第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述112

股関節

Sun. Jun 7, 2015 1:10 PM - 2:10 PM 第11会場 (ガラス棟 G610)

座長:山元貴功(宮崎県立延岡病院 リハビリテーション科)

[O-0833] 大腿骨近位部骨折術後患者のADL能力の再獲得に影響をおよぼす要因

回復期リハ病棟入棟時の認知機能,痛み,歩行能力,活動量に着目して

吉村彩菜1, 片岡英樹1,2, 渋谷美帆子1, 田中陽介1, 山下潤一郎1, 坂本淳哉3, 中野治郎3, 沖田実2 (1.社会医療法人長崎記念病院リハビリテーション部, 2.長崎大学大学院医歯薬学総合研究科リハビリテーション科学講座運動障害リハビリテーション学分野, 3.長崎大学大学院医歯薬学総合研究科理学・作業療法学講座理学療法学分野)

Keywords:大腿骨近位部骨折, ADL能力, リスクファクター

【はじめに,目的】高齢者に頻発する大腿骨近位部骨折(hip fracture;以下,HF)術後の回復期リハビリテーション(回復期リハ)では,ADL能力の再獲得を主目標としてアプローチを進めていく。しかし,実際の臨床ではADL能力の再獲得が思うように得られないケースも存在し,先行研究では,この点に関して受傷前からの認知症を含んだ合併症の存在や歩行能力の低下などがADL能力の再獲得を妨げる要因になると報告されている。ただ,これらの要因を抱えていないケースでもADLの再獲得に難渋することがあり,この点を明らかにすることはHF術後患者の回復期リハのあり方やその介入方法を再検討する上でも重要と考えられる。そこで,本研究では回復期入棟時点における認知機能,痛み,歩行能力,活動量に着目し,HF術後患者のADL能力の再獲得に影響をおよぼす要因を検討した。
【方法】対象は,平成24年1月から平成26年2月の間に自宅にてHFを受傷し,外科的治療を施行され,当院回復期リハ病棟に入棟した下記の除外基準に該当しない44例(平均年齢:80.4±8.1歳,男性:7例,女性:37例)とした。除外基準は,60歳未満の者,受傷前の歩行が独歩またはT字杖で自立していない者,認知症を含んだ重篤な合併症を有する者とした。評価項目は,functional independence measure(FIM)の運動項目の合計点数(mFIM),歩行時痛のnumerical rating scale(NRS),pain catastrophzing scale(PCS),10m歩行時間,6分間歩行距離(6MD)ならびに活動量とし,回復期リハ病棟の入棟時と退棟時に評価した。活動量はLifecorder Ex(Suzuken)を用いて2日間測定し,歩数と運動強度別の活動時間を算出した。なお,運動強度別の活動時間は,不活動時間(0Mets),1,2,3 Metsの各活動時間ならびに4~9Mets合計活動時間を算出した。分析においては,まず各評価項目について入棟時と退棟時で比較し,回復期リハの介入効果を検討した。次に,退棟時のADL能力の再獲得の状況によって対象者を2群に区分するため,mFIMが78点未満(修正自立レベルに達していない)の者を介助群(15例,男性2例,女性13例),78点以上の者を自立群(29例,男性5例,女性14例)とした。そして,この2群間で基本属性である年齢やHDS-R得点ならびに上記の入棟時の各評価項目を比較した。統計処理として,入棟時と退棟時の比較には対応のあるt検定を,介助群と自立群の比較には対応のないt検定を適用し,有意水準は5%未満とした。
【結果】回復期リハの介入効果として,歩行時痛のNRSと10m歩行速度は入棟時に比べ退棟時が有意に低値を示し,6MD,歩数,mFIMは入棟時に比べ退棟時が有意に高値を示した。次に,介助群と自立群を比較すると,年齢は介助群が有意に高値で,HDS-R得点は介助群が有意に低値を示した。また,痛みについては歩行時のNRSは2群間に有意差は認められなかったものの,PCSの無力感は自立群に比べ介助群は有意に高値を示した。歩行能力については10m歩行速度は自立群に比べ介助群は有意に高値を示したが,6MDについては2群間に有意差は認められなかった。そして,活動量のパラメータである歩数と活動時間については2群間に有意差は認められなかったものの,不活動時間は自立群に比べ介助群が有意に高値を示した。
【考察】今回の結果,ADL能力のみならず,痛みや歩行能力,活動量においても介入効果が認められ,これは当院の回復期リハが一定の成果をあげていることを示している。ただ,退棟時のADL能力の再獲得状況をみるとmFIMの境界値とされる78点未満の者が15例(34.1%)が存在することも事実で,これらADL能力の再獲得が不十分なケースは受傷前に一定の歩行能力を有していても,回復期病棟入棟時において高齢であることや認知機能,歩行能力が低下しており,あわせて痛みに対する無力感が強く,不活動時間が長いことが特性として明らかとなった。つまり,これらの要因はHF術後患者のADL能力の再獲得に影響をおよぼすリスクファクターである可能性があり,特に痛みに対する無力感や不活動状態に関してはリハで改善できる要因でもあることから,早期からこれらの評価を実践し,その対策を講じていくことが重要であると思われる。
【理学療法学研究としての意義】本研究の結果は,HF術後の回復期リハにおけるADL能力の再獲得に,年齢や認知・運動機能のみならず,痛みの認知的側面や不活動が影響することを示しており,HF術後患者の回復期リハのあり方やその介入方法を再検討する上でも意義あるものと考える。