[P1-A-0203] 腰部安定化エクササイズが腰痛患者の体幹深部筋に与える影響
~超音波診断装置による検討~
キーワード:体幹深部筋, エクササイズ, 超音波診断装置
【はじめに,目的】
四肢の動きに連動した腰部の固定を提供する動作として,Abdominal Hollowing(以下,AH)とAbdominal Bracing(以下,AB)が提唱されている。この動作は,関節運動を起こさずに体幹深部筋を随意的にはたらかせることが可能なエクササイズである。第49回日本理学療法学術大会にて,健常者を対象にAHとABが腰部多裂筋に与える影響を検討した結果,ABは腰部多裂筋の筋厚を有意に増加させることが明らかとなった。
腰痛患者において,腰部多裂筋に機能不全が生じる報告が多数されている。近年は,腰部多裂筋の筋内圧上昇による腰椎背筋群コンパートメント症候群による筋・筋膜性腰痛も挙げられている。関節運動を起こさずに行える本エクササイズは,関節組織への負担軽減,非疼痛下での介入が可能であり,腰痛患者に有用なエクササイズになると考えられる。
よって,本研究の目的は腰部安定化エクササイズが,体幹深部筋の筋厚に与える影響について超音波診断装置を用いて明らかにすることである。
【方法】
対象は,当院を受診している女性腰痛患者6名(年齢63.3±14.1歳,BMI 21.8±3.7,罹患期間14.2±13.6ヵ月),神経症状や手術歴のない非特異的腰痛患者である。使用機器は超音波診断装置とした。プローブは,周波数7.5MHzのリニアプローブを使用した。測定筋は,腹横筋と腰部多裂筋とした。測定肢位は,AHは背臥位で股関節・膝関節90°となるよう台の上に下肢を挙上させた。ABは腹臥位にて腹部と下腿にクッションを入れ,安楽な姿勢をとるようにした。いずれも測定筋における重力除去位で行った。測定は,エクササイズ毎に左右の筋厚を2回ずつ計測し,疼痛の訴えがある部位を疼痛側,反対側を非疼痛側とした。問診時に疼痛が両側と答えた対象者は,測定者が評価を行い,疼痛側を同定した。得られたデータは,統計学的解析を行い,有意水準を5%とした。筋厚測定の信頼性は,級内相関係数(以下,ICC)を用いて,検者内信頼性を確認した。
【結果】
各筋厚測定のICC(1.1)は0.829以上あり,高い相関を認めた。
エクササイズ間の筋厚変化率において,腹横筋は疼痛側でAH 139.7±26.1%,AB 134.2±21.7%,非疼痛側で,AH 159.7±22.9%,AB 149.5±20%であり,疼痛側・非疼痛側ともにAHとABでは有意な差は認められなかった。腰部多裂筋では,疼痛側でAH 101.9±2%,AB 105.7±2.8%でありAHと比較してABで有意に高値を示した(p<0.05)。非疼痛側では,AH 100.8±1.9%,AB 105.8±1.4%であり,同様にAHと比較してABで有意に高値を示した(p<0.01)。各エクササイズでは,腹横筋,腰部多裂筋ともに疼痛側・非疼痛側において有意な差は認められなかった。また,罹患期間と各筋厚変化率の相関関係も認められなかった。
【考察】
本研究より,腰部安定化エクササイズにおいて,ABはAHより腰部多裂筋の筋厚を増加させ,体幹筋の同時収縮を高めることが示唆された。Richardsonらによると,AHは腹横筋を中心に体幹深部筋の収縮を促すことで腰部安定化が図られると報告されている。しかし,McGillらは,腹横筋だけでは腰部の安定性は不十分であり,腹斜筋群の収縮も用いることで安定性を高められると報告している。さらに大江らは,下肢挙上動作前にABも用いることで腰椎部の可動性が小さかったことを報告している。本研究は,超音波診断装置を用いて,定量的にエクササイズ間の体幹深部筋の筋厚変化率を明らかにした。
各エクササイズでは,腹横筋,腰部多裂筋ともに疼痛側・非疼痛側において有意な差が認められず,また罹患期間と各筋厚変化率の相関関係も認められなかった理由としては,運動療法が慢性腰痛患者に効果的であることや,痛みに応じた活動性の維持を早期から行うことで,安静期間の縮小,運動の再学習が筋厚に影響を及ぼしたと考える。しかし,本研究の限界として,横断的研究であり,対象は運動療法が効果的な慢性腰痛患者であること。また,リハビリ目的に通院しているため,治療介入因子が関与していた可能性が考えられる。今後は,急性期・亜急性期におけるエクササイズの効果および,縦断的研究における継時的変化を明らかにする必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,ABを用いることで腰部多裂筋の筋厚を増加させ,体幹筋の同時収縮を高めることが明らかとなった。これにより,腰部への負担軽減,および腰痛予防の観点から意義のある研究であると考えられる。
四肢の動きに連動した腰部の固定を提供する動作として,Abdominal Hollowing(以下,AH)とAbdominal Bracing(以下,AB)が提唱されている。この動作は,関節運動を起こさずに体幹深部筋を随意的にはたらかせることが可能なエクササイズである。第49回日本理学療法学術大会にて,健常者を対象にAHとABが腰部多裂筋に与える影響を検討した結果,ABは腰部多裂筋の筋厚を有意に増加させることが明らかとなった。
腰痛患者において,腰部多裂筋に機能不全が生じる報告が多数されている。近年は,腰部多裂筋の筋内圧上昇による腰椎背筋群コンパートメント症候群による筋・筋膜性腰痛も挙げられている。関節運動を起こさずに行える本エクササイズは,関節組織への負担軽減,非疼痛下での介入が可能であり,腰痛患者に有用なエクササイズになると考えられる。
よって,本研究の目的は腰部安定化エクササイズが,体幹深部筋の筋厚に与える影響について超音波診断装置を用いて明らかにすることである。
【方法】
対象は,当院を受診している女性腰痛患者6名(年齢63.3±14.1歳,BMI 21.8±3.7,罹患期間14.2±13.6ヵ月),神経症状や手術歴のない非特異的腰痛患者である。使用機器は超音波診断装置とした。プローブは,周波数7.5MHzのリニアプローブを使用した。測定筋は,腹横筋と腰部多裂筋とした。測定肢位は,AHは背臥位で股関節・膝関節90°となるよう台の上に下肢を挙上させた。ABは腹臥位にて腹部と下腿にクッションを入れ,安楽な姿勢をとるようにした。いずれも測定筋における重力除去位で行った。測定は,エクササイズ毎に左右の筋厚を2回ずつ計測し,疼痛の訴えがある部位を疼痛側,反対側を非疼痛側とした。問診時に疼痛が両側と答えた対象者は,測定者が評価を行い,疼痛側を同定した。得られたデータは,統計学的解析を行い,有意水準を5%とした。筋厚測定の信頼性は,級内相関係数(以下,ICC)を用いて,検者内信頼性を確認した。
【結果】
各筋厚測定のICC(1.1)は0.829以上あり,高い相関を認めた。
エクササイズ間の筋厚変化率において,腹横筋は疼痛側でAH 139.7±26.1%,AB 134.2±21.7%,非疼痛側で,AH 159.7±22.9%,AB 149.5±20%であり,疼痛側・非疼痛側ともにAHとABでは有意な差は認められなかった。腰部多裂筋では,疼痛側でAH 101.9±2%,AB 105.7±2.8%でありAHと比較してABで有意に高値を示した(p<0.05)。非疼痛側では,AH 100.8±1.9%,AB 105.8±1.4%であり,同様にAHと比較してABで有意に高値を示した(p<0.01)。各エクササイズでは,腹横筋,腰部多裂筋ともに疼痛側・非疼痛側において有意な差は認められなかった。また,罹患期間と各筋厚変化率の相関関係も認められなかった。
【考察】
本研究より,腰部安定化エクササイズにおいて,ABはAHより腰部多裂筋の筋厚を増加させ,体幹筋の同時収縮を高めることが示唆された。Richardsonらによると,AHは腹横筋を中心に体幹深部筋の収縮を促すことで腰部安定化が図られると報告されている。しかし,McGillらは,腹横筋だけでは腰部の安定性は不十分であり,腹斜筋群の収縮も用いることで安定性を高められると報告している。さらに大江らは,下肢挙上動作前にABも用いることで腰椎部の可動性が小さかったことを報告している。本研究は,超音波診断装置を用いて,定量的にエクササイズ間の体幹深部筋の筋厚変化率を明らかにした。
各エクササイズでは,腹横筋,腰部多裂筋ともに疼痛側・非疼痛側において有意な差が認められず,また罹患期間と各筋厚変化率の相関関係も認められなかった理由としては,運動療法が慢性腰痛患者に効果的であることや,痛みに応じた活動性の維持を早期から行うことで,安静期間の縮小,運動の再学習が筋厚に影響を及ぼしたと考える。しかし,本研究の限界として,横断的研究であり,対象は運動療法が効果的な慢性腰痛患者であること。また,リハビリ目的に通院しているため,治療介入因子が関与していた可能性が考えられる。今後は,急性期・亜急性期におけるエクササイズの効果および,縦断的研究における継時的変化を明らかにする必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,ABを用いることで腰部多裂筋の筋厚を増加させ,体幹筋の同時収縮を高めることが明らかとなった。これにより,腰部への負担軽減,および腰痛予防の観点から意義のある研究であると考えられる。