第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター1

脳損傷理学療法4

Fri. Jun 5, 2015 11:20 AM - 12:20 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P1-A-0256] 脳卒中患者と健常者の歩行負荷における総頸動脈血流量変化

頸動脈エコーを用いて

池田侑太 (聖十字会西日本病院)

Keywords:脳卒中, 総頚動脈血流量, 歩行

【はじめに,目的】
脳卒中疾患に対する早期離床の重要性が提唱されている中,回復期リハビリテーションを主とする当院でも早期起立・歩行を導入している。しかし急性期を脱しても離床時の起立性低血圧が生じる症例を臨床現場で経験する。起立負荷での脳血流量の変化の報告はあるが,歩行前後での脳血流量変化の報告は少ない。よって歩行前後の脳血流量を測定し,脳卒中患者における歩行動作前後の脳血流量変化を検討した。
【方法】
対象は脳卒中患者11名(男性8名,女性3名,平均年齢71.7±14.2歳,以下脳卒中群),健常成人31名(男性18名,女性13名,平均年齢26.5±4.7歳,以下健常群),脳卒中群の発症から計測までの経過日数は33.8±14.2日であった。
測定項目は心拍数,血圧,総頸動脈径及び平均血流速度,総頸動脈内中膜複合体厚(以下IMT)とし,心拍数・血圧は自動電子血圧計(オムロンヘルスケア株式会社製,HEM-7051-HP)にて上腕動脈より測定し,平均血圧(収縮期血圧+脈圧/3)を算出した。総頚動脈径及び平均血流速度,IMTはエコー(GE横河メディカルシステム株式会社製,LOGIQ7PRO)を用いて,非損傷側動脈から測定した。平均血流速度はパルスドプラ法を用いて,入射角に対して60度以内とした。拡張期の内膜間距離から動脈直径を計測して総頸動脈断面積を求め,平均血流速度と総頸動脈断面積の積より,1分間あたりの動脈血流量(ml/min)=平均血流速度(cm/sec)×π(血管径[mm]/2)2/100×60secを算出した。
手順は10分の安静臥床後,心拍数,血圧,総頸動脈径及び平均血流速度を測定し,即時に起立し1分間の連続歩行を実施した。動作後に再度,同項目を立位にて測定した。脳卒中群,健常群の平均心拍数・血圧,動脈径,平均血流速度,血流量について,それぞれの安静時に対する歩行後変化率を求め,対応のないt検定にて2群間の変化率を比較した。有意水準は5%未満とした。
【結果】
1分間歩行の速度として健常群は4.3±0.5km/h,脳卒中群は1.8±0.9km/hであった。IMT値は健常群が0.4±0.4mm,脳卒中群が1.0±0.5mmであり,有意差(P<0.01)を認めた。動作前後における変化率において,脈拍数は健常群が20.4±19.6%,脳卒中群が10.9±8.6%で有意差(P<0.01)を認めた。平均血流速度は健常群が-2.5±18.8%,脳卒中群が-20.9±14.5%で有意差(P<0.04)を認めた。平均血圧は健常群で14.3±11.7%,脳卒中群で8.9±14.2%,総頸動脈径は健常群で-4.7±7.6%,脳卒中群で6.2±16.5%,総頸動脈血流量は健常群で-11.1±21.9%,脳卒中群で-8.1±31.9%であり,これらは健常群と脳卒中群との間に有意差を認めなかった。
【考察】
総頚動脈径は健常群においては縮小傾向,脳卒中群においては拡張傾向であった。脳卒中群は血管口径の拡張を引き起こすことで脳血流量を維持し,血管口径の拡張に伴い,血流に対する頸動脈断面積の増加により平均血流速度の減少がみられ,平均血流速度において有意差が認められたと考えられる。総頚動脈径においては有意差がみられず,今後症例数を増やして検討していく必要性がある。
本研究における対象者は,脳卒中群の方が健常群と比較して,年齢が高く,IMTが肥厚している傾向があり,脳卒中群は動脈硬化が進んでいる事が考えられる。脳卒中群は総頚動脈の動脈硬化による血管の伸展性低下や圧受容器の感受性低下が起こり,自律神経反応が起こりにくいと推定されたが,脳卒中群の血圧調整及び血流量調節の自律神経反応は健常者と同等に保たれており,脳血流量は安全に保たれていた。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中発症後30日前後における歩行は,脳血流量という循環動態の視点から危険性は低く,安全性が高いと考えられる。