第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター1

人工股関節1

2015年6月5日(金) 11:20 〜 12:20 ポスター会場 (展示ホール)

[P1-A-0209] 人工股関節全置換術後における年代別の股関節外転筋力の回復推移

術側筋力,健側筋力の影響

吉田啓晃1, 木下一雄2, 桂田功一2, 青砥桃子3, 岡道綾4, 樋口謙次2, 中山恭秀1, 安保雅博5 (1.東京慈恵会医科大学附属第三病院リハビリテーション科, 2.東京慈恵会医科大学附属柏病院リハビリテーション科, 3.東京慈恵会医科大学葛飾医療センターリハビリテーション科, 4.東京慈恵会医科大学附属病院リハビリテーション科, 5.東京慈恵会医科大学リハビリテーション医学講座)

キーワード:人工股関節全置換術, 股関節外転筋力, 年代別

【はじめに】
人工股関節全置換術(THA)後の股関節筋力の回復推移が分かれば予後予測や目標設定に有用である。我々は第41回日本股関節学会にて,THA後の外転筋トルクの推移について年代別に比較した。その結果,40・50代に比べて70代以上は術後2,5か月時の筋力が低く,外転筋力回復に加齢の影響があることを示した。しかし,両側罹患例も含まれることや各群ともに術前の筋力にバラツキがあったことから,術前の重症度や対側機能も術後経過に影響すると考えられた。筋力回復過程に加齢あるいは術前からの筋力低下のいずれの影響が強いかは明らかではない。そこで,股関節機能を表す指標である日本整形外科学会股関節機能判定基準(JOA score)や術前筋力を共変量とした共分散分析を用いて,片側罹患例の年代別の股関節外転筋力の術後経過を検討した。

【方法】
対象は,2012年4月から2014年3月までに当大学附属4病院にて手術を施行した変形性股関節症によるTHA患者のうち,片側罹患の初回手術例,女性142例とした。術式は全例後方進入法で,DVTや感染症などによりリハビリテーションの進行に影響が出た者,退院が術後30日目以上となった者は除外した。

方法は,術前,術後2,5か月時に,等尺性外転筋力を評価し,年代別の術後経過を比較した。年代は,手術時の年齢により中高年齢者群(65歳未満:56例),前期高齢者群(65~74歳:54例),後期高齢者群(75歳以上:32例)の3群に分類した。外転筋力は,Hand Held Dynamometer(アニマ社製,ミュータスF-1)により,背臥位で計測肢のみをベルトで固定する方法にて計測し,計測値はトルク体重比(Nm/kg)で表した。統計解析は,術前JOA score,術前術側筋力,術前健側筋力の各要因を共変量とした共分散分析を用い,術後2~5か月の外転筋力回復推移を分割プロットデザインによる反復測定分散分析にて比較した。下位検定にはBonfferoni法による多重比較法を用いた。また追検討として,術後の外転筋力回復経過に影響していた術前術側筋力,術前健側筋力を説明変数,術後5か月の術側外転筋力を従属変数とした重回帰分析(ステップワイズ法)を行い,影響の度合いを検討した。統計処理にはSPSS(Ver.19)を用いた。
【結果】
各群の術前術側/健側筋力は,中高年齢群0.58±0.24/0.87±0.29,前期高齢群0.60±0.25/0.82±0.34,後期高齢群0.52±0.25/0.69±0.23 Nm/kgであった。各群の術後経過には,共変量の術前術側筋力と術前健側筋力が有意に影響していたが(p<0.01),JOA scoreは影響していなかった。術後経過に年代による差はなく,全症例が術後経過とともに有意に改善していた(術前0.57±0.24,2か月0.70±0.30,5か月0.82±0.33Nm/kg,p<0.01)。
また,術後5か月の外転筋力を従属変数とした重回帰分析では,術前健側筋力が有意な因子として採択され(標準編回帰係数β=0.77,p<0.01),決定係数R2=0.59であった。

【考察】
片側変形性股関節症によるTHA後の年代別の筋力回復推移に,術前の股関節機能が影響を及ぼすかを検討した。その結果,年代の差よりも対側下肢を含めた術前の状態が影響することが分かった。さらに,術後5か月の外転筋力を従属変数とした重回帰分析では高い適合度を示し,健側筋力により術後5か月の術側筋力を予測できる可能性が示唆された。
術前術側筋力は関節の変形や疼痛を反映し,健側筋力は生活範囲の広さや活動性を反映するものと推察される。片側罹患症例にとっては,術後の活動性を拡大するためにも,術前より術側,健側ともに筋力を維持し,高い活動性を保つことが術後の機能回復に重要であると考えられる。また,THA後の外転筋力回復推移に年代の影響はなく,後期高齢者も中高年齢者や前期高齢者と同様に筋力の改善効果が期待できることが確認された。術前から対側下肢を含めて高い筋力を保持していれば,THA後5か月の時点では健側同等の筋力を獲得できる可能性がある。今後は,術前後の活動性に差があったのかどうかを明らかにすることが課題である。
本研究は,片側罹患の初回手術症例に限定した検討である。対側下肢や他関節の状態が活動性にも大きく影響し,回復過程も異なると考えられる。今後,両側罹患あるいは多関節罹患の検討も進めたい。

【理学療法学研究としての意義】
片側罹患の女性変形性股関節患者について,THA後の外転筋力回復過程を知ることは目標設定や動作の予後予測に有用である。術前の健側筋力は術後5か月時の筋力の目安となりうることから,個々の目標設定や外来リハビリテーションの必要性の判断材料として利用できる可能性がある。