[P1-B-0234] 部分免荷式トレッドミルトレーニングと一般的な歩行練習における歩行速度の向上に対する利得と費用対効果の比較
―人時を作業量とした計算を用いて―
Keywords:BWSTT, 費用対効果, 人時
【はじめに,目的】
ハーネスで身体を吊り下げる免荷式トレッドミルトレーニング(Body weight supported treadmill training:以下,BWSTT)は,脳卒中発症早期から安全に高強度の練習を提供できるとされる。この際,正常歩行に近づけることを目的に複数の理学療法士(以下,PT)により徒手的な介助が行われる。正常歩行に近いステッピングを高強度に反復できるため,脳卒中片麻痺患者の歩行能力の改善に対して,一般的な歩行練習(以下,地上歩行)と比べてBWSTTの方が有利であると言われている。一方,BWSTTの運用には複数のPTを要することによるコストの課題が挙げられている。しかし,先行研究ではコストを加味した費用対効果については明記されていない。
“歩行速度の向上”を生む上で,BWSTTの費用対効果を確認するひとつの方法として“何人のPT”が“何時間”かけて練習を実施したかを考える。“人時(にんじ)”は,ある作業に係わった人数とその作業時間の積であり,作業量の算出に用いられている。
今回,歩行速度が向上したBWSTTの3例と地上歩行の3例に関して以下に述べる方法で歩行速度の「向上」と「利得」,人時に基づく「費用対効果」を比較することで,複数のPTで行うBWSTTが単独のPTで行う地上歩行より有効であると示せるかどうかについて検討した。
【方法】
2013年11月~2014年8月までに当院でBWSTTを実施した46例の内,次の条件を有するものを選択した。条件は,1.発症3ヶ月以内の脳卒中片麻痺者,2.10回以上BWSTTを施行した者,3.初期評価時点で10m快適歩行速度の計測が可能であった者,4.最終評価時点の歩行速度の向上が,Tilsonらの示した歩行速度の臨床的に有意義な最小変化量である0.16m/s以上であった者とし,該当者は4例であった。4例中,BWSTT以外の歩行練習に充てた時間や歩行距離を記録していた3例のデータを今回は使用した。
一方,比較対象となる地上歩行例は,同時期に地上歩行練習を行った6例の内,BWSTTで用いた条件1と3,4で絞り込み,3例が該当した。
BWSTT3例(対象者A-C)と地上歩行3例(対象者α-γ)の属性として,年齢・麻痺側・総歩行練習時間(時)・総歩行距離(m)・初期評価から最終評価までの期間(日)を列記する。(A)54・右・14.33・44614・33,(B)53・右・7.80・14142・27,(C)69・左・7.92・18114・24,(α)64・左・10.37・6378・28,(β)66・左・14.90・13755・29,(γ)59・右・24.13・26879・28。
本研究では向上,利得,費用対効果を次のように算出し,BWSTT例と地上歩行例の比較に用いた。向上は初期評価日と最終評価日の歩行速度の差(m/s),利得は向上を総練習時間で除した値(m/s/時),費用対効果は向上を「費用」で除した値(m/s/人時)とした。費用として人時,すなわち,総練習時間と施行にあたったPT数の積を用いた。
【結果】
各被験者の歩行速度の向上(m/s)と利得(m/s/時),費用対効果(m/s/人時)は,Aで0.65と0.045と0.030,Bで0.29と0.037と0.025,Cで0.21と0.026と0.019,αで0.17と0.017と0.017,βで0.33と0.022と0.022,γで0.27と0.011と0.011であった。
【考察】
BWSTT3例と地上歩行3例の比較では9組の比較が可能である。このうちBWSTT例が地上歩行例より上回っていたのは,向上で6組,利得で9組,費用対効果で8組であった。
中でもAとγの利得の差異は最も大きく,4.0倍であった。向上ではAはγの2.4倍でしかないが,総練習時間が0.6倍と小さかったために利得の差異が大きくなった。
BWSTT例の総練習時間の短さが,PT数の多さによる「費用」増大分を補う形になって,BWSTTの費用対効果は高くなっている。
ただし,総練習時間の算出において,BWSTTでは「準備時間」を,地上歩行では「休憩時間」を含めていない。特にBWSTTの「準備時間」は無視できない長さがあるので,今後はこの点も考慮する必要があるだろう。今回は,総歩行練習時間の差が関わったPT数の差より大きかったため,BWSTT例で費用対効果が高い結果となったと考えられる。
現状の制度内ではマンツーマンの理学療法が基本になっている。しかし,複数のPTが関わることで,関わった人数分以上の効果が得られるケースもあることが今回の費用対効果の検討からわかった。複数のPTが関わることの効果について,様々な練習について検討すべき価値があるだろうと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
実施人数のコストを加味した費用対効果を評価できる“人時”に基づいた費用対効果を検討することにより,複数のPTが関わることで,関わった人数分以上の効果が得られるケースもあることがわかったことに意義がある。
ハーネスで身体を吊り下げる免荷式トレッドミルトレーニング(Body weight supported treadmill training:以下,BWSTT)は,脳卒中発症早期から安全に高強度の練習を提供できるとされる。この際,正常歩行に近づけることを目的に複数の理学療法士(以下,PT)により徒手的な介助が行われる。正常歩行に近いステッピングを高強度に反復できるため,脳卒中片麻痺患者の歩行能力の改善に対して,一般的な歩行練習(以下,地上歩行)と比べてBWSTTの方が有利であると言われている。一方,BWSTTの運用には複数のPTを要することによるコストの課題が挙げられている。しかし,先行研究ではコストを加味した費用対効果については明記されていない。
“歩行速度の向上”を生む上で,BWSTTの費用対効果を確認するひとつの方法として“何人のPT”が“何時間”かけて練習を実施したかを考える。“人時(にんじ)”は,ある作業に係わった人数とその作業時間の積であり,作業量の算出に用いられている。
今回,歩行速度が向上したBWSTTの3例と地上歩行の3例に関して以下に述べる方法で歩行速度の「向上」と「利得」,人時に基づく「費用対効果」を比較することで,複数のPTで行うBWSTTが単独のPTで行う地上歩行より有効であると示せるかどうかについて検討した。
【方法】
2013年11月~2014年8月までに当院でBWSTTを実施した46例の内,次の条件を有するものを選択した。条件は,1.発症3ヶ月以内の脳卒中片麻痺者,2.10回以上BWSTTを施行した者,3.初期評価時点で10m快適歩行速度の計測が可能であった者,4.最終評価時点の歩行速度の向上が,Tilsonらの示した歩行速度の臨床的に有意義な最小変化量である0.16m/s以上であった者とし,該当者は4例であった。4例中,BWSTT以外の歩行練習に充てた時間や歩行距離を記録していた3例のデータを今回は使用した。
一方,比較対象となる地上歩行例は,同時期に地上歩行練習を行った6例の内,BWSTTで用いた条件1と3,4で絞り込み,3例が該当した。
BWSTT3例(対象者A-C)と地上歩行3例(対象者α-γ)の属性として,年齢・麻痺側・総歩行練習時間(時)・総歩行距離(m)・初期評価から最終評価までの期間(日)を列記する。(A)54・右・14.33・44614・33,(B)53・右・7.80・14142・27,(C)69・左・7.92・18114・24,(α)64・左・10.37・6378・28,(β)66・左・14.90・13755・29,(γ)59・右・24.13・26879・28。
本研究では向上,利得,費用対効果を次のように算出し,BWSTT例と地上歩行例の比較に用いた。向上は初期評価日と最終評価日の歩行速度の差(m/s),利得は向上を総練習時間で除した値(m/s/時),費用対効果は向上を「費用」で除した値(m/s/人時)とした。費用として人時,すなわち,総練習時間と施行にあたったPT数の積を用いた。
【結果】
各被験者の歩行速度の向上(m/s)と利得(m/s/時),費用対効果(m/s/人時)は,Aで0.65と0.045と0.030,Bで0.29と0.037と0.025,Cで0.21と0.026と0.019,αで0.17と0.017と0.017,βで0.33と0.022と0.022,γで0.27と0.011と0.011であった。
【考察】
BWSTT3例と地上歩行3例の比較では9組の比較が可能である。このうちBWSTT例が地上歩行例より上回っていたのは,向上で6組,利得で9組,費用対効果で8組であった。
中でもAとγの利得の差異は最も大きく,4.0倍であった。向上ではAはγの2.4倍でしかないが,総練習時間が0.6倍と小さかったために利得の差異が大きくなった。
BWSTT例の総練習時間の短さが,PT数の多さによる「費用」増大分を補う形になって,BWSTTの費用対効果は高くなっている。
ただし,総練習時間の算出において,BWSTTでは「準備時間」を,地上歩行では「休憩時間」を含めていない。特にBWSTTの「準備時間」は無視できない長さがあるので,今後はこの点も考慮する必要があるだろう。今回は,総歩行練習時間の差が関わったPT数の差より大きかったため,BWSTT例で費用対効果が高い結果となったと考えられる。
現状の制度内ではマンツーマンの理学療法が基本になっている。しかし,複数のPTが関わることで,関わった人数分以上の効果が得られるケースもあることが今回の費用対効果の検討からわかった。複数のPTが関わることの効果について,様々な練習について検討すべき価値があるだろうと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
実施人数のコストを加味した費用対効果を評価できる“人時”に基づいた費用対効果を検討することにより,複数のPTが関わることで,関わった人数分以上の効果が得られるケースもあることがわかったことに意義がある。