第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター1

脳損傷理学療法5

Fri. Jun 5, 2015 11:20 AM - 12:20 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P1-A-0271] 脳卒中急性期におけるpusher現象と病態失認の関連性

寺田秀範1, 田中孔明1, 網本和2 (1.千葉中央メディカルセンター, 2.首都大学東京健康福祉学部)

Keywords:脳卒中, 病態失認, pusher現象

【はじめに,目的】Pusher現象は片麻痺患者がいわゆる健側肢で接触面を押して,正中軸を越えて麻痺側方向へ倒れる現象である。臨床的には寝返り動作からpusher現象は観察されることも多い。網本らは脳血管疾患患者における座位時のpusher現象は運動麻痺を有する症例で25.5%の頻度を示したと報告したが,寝返り時のpusher現象の頻度については先行研究が無い。また,寝返り時と座位時のpusher現象の関係性も十分明らかではない。
病態失認は右半球損傷(特に頭頂葉)で多く観察され,リハビリテーションの際に必要な注意の持続や障害に対するモチベーション低下などの阻害因子となる。特に運動麻痺に対しての無関心や注意不足が起こりやすくなり,運動療法の阻害となりやすい。Pusher現象と病態失認は共に右半球損傷で多く見られ,頭頂葉系が関与しているとされる。この二つの障害は身体の認識に障害があるために起こるという解釈が多くなされており,関連があるとされている。しかし,急性期での関連性の報告はこれまで行われていない。今回,急性期におけるpusher現象と病態失認の関連性を明らかにすること,また寝返り時と座位時でのpusher現象の関連性について明らかにすることを目的とした。
【方法】対象:脳卒中患者でリハを実施した患者59名で平均年齢±標準偏差は74.2±10.3歳であった。調査時に麻痺が無い者,重度意識障害や全身状態不良で評価困難な者は除外した。発症から調査までの日数の平均±標準偏差は2.8±3.5日であった。方法:可能な限り早期に寝返り時pusher現象の有無(程度)と病態失認の有無(程度)について調査した。患者が端座位練習可能となった際にもpusher現象を調査した。Pusher現象の評価は寝返りではDAquila(2004)のスケール,座位ではScale for Contraversive Pushing(SCP)を使用した。病態失認の評価はBisiach(1986)のスケールを使用した。SCPの合計値が1.75以上を座位でpusher現象ありと判定した。Pusher現象の有無と病態失認の有無,寝返りpusher現象の有無と座位pusher現象の有無の関連性について,SPSS ver16.0を用いてχ2検定で検討した。
【結果】病態失認を呈した患者は9名(15%)であった。Pusher現象を呈した患者は寝返りでは13名(22%),座位では19名(32%)であった。寝返りpusher群は左麻痺8名,右麻痺3名,両麻痺1名であった。座位pusher群は左麻痺14名,右麻痺5名,両麻痺1名であった。病態失認を呈した患者の78%がpusher現象を呈し(p=0.01),寝返りpusher群の85%が座位でもpusher現象を呈した(p<0.01)。
【考察】対象患者の15%が急性期において病態失認を呈した。また,病態失認患者の78%がpusher現象も伴う結果となった。病態失認,pusher現象は共に身体や運動の知覚認知に問題があるとされているが今回の結果からも強い関連性が示唆され,身体図式障害説を支持する可能性があった。また寝返り時のpusher現象がある場合,85%と高い割合で座位でのpusher現象を合併した。病態失認とpusher現象を併発している患者の病巣は右中大脳動脈領域梗塞,右頭頂葉,左右視床などであった。右半球損傷で起こりやすいとされる二つの症状であるが左半球,特に感覚中枢の視床の損傷で観察された。今回の研究により安静度制限の多い超急性期でのベッド上リハビリテーション場面において臥位の状態で判断可能な病態失認の有無や寝返り時のpusher現象から座位時の状態を予測可能であることも示唆された。
【理学療法学研究としての意義】今回の研究から脳卒中リハビリテーションの際に問題となることが多い病態失認とpusher現象の関係性が高いことが示唆された。今後二つの病態について特に急性期では重要なデータであると考えられる。また寝返り時のpusher現象の割合を示した初めての報告であり,急性期ベッドサイドでのリハビリテーションの新たな知見となり得ると考える。