第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター1

人工股関節1

2015年6月5日(金) 13:50 〜 14:50 ポスター会場 (展示ホール)

[P1-B-0213] 人工股関節全置換術後早期における重心動揺の検討

吉村ゆかり, 塩田悦仁, 手島礼子, 小谷尚也, 松田拓朗 (福岡大学病院)

キーワード:人工股関節全置換術, 重心動揺, 固有感覚

【はじめに】当院では,人工股関節全置換術(以下THA)を施行した症例のほとんどが,術後荷重制限なく歩行を許可され,2週間程で転院となる。今回,術前と術後早期における重心動揺を経時的に計測し,その結果を検討したので報告する。
【方法】対象は2011年8月~2014年10月の期間に,変形性股関節症のため当院でTHAを施行した患者のうち,片側股関節に初回THAを施行し,術後の荷重制限が無かった39例39股(男性11股,女性28股,平均年齢62.7±9.4歳)とした。計測時期は術前および術後1週・術後2週で,計測項目は重心動揺で得られたデータのうち,総軌跡長(開眼閉眼)・外周面積(開眼閉眼)・外周面積ロンベルグ率・左右方向動揺平均中心変位開眼(以下MX)・前後方向動揺平均中心変位開眼(以下MY)を採用し,MXに関しては非術側方向が正の値となるように変換した。計測にはActive Balancer EAB100(酒井医療社製)を使用し,サンプリング周波数は20Hzとし,計測時間は30秒とした。統計学的処理には多重比較検定Scheffe法を用い,有意水準は5%未満とした。
【結果】総軌跡長開眼は,術前・術後1週・術後2週で各々74.97±26.61cm/76.05±20.80cm/73.65±20.10cm,閉眼は108.33±50.51cm/118.31±48.50cm/109.52±44.38cmとなり,各間での有意差を認めなかった。外周面積開眼は,2.71±2.18 cm2/3.12±1.83 cm2/2.31±1.32 cm2となり,術後1週で動揺が大きくなるが,術後2週では術前より改善がみられ,術後1週と術後2週で有意差を認めた。外周面積閉眼は5.95±4.23 cm2/6.68±4.09 cm2/6.23±4.53 cm2となり,術後1週で動揺が大きくなるが,各間での有意差を認めなかった。外周面積ロンベルグ率は2.33±1.08/2.44±1.49/2.74±1.87となり,経過とともに増加する傾向であった。MXは-0.70±1.13cm/-0.95±1.40cm/-0.41±0.96cmとなり,術後1週では非術側へ変位するが,術後2週で術側への変位がみられ重心が正中位へ移動しており,術後1週と術後2週で有意に差のある傾向を認めた。MYは-3.75±1.67cm/-3.96±1.58cm/-3.87±1.45cmとなり,常時後方へ変位しており,各間での有意差を認めなかった。
【考察】THA術後の重心動揺に関する過去の報告では,左右方向動揺平均中心変位に関して,術後2週では術前と比較して重心が非術側へ移動しており,術後4週で正中位への移動がみられ,外周面積は術後4週~3ヶ月で改善したという報告が多い。本研究では術後1週では重心が非術側へ移動するが,術後2週で正中位への移動がみられた。また,開眼での外周面積は術後2週で術前より改善がみられており,重心が正中位へ移動する術後2週から動揺を示す外周面積も改善してくると考えられた。しかし,閉眼での外周面積は術後2週で有意な改善がみられず,ロンベルグ率は術前・術後1週・術後2週と徐々に増加した。このことから,術直後から術側への全荷重が許可されるものの,術後2週までの重心は視覚に依存するところが大きいと考えた。変形性股関節症患者においては,健常者と比較し微細な姿勢制御が損なわれていることが報告されており,THA術後患者は,術前から固有感覚が低下していることに加え,術後の変化した身体構造に適応できずさらに固有感覚が低下するものと考えられる。そのため,鈍化した固有感覚情報入力を活性化させるためのプログラムを,術直後から導入することが必要であると考えた。
【理学療法学研究としての意義】THA術後早期の効率的な理学療法を進めていくため,固有感覚向上を意識したアプローチをすることは,身体機能向上の一助になると示唆された。