第50回日本理学療法学術大会

Presentation information

ポスター

ポスター1

脳損傷理学療法4

Fri. Jun 5, 2015 1:50 PM - 2:50 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P1-B-0257] 脳損傷後片麻痺患者の歩行時における力学的ネルギー変換効率と体幹運動の関係性

大田瑞穂, 長田悠路, 田邉紗織, 渕雅子 (誠愛リハビリテーション病院)

Keywords:片麻痺, 体幹運動, エネルギー

【はじめに,目的】
我々はこれまの研究にて,脳損傷後片麻痺患者の歩行時における力学的エネルギー変換効率(%Recovery:以下,%R)に関して,歩行の自立度や機能障害の重症度,下肢を中心とした運動力学的パラメーターとの関連性を検討してきた。これまでの結果から,より機能的に歩行が可能であり,機能障害も軽度であるほど%Rが高くなることが解っており,この指標は片麻痺歩行の効率性を特徴的に示す手法として捉えている。今回は片麻痺歩行において体幹運動が%Rに及ぼす影響を検討し,健常高齢者(以下,高齢者群)の歩行時体幹運動と比較することで,効率的な歩行機能を再建するために必要となる体幹運動を解明することとした。
【方法】
対象は計測上,歩行運動が見守りで可能な脳損傷後片麻痺患者90名(年齢60.3±12.1歳,発症経過日数118.0±52.3日,以下,片麻痺群)。除外規定は,著明な関節可動域制限がある者,計測に影響を及ぼす高次脳機能障害を呈する者とした。高齢者群は13名(年齢73.2±4.5歳,男性12名,女性1名)とした。課題は補助具を用いない裸足歩行として,5mの歩行路を快適速度にて行った。機器は三次元動作解析装置(VICON MX),床反力計(MSA-6)を使用して,反射マーカーは11箇所に貼付した。%Rは身体重心から位置エネルギー,運動エネルギー,全力学的エネルギーを算出し,各エネルギーの変化量から正の仕事量を算出し後に(WP:位置エネルギー仕事量,WK:運動エネルギー仕事量,WT:力学的エネルギー仕事量),仕事量の数値を,{1- WT/(WP+WK)}×100の式にて算出した。体幹運動は前屈・後屈・麻痺側側屈・非麻痺側側屈・麻痺側回旋・非麻痺側回旋の関節角度を抽出した。各データは立脚初期(Initial ContactからLoading Response),立脚中期(Mid StanceからTerminal Stance),立脚後期(Pre-Swing),遊脚期(Initial SwingからTerminal Swing)の4相に分けて抽出した。統計処理として,%Rと体幹運動との関係をSpeamanの順位相関係数を用いて検討し,体幹運動を片麻痺群と高齢者群の2群間にてMann-WhitenyのU検定を用いて比較した(有意水準1%)
【結果】
各相における%Rと体幹運動の関係は,片麻痺群の立脚初期において前屈(r=-0.57,P<0.01),後屈(r=0.43,P<0.01),麻痺側側屈(r=-0.38,P<0.01),立脚後期において前屈(r=-0.33,P<0.01),非麻痺側側屈(r=-0.42,P<0.01),麻痺側回旋(r=-0.31,P<0.01),遊脚期において非麻痺側側屈(r=-0.28,P<0.01)に相関を認めたが,高齢者群を含めてそれ以外では認められなかった。片麻痺群と高齢者群の体幹運動を比較した結果,立脚初期の前屈が片麻痺群1.6±2.6°,高齢者群0.1±0.4°,立脚初期の麻痺側側屈が片麻痺群2.0±2.0°,高齢者群0.4±0.3°,立脚初期の非麻痺側回旋が片麻痺群3.0±2.2°,高齢者群0.7±0.7°,立脚中期の前屈が片麻痺群2.5±1.6°,高齢者群1.3±0.9°,立脚後期の麻痺側回旋が片麻痺群3.7±3.1°,高齢者群1.3±2.1°,遊脚期の後屈が片麻痺群3.2±3.0°,高齢者群0.6±1.0°と有意な差を認めた(P<0.01)。
【考察】
%Rは歩行時の重心上下運動と前方推進に必要な仕事量のうち,重力の利用によって供給される仕事量の割合を反映する指標である。%Rと体幹運動の関係において高齢者群では相関を認めなられなかったものの,片麻痺群では相関を認めたことから,脳損傷障害による特有な体幹運動が力学的エネルギー変換効率を低下させやすいと考えられる。立脚初期では前屈・麻痺側側屈に負の相関を認め,高齢者群と比較して値が有意に大きくなった。立脚初期は重心の下降に伴う推進を制動しながら上昇方向に変換し,前脚に重心を受け渡す時期である。この時期に前屈運動や麻痺側側屈運動が大きくなる事は,重心上昇の阻害や重心側方動揺を助長し易いと考えられ,結果として運動エネルギーを位置エネルギーに変換する効率を低下させているものと考えられた。立脚後期では体幹の麻痺側回旋に負の相関を認め,高齢者群と比較して値が有意に大きくなった。立脚後期も立脚初期と同様な力学的課題を有しているが,麻痺側回旋が大きくなる事は重心の前方推進を阻害し,位置エネルギーを運動エネルギーへ変換する効率性を低下させているものと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
片麻痺歩行の%Rに関して,立脚初期での体幹前屈・麻痺側側屈,立脚後期での麻痺側回旋が大きくなることはエネルギー効率を低下させやすく,歩行時の評価・再学習ポイントとして着目すべきである。