第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述112

股関節

Sun. Jun 7, 2015 1:10 PM - 2:10 PM 第11会場 (ガラス棟 G610)

座長:山元貴功(宮崎県立延岡病院 リハビリテーション科)

[O-0832] THA後の応用歩行動作能力に影響を与える因子

~股外旋筋に注目して~

杉安直樹1, 山下導人2, 生駒成享1 (1.米盛病院, 2.南洲整形外科病院)

Keywords:人工股関節全置換術, 股外旋筋, 歩行能力

【はじめに,目的】
人工股関節全置換術(以下THA)後多くの症例で速やかに疼痛は消失,失われていた歩行能力を取り戻し,社会生活に復帰するが跛行を残す例,方向転換時の円滑性,バランス能力に問題を残す例も散見される。股関節は体幹と四肢を連結する関節として肩関節と同様に,その筋群は浅層と深層に分けられ,浅層筋群は関節トルクをもたらす主動作筋として,深層筋群は骨頭を臼蓋に求心位に保つ関節安定筋群としての役割を果たすと考えられている。今回,歩行能力向上の課題として応用歩行能力に影響を及ぼす因子を,深層筋群である股外旋筋の機能に注目し検討した。
【方法】
片側変形性股関節症にてTHAを施行された31例(女性29例,男性2例,平均年齢72.2±13.0歳),術後経過期間平均44.4ヶ月(12~81ヶ月)で,全例後側方アプローチ,VAS20mm以下,重篤な内科的・整形外科的合併症を有しないものを対象とした。身体的特性は身長150.6±7.3cm,体重52.9±11.1kg,BMI23.3±4.2であった。
評価項目は股関節伸展・外転・内転・外旋・内旋筋力,Maximal Walking Speed(以下MWS),time up and go test(以下TUGT),functional reach test(以下FRT),timed stair test(以下TST)とした。TSTはPerronらのTST遂行方法に準じて行い,踊り場を含めた4段の階段(蹴上げ150mm,踏面300mm)とした。具体的には椅子から起立し3m歩行,階段を昇段,方向転換し階段を降段,3m歩行し椅子に着座とし総所要時間を求めた。測定は各2回実施し,筋力・MWS・FRTは最大値,TUGT・TSTは最小値を採用した。筋力測定にはHand-Held Dynamometor(日本MEDIX社製)を使用し各測定値にアーム長を乗じ対象者の体重で除したトルク体重比Nm/kgを算出した。
統計学的分析にはpearsonの積率相関係数を求め中等度の相関を示す絶対値0.5以上を有意とした変数を抽出し,それらを説明変数,TSTを目的変数としたステップワイズ重回帰分析を行いTSTの回帰モデルを求めた。また,術側と非術側の筋力比較として各筋力値の術側/非術側比を算出し一元配置分散分析を行い,post hoc検定としてTukey-Kramer法を用い多重比較した。すべての検定・分析の有意水準は0.05とした。
【結果】
股関節筋力(Nm/kg)は伸展筋力0.61±0.16・0.62±0.11(術側・非術側),外転筋力1.55±0.50・1.43±0.41,内転筋力1.40±0.43・1.49±0.32,外旋筋力0.24±0.09・0.49±0.11,内旋筋力0.49±0.15・0.52±0.12であった。術側/非術側比は股外旋筋力比と股伸展,外転,内転,内旋筋力比間において有意に差があり,他すべて有意差なしであった。
MWSは1.21±0.41m/s,TUGTは11.82±4.82sec,FRTは28.73±10.07cm,TSTは19.51±9.07secであった。
pearsonの積率相関係数よりMWS(r=-0.74),FRT(r=-0.61),TUGT(r=0.70),股外旋筋力(r=-0.68),がTSTと有意な相関を認めたため,上記変数を説明変数としたステップワイズ法による重回帰分析の結果,TUGT(β=0.47),股外旋筋力(β=-0.45)がTSTに有意に影響する変数として選ばれた。自由度調整済決定係数R2=0.62であった。
【考察】
THA後股外転筋力は非術側と同程度に回復していたが,股外旋筋力は非術側に比較し1/2程度の筋力しか有していないことが示され,術侵襲として外旋筋群に侵襲を加える後側方アプローチのTHAにおける特有の問題と思われる。
THA後TSTには重回帰分析よりTUGT,股外旋筋力が独立して影響していることが明らかとなった。TUGTはTSTと同様に方向転換を含む検査法であり,股外旋筋の機能の一つとして方向転換への関与が考えられる。
股外旋筋の機能はその付着から大腿骨上の骨盤回旋であり,股外旋筋の求心性活動により骨盤前方と体幹は加速し,固定された大腿に対して対側性に回旋することで方向転換を行っているとされ,股外旋筋出力低下がTSTに影響を与えたと考えられる。
南角らによるとTHA術後早期で股外旋筋に対するトレーニングにより,股外転筋力がより効率的に発揮できるようになった,また田篭らは股外旋筋群は支持側へ荷重する瞬間に股関節の求心性を高め,外転筋力と同様に片脚立位動作の安定性に貢献すると報告している。
股外旋筋は骨頭を求心位に保持し外転筋の補助動筋としての作用に加え,今回の検討にて方向転換時の骨盤回旋を誘導することで円滑な応用歩行動作能力に寄与していると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究で,股関節機能に関する筋機能において股外旋筋は方向転換時の骨盤回旋を誘導する機能を有することが示され,股外旋筋のトレーニングの重要性を示唆していると考えられる。