第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター1

身体運動学2

2015年6月5日(金) 11:20 〜 12:20 ポスター会場 (展示ホール)

[P1-A-0108] 大腿部に手をついて行う円背姿勢の立ち上がり動作の分析

五十嵐ふみ1, 大島広実2, 我妻真里3, 高橋俊章4 (1.仙台北部整形外科, 2.相澤病院, 3.三友堂リハビリテーションセンター, 4.山形県立保健医療大学)

キーワード:円背, 起立動作, 上肢使用

【はじめに,目的】
骨盤後傾位からの立ち上がりは,重心の前方移動距離が増大し,膝・足関節の負担が増大することが報告されている。そのため,骨盤後傾を呈する高齢者は上肢を使用して立ち上がり動作を可能にしている。しかし,大腿部に手をついて行う立ち上がり動作に関する研究は散見される程度で,高齢者に多い円背姿勢で,大腿部に手をついた立ち上がり動作が身体に与える影響は明らかになっていない。そこで,本研究の目的は,大腿部に手をついて行う円背姿勢の立ち上がり動作を運動学的に分析し,また,その時の手の使い方を明らかにすることである。
【方法】
整形外科的,神経学的疾患のない健常成人15名(男性8名,女性7名,年齢21.7±1.3歳)を対象とした。測定課題は,円背肢位で①手を組む,②大腿部に手をつく立ち上がり動作の2課題とした。円背姿勢は,高齢者疑似体験装具とクラビクルバンドを使用し,自在曲線定規を用いたMilneらの方法に基づく円背指数を15以上になるように設定した。三次元動作解析装置(VMS社製)と床反力計(Kistler社製)を用い,頸部・上部体幹・下部体幹・骨盤・股関節・膝関節・足関節の矢状面上の運動角度,質量中心(COM)の前後方向移動距離,所要時間を測定した。表面筋電計(DELSYS社製)を用いて筋活動を測定し,各筋における動作中の筋活動の最大値を,最大収縮時に対する比率(%MVC)として算出した。被験筋は前脛骨筋,腓腹筋外側頭,大腿直筋,内側広筋,大腿二頭筋長頭,大殿筋,腹直筋,脊柱起立筋,上腕二頭筋,上腕三頭筋外側頭とした。統計処理は,対応のあるt検定を用いて課題間の各パラメータを比較した。いずれも有意水準は5%とした。
【結果】
円背条件において,大腿部に手をついた場合,前脛骨筋,内側広筋,脊柱起立筋の筋活動量は有意に小さかった(p<0.05)。また,骨盤前傾,下部体幹・股関節屈曲運動角度は有意に大きく(p<0.05),足関節背屈運動角度は有意に小さかった(p<0.05)。手の使用によりCOM前方移動距離に有意な差はなかった。大腿部に手をついて立ち上がり動作を行った場合,離殿前に大腿部を手前に引くパターン(Pullパターン)と,離殿前に上肢の筋活動が生じないパターン(Non-Pullパターン)がみられた。いずれにおいても,離殿以降は全てで大腿部を押していた。円背条件において,Non-Pullパターンに比べ,Pullパターンの方が,膝関節屈曲・足関節背屈運動角度が有意に大きく(p<0.05),離殿までの所要時間が有意に長かった(p<0.01)。パターン間でCOMの前方移動距離に有意差はなかった。
【考察】
円背姿勢において,立ち上がり時に大腿部に手を着くことで,股関節・下部体幹の屈曲,骨盤の前傾運動が増大し,前方への推進力が生成された。その結果,足関節の背屈による重心の前方への推進力生成の必要がなくなり,前脛骨筋の筋活動・足関節背屈運動角度が減少したことが考えられた。また,立ち上がり動作後期では,重心を上方へと移動させるために各下肢関節の強調した運動が重要となる。そのため,離殿時に大腿部を押すことで,生成された前方への推進力の垂直方向への変換が可能となり,重心上昇期における下肢筋の筋活動が代償され,内側広筋や脊柱起立筋の筋活動が減少したことが考えられた。以上のことから,円背条件において立ち上がり動作時に大腿部に手を着くことは,下肢筋活動による重心の前方移動と上方移動を代償し,下肢筋の負担を減少させることに作用していることが考えられた。上肢の使い方による比較では,円背条件において,COMの前方移動距離に有意差はなかったが,Pullパターンの方が離殿までの時間が長く,膝・足関節の屈曲・背屈運動が有意に大きかった。高齢者は,身体重心の進行方向への移動速度を高めることによって身体重心の上昇を可能にしていることから,離殿前に手で大腿部を手前に引くことにより重心の前方移動が代償され,前方への移動速度を高めることなく立ち上がりに必要な重心の前方移動が可能となったことが考えられた。以上より,離殿前の重心の前方移動が困難な者に対しては離殿前に大腿部を手で手前に引くという方法,下肢筋力の減弱により離殿時以降の伸展相が困難な者に対しては離殿時以降に大腿部を押す方法を指導することで,立ち上がり動作が行いやすくなることが考えられた。

【理学療法学研究としての意義】

今回の研究を基に,実際の円背姿勢者を対象とした大腿部に手をついて行う立ち上がり動作を解明することで,円背姿勢者の立ち上がり動作の誘導方法の一助となると考える。