類),9)術前の股関節屈曲可動域,10)術前の股関節外転筋力,11)術前WOMAC-Pain,12)術前WOMAC-Function,13)術後翌日の歩行時における自覚症状の有無とし後方視的に収集した。自覚症状とは,歩行時の眩暈,ふらつき,嘔気,動悸,頭痛や発汗,欠伸の症状と定義した。
統計解析は,自覚症状の有無より,自覚症状あり群と自覚症状なし群に分け,各変数の群間比較にt検定,Mann-WhitneyのU検定を用いた。また,従属変数を自覚症状の有無,独立変数を群間比較により有意差が見られた項目とし,ロジスティック回帰分析(変数増加法)を用いて,もっとも強い因子を探った。その項目からReceiver-Operating-Characteristic曲線(ROC曲線)を用いてカットオフ値,ならびに検査の予測能を示すROC曲線下面積(Area Under the Curve:AUC)を算出した。有意水準は5%とした。統計解析にはSPSS12.0Jを用いた。
【結果】
調査は,104名(男性22名,女性82名)に対して行った。対象の基本属性は,平均年齢±標準偏差62.6±11.0歳,平均BMI±標準偏差24.8±4.1kg/m2であった。歩行中に自覚症状を訴えた対象者は13名であった。
群間比較の結果,Hb値差(自覚症状あり群:平均3.6g/dL,自覚症状なし群:平均2.9g/dL,p<0.05),in-outバランス(自覚症状あり群:-698.7ml,自覚症状なし群-86.5ml,p<0.01),術前WOMAC-Pain(自覚症状あり群:29.4点,自覚症状なし群49.4点,p<0.05),術前WOMAC-Function(自覚症状あり群:22.8点,自覚症状なし群50.2点,p<0.01),に有意差がみられた。
ロジスティック回帰分析の結果,自覚症状の有無に影響する変数として,in-outバランス,術前WOMAC-Functionが選択された(モデルx2検定でp=0.01)。各変数のオッズ比はin-outバランスが1.002(95%信頼区間1.001~1.004,p<0.01),術前WOMAC-Functionが0.96(95%信頼区間0.93~0.99,p<0.01)であった。このモデルのHosmer-Lemeshow検定の結果は,p=0.45で適合していることが示され,予測値と実測値の判断的中率は,87.4%であった。また,自覚症状あり群になるカットオフ値は,in-outバランス-477.5ml(AUC:0.78),術前WOMAC-Function60.15点(AUC:0.77)であった。

【考察】
今回の研究から術後翌日の歩行における自覚症状発生の要因として,in-outバランス(マイナスバランス),術前WOMAC-Functionが関連していた。THA術後翌日の歩行練習を実施するにあたり,医学的な情報としてin-outバランス,身体的な情報として術前の身体機能を最低限把握する必要がある。また,それぞれのカットオフ値を参考にし,自覚症状の発生を予測して安全に歩行練習を行っていくべきである。

【理学療法研究としての意義】
THA術後のin-outバランス及び術前の身体機能を把握し自覚症状の発生を予測することで,THA術後翌日の歩行練習の是非を判断する一助となりえる。