第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター1

身体運動学5

Fri. Jun 5, 2015 1:50 PM - 2:50 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P1-B-0139] 不良姿勢が歩行に与える影響

脊柱-骨盤の筋活動比較から

藤谷亮1, 治郎丸卓三1, 大西均1, 伊坂忠夫2 (1.滋賀医療技術専門学校理学療法学科, 2.立命館大学スポーツ健康科学研究科)

Keywords:姿勢, 筋活動, 歩行

【はじめに,目的】
日本における腰痛は,有訴率が40~50%,既往歴が70~80%と多い,そのため腰痛は医療費の増大だけでなく,社会参加を妨げることによる経済損失も莫大であり,日本を含む先進国で大きな社会問題となっている。腰痛と脊柱・骨盤アライメントは関連があり,中でもスウェイバックや腰椎過前弯などの不良姿勢は腰痛との関連が指摘されている。これまでの不良姿勢の筋電図学的研究から,スウェイバックや腰椎過前弯では体幹深層筋の活動低下が生じることが報告されている。これらは脊柱-骨盤肢位の変化が,姿勢制御系に影響を及ぼすことを示唆している。しかし,先行研究は静的な状態に集中し,姿勢と筋活動の動的影響は明らかにされておらず,動的状態での姿勢と筋活動の関係についてはほとんど知られていない。歩行は姿勢と動的姿勢制御の両方を含む,最も頻繁に使用される移動手段である。歩行という動的な姿勢制御を必要とする作業において,不良姿勢では異なる筋活動を呈することが考えられる。また不良姿勢が動作時の体幹・股関節の表層および深層の筋活動パターンに与える影響を検討することは,不良姿勢が腰痛患者に与える影響,および腰痛を回避するための姿勢指導という観点においても重要なことである。したがって,本研究は,歩行と姿勢の関係を検討し,姿勢が歩行時の体幹および股関節の筋活動に与える影響を検討することを目的とした。

【方法】
腰痛のない健常成人男性15名を対象とした。計測する姿勢条件は①骨盤直立(NU),②スウェイバク(SW),③腰椎過前弯(LO)の3条件とした。各被験者に対して,各姿勢をランダムに取らせ,その時の姿勢および筋活動を計測した。歩行計測の前に同一検者により姿勢指導を行い,こちらの指示に対して直ちにその肢位が取れるようにした。また計測は,歩行速度を一定にするためトレッドミル上で行った。脊柱・骨盤傾斜および各関節の運動を計測には3次元計測装置を用いた。筋活動の測定は表面筋電図を使用し,歩行中の筋活動を計測。測定部位は体幹表層の脊柱起立筋,腹直筋,外腹斜筋,また深層の多裂筋,内腹斜筋に貼付した。股関節でも同様に屈筋で表層の大腿直筋,縫工筋と深層の腸腰筋に対して電極を貼付した。筋電図の計測にはテレメトリー型筋電計を用い,1000Hzのサンプリング周波数で記録した。動作解析ソフト(Kine Analyzer,KISSEI COMTEC CO, LTD, Japan)を用いて,トリガー信号を基に動作データと同期し,EMGデータはフィルタ処理,全波整流処理を行い,MVCを基準に歩行周期に合わせ正規化した。NUを基準として各不良姿勢(SW,LO)を比較検討するため,立脚期,遊脚期ごとに正規化された各3次元データとEMGデータに対して一元配置分散分析を行い,有意差のある項目について多重比較検定を行った。有意水準は5%未満とした。

【結果】
各姿勢は歩行中,脊柱-骨盤,体幹傾斜において有意差を認めた(P<0.05)。また筋活動に関して,SWではNUと比較して,歩行周期全般で表層筋である腹直筋,縫工筋,大腿直筋の有意な活動増加を認めた(P<0.05)。反面,深層筋である内腹斜筋,腸腰筋の有意な活動低下を認めた(P<0.05)。LOでは有意に体幹背側の胸部脊柱起立筋,腰部多裂筋の活動増加(P<0.05)を認め,腹部では深層筋である内腹斜筋の活動低下を認めた(P<0.05)。

【考察】
立位姿勢の変化は,歩行時の体幹および股関節の筋活動を変化させた。SWは表層筋の活動を増加させ,深層筋の活動を低下させた。SWは静的姿勢保持に非収縮要素に依存していると考えられている。SWは動作時でも同様の傾向を示すことから腰部-骨盤に加わるストレス増加が懸念される姿勢であると考える。次にLOでは歩行周期全般で深層及び表層の背筋群の活動増加と,腹部深層筋の活動低下を認めた。遊脚期にもみられる背筋群の活動増加は腰痛患者における歩行時の特徴と合致する。いずれの不良姿勢においても腰痛の発症との因果関係を示す筋活動を認めた。本研究は腰痛患者への姿勢教育の有用性を示すだけでなく,腰痛患者への理学療法において腰部-骨盤安定化を図るとき,不良姿勢の動的姿勢制御への影響を考慮することの重要性を示している。

【理学療法学研究としての意義】
不良姿勢を有する腰痛患者への姿勢指導の有効性を示すものであり,また不良姿勢が静的だけでなく動的姿勢制御に影響を与えるという考えのもと治療を行う理学療法士の考えを支持するものである。