第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター1

脳損傷理学療法4

2015年6月5日(金) 13:50 〜 14:50 ポスター会場 (展示ホール)

[P1-B-0254] 脳卒中片麻痺患者における視覚依存性の姿勢制御特性

駒形純也1,2,3, 高村浩司2, 村松憲2, 升佑二郎2, 奥田直人3, 鈴木裕4, 北間敏弘4 (1.山梨大学大学院人間環境医工学専攻, 2.健康科学大学理学療法学科, 3.社会福祉法人笹の葉会ケアプラザ昭和, 4.山梨大学総合分析実験センター)

キーワード:脳卒中, 視覚, 重心動揺

【はじめに,目的】
脳卒中は転倒を引き起こす疾患の一つであり,自宅復帰した脳卒中(cerebrovascular accident;CVA)患者の50~70%が転倒を経験することが報告されている。厚生労働省の調査によると,寝たきり原因の約12%が転倒・骨折であり,転倒を防ぐことがQOLの向上に繋がると考えられる。そこで我々は,CVA患者の姿勢制御に注目した。高齢者の姿勢制御は視覚入力に依存していることが知られており,CVA患者においても同様に視覚情報への依存度が高いことが報告されている。そこで本研究は,CVA患者の視覚依存性の姿勢制御特性について調べたので以下に報告する。
【方法】
本実験は,立位が自立している生活期のCVA患者及び同年齢の健常者をコントロールとした。重度高次脳機能障害,重度認知機能低下,重度の感覚障害,Romberg徴候陽性,著しい視力障害を呈すものは除外した。

被験者には,重心動揺計(グラビコーダ,アニマ社)上において,装具は着用せず,裸足で立位姿勢を取らせた。被験者の前方1.5mにスクリーンを設置し,後方よりランダムドットパタン(横約100cm,縦約60cm)を投影した。そして,ランダムドットパタンを右または左方向に連続して移動(20°/sec)させ,視運動性刺激(optokinetic stimulation;OKS)とした。重心動揺の測定は,ランダムドットパタンの投影開始と同時に30秒間の測定を行った。尚,データ測定時には,他の視覚入力を出来る限り遮断した。重心動揺解析は各刺激毎に総軌跡長(cm),X軸,Y軸軌跡長(cm)を求めた。さらにX軸,Y軸の重心動揺の時間変化に対して直線回帰を行い,回帰直線の傾きを求め,重心移動の指標とした。重心移動の有意性の判定には,コントロール群においては,右方向および左方向への刺激による重心動揺結果の比較を,対応のあるt検定を用いて行った。CVA患者群においては,麻痺側と非麻痺側方向へのOKSによる重心動揺結果に対して同様な検定を行った。なお実験および解析にはMATLAB(Mathworks),およびStatView5.0(HULINKS)を用いた。
【結果】
CVA患者群は,麻痺側方向へのOKSにより,X軸の傾きが大きくなり,重心が麻痺側方向へ移動していく傾向を示した。一方,非麻痺側へのOKSでは,X軸の傾きはほとんど見られなかった。また,総軌跡長については,麻痺側方向のOKS時に,非麻痺側方向OKSより大きくなること,さらにX軸,Y軸の軌跡長についてはその両者において麻痺側方向へのOKS時で大きくなる傾向がみられた。
【考察】
本研究では,CVA患者の視覚依存性の姿勢制御特性について調べた。その結果,コントロール群は,左右方向へのOKSにより両方向ともに同程度の重心移動がみられた。一方,CVA患者においては,麻痺側方向のOKSにのみ重心が麻痺側方向へ傾くことが認められる結果となった。そして,総軌跡長及びX・Y軸軌跡長も大きくなる傾向を示した。

CVA患者は身体重心が非麻痺側に変位し,麻痺側下肢への荷重が少ないことや立位姿勢において重心動揺が開眼,閉眼条件ともに健常者よりも大きいことなどのバランス障害が報告されている。これらの報告に加え,本研究の結果から,開眼状態において外界が麻痺側方向へ移動する際に,軌跡長が大きくなること,重心が麻痺側方向へ移動していく傾向があることが見出された。身体重心が非麻痺側に変位しているCVA患者はバランス能力,歩行能力,ADL動作能力が低いことが知られており,麻痺側下肢への荷重を促す必要がある。本研究の結果から,左右方向へのOKSが麻痺側荷重練習の効率を上げる可能性を持つことが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
バランス機能の向上には視覚情報を与えることは重要であるが,これまでにCVA患者の視覚依存性の姿勢制御特性について詳細な解析を行った研究はほとんど行われていない。本研究で示した姿勢制御特性は,生活期脳卒中患者のバランス機能向上の一助となる。