[P1-A-0293] 職域拡大に向けた訪問リハビリテーションの新たな取り組み
キーワード:職域拡大, 訪問リハビリテーション, 理学療法士の専門性
【はじめに,目的】
保険制度改定に伴い,リハビリテーション(以下,リハビリ)提供の日数制限や,訪問リハビリにおける上限設定,外来リハビリの縮小等,回復期以降の理学療法の提供範囲の縮小が進む一方で,理学療法士の総数は10万人を超え,年間1万人以上の新人理学療法士が輩出されるなど,我々を取り巻く社会環境はめまぐるしく変化している。
今後,リハビリの提供範囲が変わらず,理学療法士が増え続ければ,需要と供給のバランスが崩れ,理学療法士が飽和状態となる未来が訪れるかもしれない。これを回避するために,理学療法士の専門性を活かした職域拡大が嘱望されている。
今回,退院許可が出たが,入院前と比較し大きく身心機能が変化したため,退院を迷うケースに対し,退院決定の段階から理学療法士がケアマネジャー(以下,ケアマネ)と共同で関わり,円滑な在宅生活への移行と,効果的なADL改善が行えたケースを通して見えた,訪問リハビリの新しい形について考察を加え報告する。本報告が,理学療法士の職域拡大の一助になればと考えている。
【方法】
症例は90代女性。入院前は認知症を有するもADLは自立。畑仕事等も行われていた。今回,感染性腸炎にて入院。せん妄症状が出現したため,ベッド上で拘束され,寝たきり状態となった。入院約3週後,状態安定にて退院許可が出た。しかし,身心機能の低下が著明であり,在宅での受け入れをはじめとした家族の不安感等,在宅生活移行に多くの障害があった。このため担当ケアマネより退院前評価の依頼あり,ケアマネと共に病院へ評価に赴いた。退院前評価として,身体機能や予後予測,自宅退院の可否の検討,退院後の生活の予測,リスク等の評価を行い,早期の在宅への退院が有効であるとアドバイスを行った。それにより自宅退院へと方針を固めた。退院に際し,退院時カンファレンスに出席。退院後も週1回の訪問リハビリを実施し円滑な在宅生活への移行と,機能改善に努めた。
今回の関わりの注目すべき点は,退院から初回訪問までに時差が生じないように,初回訪問を退院日の退院時刻とし,動線の確認や環境調整,在宅療養上の注意点,介護の方法やリスクマネジメント,さらに次回訪問日までの過ごし方等について,介護者へアドバイスを行った点であった。
【結果】
退院前評価,退院時カンファレンス,時差のない初回訪問により,退院について判断に難渋していたケアマネの選択を助けるとともに,受け入れ体制が整備できたことで,家族の不安感の解消につながり,円滑に在宅生活へ移行でき,せん妄の消失や落ち着いた生活が可能となった。退院1.5カ月後には身体機能も改善し,入院前同様,畑仕事等も行えるようになった。
【考察】
入院による安静臥床は,廃用症候群を引き起こし,低下した身体機能と住環境の不一致や,転倒等の2次的合併症と相まって,退院後に身体機能やADLが低下するケースが散見される。また退院に際して,退院先の決定や,変化した身体機能の把握,予後予測,住環境の適合,リスクマネジメント,家族の介護状況の把握等多くの調整を行わなくてはならず,医療と介護の連携が必須であると考えられる。しかし現状では退院に際しケアマネが一人でこれらの問題を解決しなくてはならないことが多い。
理学療法士は,心身機能の把握や予後予測,廃用症候群の予防等のリスクマネジメントや,身体機能に応じた住環境整備等を行っている。本ケースでは,これら理学療法士の専門性を有効に活用し,退院前からケアマネと連携したことで,退院前後の諸問題をリハビリ視点からマネジメントでき,退院直後の機能低下の予防,円滑な在宅生活への移行や,短期間でのADL改善につながったと考える。
今回の取り組みは,理学療法の効果を示すうえや,保険料高騰の抑止に大変意義深い結果であると考える。また社会や行政に対して理学療法士の貢献度をアピールするうえでも意義深い結果であると考える。
本ケースのように入院前後で大きく心身機能が変化し,退院を迷うようなケースにおける退院前後のマネジメントを新たな職域として捉え,他職種と連携し,理学療法士の視点から環境調整やリスクマネジメントに特化した理学療法を提供することが,訪問リハビリの新しい1つの形となるのではないかと考える。
【理学療法学研究としての意義】
本ケースのように,理学療法士の可能性を活かし,既存の保険事業内において,従来対象と認識していなかったケースも,理学療法の対象と認識していくことが,理学療法士の職域拡大に繋がると考える。その一例を示せたことは大変意義深いと考える。
保険制度改定に伴い,リハビリテーション(以下,リハビリ)提供の日数制限や,訪問リハビリにおける上限設定,外来リハビリの縮小等,回復期以降の理学療法の提供範囲の縮小が進む一方で,理学療法士の総数は10万人を超え,年間1万人以上の新人理学療法士が輩出されるなど,我々を取り巻く社会環境はめまぐるしく変化している。
今後,リハビリの提供範囲が変わらず,理学療法士が増え続ければ,需要と供給のバランスが崩れ,理学療法士が飽和状態となる未来が訪れるかもしれない。これを回避するために,理学療法士の専門性を活かした職域拡大が嘱望されている。
今回,退院許可が出たが,入院前と比較し大きく身心機能が変化したため,退院を迷うケースに対し,退院決定の段階から理学療法士がケアマネジャー(以下,ケアマネ)と共同で関わり,円滑な在宅生活への移行と,効果的なADL改善が行えたケースを通して見えた,訪問リハビリの新しい形について考察を加え報告する。本報告が,理学療法士の職域拡大の一助になればと考えている。
【方法】
症例は90代女性。入院前は認知症を有するもADLは自立。畑仕事等も行われていた。今回,感染性腸炎にて入院。せん妄症状が出現したため,ベッド上で拘束され,寝たきり状態となった。入院約3週後,状態安定にて退院許可が出た。しかし,身心機能の低下が著明であり,在宅での受け入れをはじめとした家族の不安感等,在宅生活移行に多くの障害があった。このため担当ケアマネより退院前評価の依頼あり,ケアマネと共に病院へ評価に赴いた。退院前評価として,身体機能や予後予測,自宅退院の可否の検討,退院後の生活の予測,リスク等の評価を行い,早期の在宅への退院が有効であるとアドバイスを行った。それにより自宅退院へと方針を固めた。退院に際し,退院時カンファレンスに出席。退院後も週1回の訪問リハビリを実施し円滑な在宅生活への移行と,機能改善に努めた。
今回の関わりの注目すべき点は,退院から初回訪問までに時差が生じないように,初回訪問を退院日の退院時刻とし,動線の確認や環境調整,在宅療養上の注意点,介護の方法やリスクマネジメント,さらに次回訪問日までの過ごし方等について,介護者へアドバイスを行った点であった。
【結果】
退院前評価,退院時カンファレンス,時差のない初回訪問により,退院について判断に難渋していたケアマネの選択を助けるとともに,受け入れ体制が整備できたことで,家族の不安感の解消につながり,円滑に在宅生活へ移行でき,せん妄の消失や落ち着いた生活が可能となった。退院1.5カ月後には身体機能も改善し,入院前同様,畑仕事等も行えるようになった。
【考察】
入院による安静臥床は,廃用症候群を引き起こし,低下した身体機能と住環境の不一致や,転倒等の2次的合併症と相まって,退院後に身体機能やADLが低下するケースが散見される。また退院に際して,退院先の決定や,変化した身体機能の把握,予後予測,住環境の適合,リスクマネジメント,家族の介護状況の把握等多くの調整を行わなくてはならず,医療と介護の連携が必須であると考えられる。しかし現状では退院に際しケアマネが一人でこれらの問題を解決しなくてはならないことが多い。
理学療法士は,心身機能の把握や予後予測,廃用症候群の予防等のリスクマネジメントや,身体機能に応じた住環境整備等を行っている。本ケースでは,これら理学療法士の専門性を有効に活用し,退院前からケアマネと連携したことで,退院前後の諸問題をリハビリ視点からマネジメントでき,退院直後の機能低下の予防,円滑な在宅生活への移行や,短期間でのADL改善につながったと考える。
今回の取り組みは,理学療法の効果を示すうえや,保険料高騰の抑止に大変意義深い結果であると考える。また社会や行政に対して理学療法士の貢献度をアピールするうえでも意義深い結果であると考える。
本ケースのように入院前後で大きく心身機能が変化し,退院を迷うようなケースにおける退院前後のマネジメントを新たな職域として捉え,他職種と連携し,理学療法士の視点から環境調整やリスクマネジメントに特化した理学療法を提供することが,訪問リハビリの新しい1つの形となるのではないかと考える。
【理学療法学研究としての意義】
本ケースのように,理学療法士の可能性を活かし,既存の保険事業内において,従来対象と認識していなかったケースも,理学療法の対象と認識していくことが,理学療法士の職域拡大に繋がると考える。その一例を示せたことは大変意義深いと考える。