第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター1

脳損傷理学療法4

Fri. Jun 5, 2015 1:50 PM - 2:50 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P1-B-0260] 脳卒中片麻痺患者へリアライン・コアを用いた歩行能力への即時効果

民谷雄太1, 新谷大輔1, 蒲田和芳2 (1.社会福祉法人恩賜財団済生会みすみ病院リハビリテーション室, 2.広島国際大学総合リハビリテーション学部リハビリテーション学科)

Keywords:TUG, 5m歩行, 体幹機能

【はじめに,目的】
脳卒中片麻痺患者は中枢神経性の麻痺による運動機能障害が著明であり,中でも歩行機能の低下が日常生活活動(ADL)に強い影響を及ぼす。通常,歩行運動障害は神経学的な異常に起因すると捉えられている。一方,新谷らは,小脳梗塞後に体幹失調を呈す患者に対し,骨盤の対称性と安定性を高めるベルト状の骨盤固定器具「リアライン®・コア(GLAB社)(以下,リアライン)」を使用したアプローチにより体幹機能の改善が見られたと報告した。しかし,片麻痺患者において骨盤固定が体幹機能または歩行機能改善をもたらすか否かについての研究は実施されていない。本研究では,脳卒中片麻痺患者においてリアライン装着の歩行への即時効果を解明することを目的とした。研究仮説を,「リアラインは片麻痺患者の歩行機能を即時的に改善する」とした。

【方法】
対象は歩行補助具を使用せず,独歩が可能な脳卒中片麻痺患9名(年齢63.2±9.68歳)であった。診断名は脳梗塞6名,脳内出血3名であり,全員が当院に入院していた。下肢Brunnstrom stageはIII:1名,IV:3名,V:3名,VI:2名,であり,表在及び深部感覚が脱失している者は0名であった。また,Active Straight Leg Raising(以下ASLR)が可能な者とした。リアライン装着前,装着中,装着後に5m歩行およびTUGを計測した。(1)5m歩行:5mの歩行路の前後に各3mの助走路を設け,5m歩行路にスタートラインとゴールライン,さらに助走路の始まりと終わりに補助ラインをつけた。対象者は,まず補助ラインに立ち,合図と同時に11m先の補助ラインまで可能な限り速く歩いた。助走路の遊脚相にある足部が,スタートラインのテープを越えた時点から5m先のゴールラインを遊脚相の足部が越えるまでの所要時間を,ストップウォッチにて計測した。(2)TUG:高さ40cmの肘掛けのない椅子に腰掛けた姿勢から,3m前方のポールを回って着座するまでの時間をストップウォッチで計測した。測定は2回連続して行い,その最短時間を代表値とした。統計解析には対応のあるt検定を用い,Bonferroni補正を用いて多重比較を行った。統計学的有意水準はp<0.05とした。

【結果】
1.5m歩行:5m歩行の平均値は,装着前6.5±1.9秒,装着中5.5±1.1秒,装着後5.7±1.1秒であり,装着前と装着中(p<0.05),装着前と装着後(p<0.05)で有意差を認めた。2.TUG:TUGの平均値は,装着前14.7±8.2秒,装着中12.5±3.4秒,装着後12.8±5.2秒)であった。TUGに関しては,どの項目間においても有意差が認められなかった。

【考察】
5m歩行に関しては着用中,着用後に歩行速度の向上が見られ即時効果また持続効果があったが,TUGにおいては著明な変化が見られなかった。片麻痺患者にリアラインを使用することで骨盤安定性が図られ,直線歩行に関しては歩行速度を向上させた可能性がある。これに対し,起立・方向転換・着座の動作が含まれるTUGでは,直線歩行とは異なり,有意な向上が認められなかった。したがって,リアラインは起立・方向転換・着座などに改善効果をもたらさないことが示唆された。本研究では,サンプルサイズが小さく,TUGにおいてβエラーの可能性がある。以上より,本研究の結論を,リアラインは片麻痺患者の直線歩行速度を向上させる,とした。

【理学療法学研究としての意義】
リアラインは片麻痺患者の歩行能力の歩行速度を即時的に向上させた。このことから,片麻痺患者の歩行機能低下の原因の一部として骨盤の安定性と対称性が関与している可能性がある。今後,治療者内及び治療者間の再現性の高い治療法としてリアラインの有用性が期待される。また,今後の研究により,リアラインがもたらす即時効果の特性を詳細に分析することにより,片麻痺患者の歩行機能障害のメカニズム解明に貢献できる可能性がある。