[P1-B-0136] 体幹・下肢筋力の均衡とバランス・歩行能力の関連について
Keywords:均衡, バランス, 歩行
【はじめに,目的】
歩行時の姿勢調整,転倒のリスクを検査する際には,下肢機能や体幹機能に注目し検討されている。下肢筋力と転倒に関して,下肢筋力の低下が将来の転倒発生と関連することが明らかにされている。体幹筋力と歩行能力に関して,体幹伸展筋力が強いほど歩行能力が高いとの報告がある。筋の均衡は,主動作筋と拮抗筋の長さや強さの均等性に関連したものと定義される。拮抗筋の強さや柔軟性の低下により筋の均衡が崩れると複雑な運動への不適応反応を示し,重度になると機能障害に至ると考えられている。しかし,個々の筋力とバランスや動作能力の関連を検討した報告は多いものの,下肢・体幹筋力の均衡で検討した報告は少ない。
本研究の目的は,①下肢・体幹筋力の均衡に性差はあるのか,②下肢・体幹肢力の均衡に加齢は影響するのか,③下肢・体幹筋力や筋の均衡とバランス能力,歩行能力との関連について調査することとした。
【方法】
対象は,下肢および体幹に運動器疾患などの既往のない健常若年者60人(男性21人,女性39人,平均年齢21.4±0.8歳),健常高齢者51人(男性11人,女性40人,平均年齢69.8±5.7歳)とした。
測定項目は,下肢・体幹筋力,立位バランス,歩行能力とした。筋力の測定は,徒手筋力計(酒井医療製モービィMT-100),固定・牽引用ベルト(同プルセンサー)を用い,被検筋を右膝関節伸展筋,右膝関節屈曲筋,体幹伸展筋,体幹屈曲筋の4筋群とした。測定肢位は,いずれの測定も端座位で体幹中間位,股関節・膝関節屈曲90°とし,測定は,等尺性最大収縮にてそれぞれ3回実施した。データ解析は得られた3回の最大値を体重で除した値(N/kg)を用いた。また,膝関節筋,体幹筋の主動作筋と拮抗筋の均衡を評価するため伸展筋力/屈曲筋力比(E/F比)を求めた。立位バランスの測定は,Functional reach test(FRT)を実施した。ファンクショナルリーチ測定器(OG技研製GT-100)を用い,立位での前方リーチ距離(cm)を1回測定した。歩行能力の測定は,10m最大歩行時間試験(10mWT)を実施した。前後に3mの助走路を設けた10mの歩行路をできるだけ早く歩いた時の所要時間(sec)をストップウォッチにて1回計測した。
本研究にて得られた数値は,平均値±標準偏差で表した。有意差の検定には,対応のないt検定を,因果関係の分析には,重回帰分析を実施した。いずれも有意水準を5%未満とした。
【結果】
膝関節E/F比は,若年男性:1.7±0.4,若年女性:1.4±0.2,高齢男性:1.7±0.6,高齢女性:1.7±0.6であった。体幹E/F比は,若年男性:1.3±0.2,若年女性:1.5±0.4,高齢男性:1.5±0.2,高齢女性:1.8±0.5であった。FRT(cm)は,若年男性:413.2±54.6,若年女性:381.1±40.1,高齢男性316.3±39.7,高齢女性:252.3±53.1であった。10mWT(sec)は,若年男性:3.0±0.5,若年女性:3.5±0.5,高齢男性:4.5±0.6,高齢女性:5.5±0.6であった。
(1)下肢・体幹筋力均衡の性差
若年男性では,若年女性と比較して膝関節E/F比が有意に大きく性差を認めた(p<0.01)が,高齢者ではいずれも性差を認めなかった。
(2)加齢による下肢・体幹筋力均衡の影響
高齢者では膝関節E/F比(p<0.01),体幹E/F比(p<0.05)ともに若年者と比較して有意な高値を示した。
(3)下肢・体幹筋力・筋力の均衡とバランス能力,歩行能力との関連
標準偏回帰係数は,10mWTにおける膝関節屈曲筋力,膝関節E/F比のみで有意差を認め(p<0.01),膝関節屈曲筋力,膝関節E/F比は10mWTの増減に負の影響を与えることが示唆された。
【考察】
若年者と比較して高齢者では,下肢・体幹筋の均衡が有意に高値を示したことから,これらの筋は加齢による筋力低下が一律に生じるのではなく,屈曲筋が有意に低下する可能性が示唆された。筋の均衡と立位バランスの間には,明らかな関連を認めなかった理由に,今回選択した被験筋に加え股関節や足関節周囲筋による検討も必要なことが示唆された。
今後は,被験者の追加による各年代の筋力均衡の推移および下肢筋力均衡の左右差,バランス・歩行障害を有する者の体幹・下肢筋力の特性などの検討が必要と考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
日常生活活動(ADL)の自立度に歩行などの移動動作能力が与える影響は大きい。本研究で示した,下肢・体幹筋の機能を筋の均衡に着目し,バランス,歩行能力との関連で捉えることが,下肢・体幹筋機能低下者に対するADLの改善を目的とした理学療法の一指標になるものと考える。
歩行時の姿勢調整,転倒のリスクを検査する際には,下肢機能や体幹機能に注目し検討されている。下肢筋力と転倒に関して,下肢筋力の低下が将来の転倒発生と関連することが明らかにされている。体幹筋力と歩行能力に関して,体幹伸展筋力が強いほど歩行能力が高いとの報告がある。筋の均衡は,主動作筋と拮抗筋の長さや強さの均等性に関連したものと定義される。拮抗筋の強さや柔軟性の低下により筋の均衡が崩れると複雑な運動への不適応反応を示し,重度になると機能障害に至ると考えられている。しかし,個々の筋力とバランスや動作能力の関連を検討した報告は多いものの,下肢・体幹筋力の均衡で検討した報告は少ない。
本研究の目的は,①下肢・体幹筋力の均衡に性差はあるのか,②下肢・体幹肢力の均衡に加齢は影響するのか,③下肢・体幹筋力や筋の均衡とバランス能力,歩行能力との関連について調査することとした。
【方法】
対象は,下肢および体幹に運動器疾患などの既往のない健常若年者60人(男性21人,女性39人,平均年齢21.4±0.8歳),健常高齢者51人(男性11人,女性40人,平均年齢69.8±5.7歳)とした。
測定項目は,下肢・体幹筋力,立位バランス,歩行能力とした。筋力の測定は,徒手筋力計(酒井医療製モービィMT-100),固定・牽引用ベルト(同プルセンサー)を用い,被検筋を右膝関節伸展筋,右膝関節屈曲筋,体幹伸展筋,体幹屈曲筋の4筋群とした。測定肢位は,いずれの測定も端座位で体幹中間位,股関節・膝関節屈曲90°とし,測定は,等尺性最大収縮にてそれぞれ3回実施した。データ解析は得られた3回の最大値を体重で除した値(N/kg)を用いた。また,膝関節筋,体幹筋の主動作筋と拮抗筋の均衡を評価するため伸展筋力/屈曲筋力比(E/F比)を求めた。立位バランスの測定は,Functional reach test(FRT)を実施した。ファンクショナルリーチ測定器(OG技研製GT-100)を用い,立位での前方リーチ距離(cm)を1回測定した。歩行能力の測定は,10m最大歩行時間試験(10mWT)を実施した。前後に3mの助走路を設けた10mの歩行路をできるだけ早く歩いた時の所要時間(sec)をストップウォッチにて1回計測した。
本研究にて得られた数値は,平均値±標準偏差で表した。有意差の検定には,対応のないt検定を,因果関係の分析には,重回帰分析を実施した。いずれも有意水準を5%未満とした。
【結果】
膝関節E/F比は,若年男性:1.7±0.4,若年女性:1.4±0.2,高齢男性:1.7±0.6,高齢女性:1.7±0.6であった。体幹E/F比は,若年男性:1.3±0.2,若年女性:1.5±0.4,高齢男性:1.5±0.2,高齢女性:1.8±0.5であった。FRT(cm)は,若年男性:413.2±54.6,若年女性:381.1±40.1,高齢男性316.3±39.7,高齢女性:252.3±53.1であった。10mWT(sec)は,若年男性:3.0±0.5,若年女性:3.5±0.5,高齢男性:4.5±0.6,高齢女性:5.5±0.6であった。
(1)下肢・体幹筋力均衡の性差
若年男性では,若年女性と比較して膝関節E/F比が有意に大きく性差を認めた(p<0.01)が,高齢者ではいずれも性差を認めなかった。
(2)加齢による下肢・体幹筋力均衡の影響
高齢者では膝関節E/F比(p<0.01),体幹E/F比(p<0.05)ともに若年者と比較して有意な高値を示した。
(3)下肢・体幹筋力・筋力の均衡とバランス能力,歩行能力との関連
標準偏回帰係数は,10mWTにおける膝関節屈曲筋力,膝関節E/F比のみで有意差を認め(p<0.01),膝関節屈曲筋力,膝関節E/F比は10mWTの増減に負の影響を与えることが示唆された。
【考察】
若年者と比較して高齢者では,下肢・体幹筋の均衡が有意に高値を示したことから,これらの筋は加齢による筋力低下が一律に生じるのではなく,屈曲筋が有意に低下する可能性が示唆された。筋の均衡と立位バランスの間には,明らかな関連を認めなかった理由に,今回選択した被験筋に加え股関節や足関節周囲筋による検討も必要なことが示唆された。
今後は,被験者の追加による各年代の筋力均衡の推移および下肢筋力均衡の左右差,バランス・歩行障害を有する者の体幹・下肢筋力の特性などの検討が必要と考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
日常生活活動(ADL)の自立度に歩行などの移動動作能力が与える影響は大きい。本研究で示した,下肢・体幹筋の機能を筋の均衡に着目し,バランス,歩行能力との関連で捉えることが,下肢・体幹筋機能低下者に対するADLの改善を目的とした理学療法の一指標になるものと考える。