第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター1

身体運動学6

Fri. Jun 5, 2015 1:50 PM - 2:50 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P1-B-0145] 腹臥位での下肢空間保持課題が反対側の僧帽筋下部線維の筋活動に与える影響

―前腕の回内・回外角度に着目して―

池澤秀起1, 井尻朋人1, 鈴木俊明2 (1.喜馬病院, 2.関西医療大学大学院保健医療学研究科)

Keywords:僧帽筋, 前腕, 筋活動

【はじめに,目的】
肩関節疾患患者の上肢挙上運動は,肩甲骨の挙上など代償運動を認めることが多い。この原因の一つとして,僧帽筋下部線維の筋力低下が挙げられるが,疼痛や代償運動により患側上肢を用いた運動で僧帽筋下部線維の筋活動を促すことに難渋する。そこで,上肢の運動を伴わずに僧帽筋下部線維の筋活動を促す方法として,腹臥位での患側上肢と反対側の下肢空間保持が有効ではないかと考えた。その結果,第47回日本理学療法学術大会において,腹臥位での下肢空間保持における反対側の僧帽筋下部線維の活動と,腹臥位での肩関節外転145度位保持側の僧帽筋下部線維の活動は同程度であったと報告した。また,第53回近畿理学療法学術大会では,腹臥位での下肢空間保持で肩関節外転角度を変化させた際の僧帽筋下部線維の活動は,0度,30度,60度に対して90度,120度で有意に増大したと報告した。一方,先行研究は全て前腕回内位で測定したため,前腕回内・回外角度の変化が僧帽筋下部線維の筋活動に影響を与えるのかは明確でない。そこで,腹臥位での下肢空間保持において前腕回内・回外角度の変化が僧帽筋下部線維の筋活動に与える影響を明らかにし,僧帽筋下部線維の筋活動を選択的に促すためのトレーニングの一助にしたいと考えた。

【方法】
対象は上下肢,体幹に現在疾患を有さない健常男性21名(年齢25.7±2.9歳,身長168.8±5.3cm,体重61.0±6.7kg)とした。測定課題は,利き腕と反対側の下肢空間保持とした。測定肢位は,腹臥位でベッドと顎の間に両手を重ねた肢位で,下肢は両股関節中間位,膝関節伸展位とした。また,両上肢は肩関節外転90度で固定し,前腕は手掌がベッドに接地する回内肢位と,手掌が顎に接地する回外肢位とした。肩関節外転角度の測定はゴニオメーター(OG技研社製)を用いた。測定筋は,下肢空間保持側と反対の僧帽筋上部・中部・下部線維,三角筋前部・中部・後部線維,広背筋とした。筋電図測定にはテレメトリー筋電計MQ-8(キッセイコムテック社製)を使用した。測定筋の筋活動は,1秒間当たりの筋電図積分値を安静腹臥位の筋電図積分値で除した筋電図積分値相対値で表した。また,算出された筋電図積分値相対値を対応のあるt-検定を用いて比較した。危険率は5%未満とした。

【結果】
僧帽筋下部線維の筋電図積分値相対値は,前腕回内位で12.2±11.2,回外位で11.6±6.7となり,肢位の変化により有意差を認めなかった。三角筋後部線維の筋電図積分値相対値は,前腕回内位で28.4±19.9,回外位で20.0±12.8となり,前腕回外位と比較し回内位で有意に増大した。その他の筋群の筋電図積分値相対値は,前腕回内位,回外位の変化により有意差を認めなかった。

【考察】
今回の結果から,腹臥位での下肢空間保持時の僧帽筋下部線維の筋活動は,前腕の肢位による影響を受けにくいことが判明した。つまり,腹臥位での下肢空間保持は,前腕の肢位に関係なく僧帽筋下部線維の筋活動を促せる可能性が高い。そのため,脳卒中などにより前腕の自由度が乏しく強制肢位を呈した対象者でも,適応可能な運動療法になることが示唆された。一方,今回の研究で,前腕回内・回外の変化により僧帽筋下部線維の筋活動に有意差を認めなかった。今回の研究では,前腕を可動域のほぼ最終域まで回内,回外させるため,周辺の軟部組織に強い伸張を強制することが推察される。そのため,手関節の回外に対しては,肩甲骨を前傾させることで上腕や前腕の空間的な位置が変化し,結果的に周辺組織に作用する負荷を回避させるのではないかと考えた。その結果,肩甲骨の前傾に対して姿勢を保持するために,肩甲骨の後傾に作用する僧帽筋下部線維の筋活動が増大するのではないかと考えた。しかし,前腕の回内外の変化に対して僧帽筋下部線維の筋活動に有意差を認めなかったことから,前腕の回内外が肩甲骨の前後傾に与える影響は乏しいのではないかと考える。
一方,今回の研究において,前腕の回内外により肩甲骨ではなく上腕骨に回旋が生じた可能性も挙げられる。その結果,三角筋後部線維の筋走行が変化し,三角筋後部線維の筋活動に有意差が生じたのではないかと推察した。しかし,今回の研究では前腕の回内外の変化が上腕骨に与える影響を測定していないため今後の検討課題となった。

【理学療法学研究としての意義】
腹臥位での下肢空間保持において,僧帽筋下部線維の筋活動は前腕の回内外の変化により有意差を認めなかった。このことから,前腕の肢位に関係なく腹臥位での下肢空間保持を行うことで,空間保持側と反対側の僧帽筋下部線維の筋活動を促せることが示唆された。