第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター1

脳損傷理学療法4

Fri. Jun 5, 2015 11:20 AM - 12:20 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P1-A-0253] 脳血管障害後片麻痺者における歩行立脚期と遊脚期の練習効果(クロスオーバー試験)

佐久間香1,2, 建内宏重1, 西下智1, 沖田祐介1, 北谷亮輔1,2, 市橋則明1 (1.京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻, 2.日本学術振興会特別研究員)

Keywords:片麻痺, 歩行練習, 慢性期

【はじめに,目的】
脳血管障害後片麻痺者(以下,片麻痺者)は,運動障害や感覚障害などを有し,これらの障害に伴い歩行能力が低下していることが多い。歩行練習の効果は持続しにくいことから,継続して行える簡単な練習が必要である。
麻痺側における蹴り出しの減少や,前遊脚期の延長が歩行速度の低下に関係することから,歩行立脚期を想定した麻痺側蹴り出しの練習や遊脚期を想定した麻痺側下肢の振り出しの練習を行うことで歩行速度が向上すると考えられる。しかし,それぞれの練習効果を比較した報告は見当たらない。
本研究では,麻痺側立脚期の練習(以下,立脚期の練習)と麻痺側遊脚期の練習(以下,遊脚期の練習)が片麻痺者の歩行に与える即時効果の違いを調べることを目的とした。また,各練習で効果が出やすい対象者の特徴が異なると推測し,それぞれの練習で効果が出やすかった対象者における,身体機能と歩行の違いを調べた。
【方法】
地域在住の片麻痺者12名(発症後期間7±6年,下肢Fugl-Meyer Assesment23±5点,年齢67±9歳)を対象とした。
クロスオーバーデザインで,立脚期の練習と遊脚期の練習を1か月以上開けて実施した。立脚期の練習は麻痺側立脚中期,初期,立脚期全体を想定した3種類45回,遊脚期の練習は麻痺側下肢の拳上,遊脚初期,遊脚期全体を想定した3種類45回から成り,実施した練習を意識しながら3m歩行5往復も実施した。練習前後における歩行測定は,Plug-in-Gaitモデルに基づいてマーカーを貼付し,3次元動作解析装置(Vicon社製)と床反力計(Kistler社製)を用いて6試行測定した。床反力上に足部全体が接地した3歩行周期を採用し,歩行速度,ストライドとステップの時間と長さ,股関節と足関節の最大角度とパワーを算出した。ステップ時間割合として,ストライド時間に対するステップ時間の割合を算出した。
臨床評価として,下肢Fugl-Meyer Assesment,股屈曲・伸展・外転,膝屈曲・伸展,足背屈・底屈筋力と足底屈筋のmodified Ashworth Scale,表在・深部感覚,足背屈可動域(荷重位で測定),timed up and go(以下,TUG)を測定した。
時期(練習前後)と練習順序(立脚期の練習からか遊脚期の練習からか),練習方法(立脚期の練習と遊脚期の練習)が歩行に与える影響について,反復測定分散分析と事後検定で調べた。
次に,立脚期の練習の方が遊脚期の練習より歩行速度が向上した者(以下,立脚期適応群)と遊脚期の練習の方が向上した者(以下,遊脚期適応群)の2群に分類し,練習前の歩行動作と臨床評価における各群の違いについて,t検定を用いて調べた。
【結果】
歩行速度(練習前0.67±0.32m/s,練習後0.74±0.36m/s),ストライド長(練習前0.83±0.30m/s,練習後0.90±0.3m),麻痺側ステップ長(練習前0.42±0.15m,練習後0.46±0.16m),非麻痺側ステップ長(練習前0.40±0.15m,練習後0.44±0.16m)において,主効果を認め,練習前に比較して練習後で大きかった。麻痺側足底屈の遠心性パワーのみ練習による効果の違いを認め,遊脚期の練習で増加を認めた(-0.50±0.20W/kg,-0.64±0.28W/kg)。
3名が脱落し,2種類の練習を受けた者は9名であり,立脚期適応群が5名,遊脚期適応群が4名であった。立脚期適応群の方が遊脚期適応群よりTUGが遅く(立脚期適応群21.8±10.6秒,遊脚期適応群10.6±5.4秒),歩行時の麻痺側ステップ時間割合が長く(立脚期適応群0.6±0.03,遊脚期適応群0.5±0.01),歩行時の麻痺側股屈曲最大角度(立脚期適応群15.0±7.6°,遊脚期適応群28.8±4.6°)と麻痺側足背屈角度(立脚期適応群20±5°,遊脚期適応群30±5°)が小さかった。
【考察】
歩行速度,ストライド長,ステップ長について,両方の練習で増加を認めることが示唆された。特に遊脚期の練習では,麻痺側振りの向上に付随して非麻痺側の振りも向上し,その時に支持している麻痺側の立脚中期から後期に生じる足底屈の遠心性パワーが増加したと考えられた。
各練習への適応を分析した結果,足背屈可動域が保たれている対象者では,足関節パワーを大きくしやすいため,遊脚期の練習で歩行速度が向上しやすかったと考えられた。一方,足背屈角度が少なく,麻痺側支持の時間が非麻痺側より短い歩行能力の低い対象者では麻痺側の支持性が低いため,立脚期の練習で歩行速度の向上が得られやすかったと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果より,立脚期の練習と遊脚期の練習ともに即時効果があり,片麻痺者の身体機能によって有効な練習方法が異なる可能性が示唆された。