第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター1

人工股関節2

Fri. Jun 5, 2015 11:20 AM - 12:20 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P1-A-0224] 変形性股関節症患者の階段昇降能力には下肢筋力が影響する

西村純1, 南角学1, 西川徹1, 池口良輔2, 後藤公志2, 宗和隆2, 黒田隆2, 松田秀一2 (1.京都大学医学部附属病院リハビリテーション部, 2.京都大学医学部整形外科)

Keywords:階段昇降, 膝関節伸展筋力, 股関節外転筋力

【目的】変形性股関節症(以下,股OA)患者では,痛みや運動機能の低下のためにADL能力が低下しており,特に進行期または末期の股OA患者では,様々な代償動作や補助具を用いてADL能力低下を補っている。そのため,股OA患者に対して効果的なADL指導を実施するためには,ADL能力の低下に関わる因子を理解しておくことが重要であると考えられる。臨床場面において,進行期または末期の股OA患者が階段昇降時に強い痛みを訴えたり,関節可動域が不良な症例や筋力低下が著明な症例に対しては,股関節への負荷の軽減や安定した階段昇降動作を獲得するために二足一段での昇降方法を指導することがある。しかし,股OA患者における階段昇降能力に関わる因子を明らかにした報告は少なく,不明な点が多い。そこで,本研究の目的は,進行期または末期の股OA患者の階段昇降能力に影響を及ぼす因子を明らかにすることとした。
【方法】対象は,当院外来を受診した進行期または末期の股OA患者77名(男性11名,女性66名,年齢:63.2±11.5歳,BMI:23.0±3.6kg/m2)とした。測定は患側とし,項目は,股関節可動域,下肢筋力,歩行能力,歩行時の痛みとした。股関節可動域は屈曲,伸展,外転を測定し,下肢筋力は股関節外転筋力および膝関節伸展筋力を測定した。歩行能力はTimed up and go test(以下,TUG)を測定した。歩行時の痛みの評価にはVisual Analog Scale(以下,VAS)を用いた。関節可動域測定にはゴニオメーターを使用した。股関節外転筋力にはHand-Held Dynamometer(日本MEDIX社製),膝関節伸展筋力の測定にはIsoforce GT-330(OG技研社製)を用い,等尺性最大筋力を測定し,トルク体重比(Nm/kg)を算出した。さらに,12cmの階段5段を用いて階段昇降テストを行い,一足一段で可能であった者をA群,二足一段で実施した者をB群とした。統計には,各測定項目の両群間の比較には対応の無いt検定を用い,さらに両群間で有意差を認めた項目を説明変数とし,階段昇降テストの昇降方法を従属変数としたロジスティック回帰分析を行った。統計学的有意基準は5%未満とした。

【結果】両群の割合は,A群が86%(60名),B群が14%(17名)であった。年齢,BMIは両群間で有意差を認めなかった。股関節屈曲可動域はA群88.4±17.9°,B群78.2±17.2°,股関節伸展可動域はA群6.4±8.0°,B群3.2±4.3°であり,いずれもA群はB群と比較して有意に高い値を示した。股関節外転可動域は両群間で有意差を認めなかった。股関節外転筋力はA群0.64±0.25Nm/kg,B群0.30±0.11 Nm/kg,膝関節伸展筋力はA群1.41±0.56 Nm/kg,B群0.82±0.42Nm/kgであり,いずれもA群はB群と比較して有意に高い値を示した。TUGは,A群9.6±4.2秒,B群12.8±4.6秒であり,A群がB群と比較して有意に低い値を示した。VASはA群35.5±28.2mm,B群57.2±22.8mmであり,A群がB群と比較して有意に低い値を示した。さらに階段昇降テストにおける昇降方法を従属変数としたロジスティック回帰分析では,股関節外転筋力(オッズ比0.03,95%IC:0.00~0.14)と膝関節伸展筋力(オッズ比0.16,95%IC:0.03~0.97)が有意な項目として選択された。

【考察】本研究の結果から,股OA患者における階段昇降の方法は,多くの患者では一足一段で昇降可能であり,二足一段で昇降を行っている者は少なかった。さらに,ロジスティック回帰分析の結果から,階段昇降の方法には股関節可動域,歩行能力,歩行時の痛みに比べて,膝関節伸展筋力と股関節外転筋力が大きく影響することが明らかとなった。膝関節伸展筋力は階段昇降動作において矢状面上における推進力および制動力となり,また股関節外転筋力は前額面上における骨盤の安定に寄与することから,両筋力が階段昇降の方法に影響を及ぼすと考えられた。以上のことから,進行期または末期の股OA患者に階段昇降を指導する際には,下肢筋力に応じた方法を選択すること重要であると考えられた。
【理学療法研究としての意義】本研究の結果から,股OA患者における階段昇降能力は,下肢筋力と関連性が高いことが明らかとなった。本研究の結果は効果的なADL指導の一助となることから,理学療法研究として意義あるものと考えられる。