[P1-B-0336] 19歳で当院指定療養介護事業所に入所したデュシェンヌ型筋ジストロフィー患者の6年間の経過報告
キーワード:デュシェンヌ型筋ジストロフィー, 呼吸機能, ADL
【はじめに】19歳で当院指定療養介護事業所に入所したデュシェンヌ型筋ジストロフィー患者1名に対してのリハビリテーションアプローチと呼吸機能,ADL動作能力の6年間の経過報告を行う。
【症例紹介】25歳男性。デュシェンヌ型筋ジストロフィー。厚生省分類(新分類)ステージVIII。夜間のみ人工呼吸器使用しているが,日中は使用せずに生活している。日中の活動としてパソコンでの就労活動,音楽鑑賞,歌唱,読書を行っている。
【理学療法プログラム】入所以前より救急蘇生用バッグでのエアスタッキングと咳嗽介助,四肢・体幹ROMexとストレッチングを継続し,入所時よりIPV®,カフアシスト®による排痰ケアを継続している。また姿勢の変化と共に車いすシーティングを実施してきた。
【方法】19歳時より現在に至るまで経時的に評価を行ってきた呼吸機能評価項目の一回換気量(以下TV),咳のピークフロー(以下CPF),肺活量(以下VC),%肺活量,最大強制吸気量(以下MIC),MICからのCPF,経皮炭酸ガス分圧測定装置(以下TOSCA)での酸素飽和度(以下SpO2),経皮炭酸ガス分圧(以下TcCO2)と,ビデオに記録してきたADL動作能力の食事動作,車いす駆動動作の変化を比較した。またFIMの推移を評価した。
【結果】呼吸機能に関して19歳時→25歳時で比較するとTV:0.62L→0.24L,CPF:285L/min→180L/min,VC:1.4L→1.15L,%VC:30.7%→26%,MIC:3.65L→2.7L,MICからのCPF:330L/min→290L/minであった。6年の経過で減少率の大きい項目はTVとCPFであり,減少率の小さい項目はVC,%VC,MIC,MICからのCPFであった。またTOSCAの結果では現在,日中,夜間ともにSpO2は98%以上,TcCO2は40mmHgで保たれており,24歳時と比較して大きな変化は見られなかった。ADL動作能力に関して,食事動作は19歳時,右手で箸の使用が可能で体幹が直立位に近く,左手でお椀やコップを持ち上げることが可能であったのに対して,25歳時では箸の使用は保たれているものの,体幹の前傾が強くなり,これに伴い頸部伸展位となった。またお椀やコップは持ち上げることが困難となった。そのため箸でお椀を自身の近くへ近づけるようになり,飲水はストローを使用するようになった。電動アシスト式車いす駆動は19歳時体幹が直立位に近く,ハンドリムの頂点から駆動を開始することが可能で,1ストロークで約2mの移動が可能であった。しかし25歳では体幹の前傾が強まり,肘関節の伸展制限悪化,筋力低下により,ハンドリムの頂点より前方の位置から駆動を開始するようになり,1ストロークで約1~1.5mと減少した。そのため体幹を前後へ動揺させる代償を大きく使うようになった。10m駆動時間を比較すると,23秒から1分10秒と遅くなっている。本人の意思,希望により現在も電動車いすは使用せず,電動アシスト式車いす駆動を行っている。19歳時から25歳でFIMは72点(車いす自走自立,食事自立)→65点(車いす自走中等度介助,食事監視)減少している。
【考察】6年間で呼吸機能の低下は見られるが,夜間のみ人工呼吸器使用で,日中は自発呼吸で過ごせている。またVC,%VC,MIC,MICからのCPFの減少率を小さく抑えられているのは,入所以前より現在に至るまでMICでの,エアスタッキングと咳嗽介助を継続してきたこと,入所時よりIPV®,カフアシスト®による排痰ケアを継続してきたこと,さらに毎日歌唱を行っていることで,肺・胸郭の拡張性,呼吸筋力の急激な低下を防いでいるためと考えられる。ADL動作能力に関しては肩・肘の関節可動域制限,筋力低下の進行,また姿勢の変化により動作が困難となってきているが,手指の筋力が保たれていることと,動作方法の変更や環境設定の工夫をしてきたことで,食事,電動アシスト式車いす駆動が現在でも一部可能となっている。
【今後の課題】呼吸リハビリテーションと排痰ケアを継続し,呼吸機能の維持に努めること,四肢,体幹の関節可動域維持,変形予防に最大限努めることで現在のADL,QOLの維持,向上を目指していく。また人工呼吸器,電動車いすへの移行時期の検討を行う必要がある
【理学療法学研究としての意義】18歳以上の筋ジストロフィー患者の長期に渡る機能の変化を調査できたことは,今後の同疾患に対するリハビリテーションの指標となり得ると考える。
【症例紹介】25歳男性。デュシェンヌ型筋ジストロフィー。厚生省分類(新分類)ステージVIII。夜間のみ人工呼吸器使用しているが,日中は使用せずに生活している。日中の活動としてパソコンでの就労活動,音楽鑑賞,歌唱,読書を行っている。
【理学療法プログラム】入所以前より救急蘇生用バッグでのエアスタッキングと咳嗽介助,四肢・体幹ROMexとストレッチングを継続し,入所時よりIPV®,カフアシスト®による排痰ケアを継続している。また姿勢の変化と共に車いすシーティングを実施してきた。
【方法】19歳時より現在に至るまで経時的に評価を行ってきた呼吸機能評価項目の一回換気量(以下TV),咳のピークフロー(以下CPF),肺活量(以下VC),%肺活量,最大強制吸気量(以下MIC),MICからのCPF,経皮炭酸ガス分圧測定装置(以下TOSCA)での酸素飽和度(以下SpO2),経皮炭酸ガス分圧(以下TcCO2)と,ビデオに記録してきたADL動作能力の食事動作,車いす駆動動作の変化を比較した。またFIMの推移を評価した。
【結果】呼吸機能に関して19歳時→25歳時で比較するとTV:0.62L→0.24L,CPF:285L/min→180L/min,VC:1.4L→1.15L,%VC:30.7%→26%,MIC:3.65L→2.7L,MICからのCPF:330L/min→290L/minであった。6年の経過で減少率の大きい項目はTVとCPFであり,減少率の小さい項目はVC,%VC,MIC,MICからのCPFであった。またTOSCAの結果では現在,日中,夜間ともにSpO2は98%以上,TcCO2は40mmHgで保たれており,24歳時と比較して大きな変化は見られなかった。ADL動作能力に関して,食事動作は19歳時,右手で箸の使用が可能で体幹が直立位に近く,左手でお椀やコップを持ち上げることが可能であったのに対して,25歳時では箸の使用は保たれているものの,体幹の前傾が強くなり,これに伴い頸部伸展位となった。またお椀やコップは持ち上げることが困難となった。そのため箸でお椀を自身の近くへ近づけるようになり,飲水はストローを使用するようになった。電動アシスト式車いす駆動は19歳時体幹が直立位に近く,ハンドリムの頂点から駆動を開始することが可能で,1ストロークで約2mの移動が可能であった。しかし25歳では体幹の前傾が強まり,肘関節の伸展制限悪化,筋力低下により,ハンドリムの頂点より前方の位置から駆動を開始するようになり,1ストロークで約1~1.5mと減少した。そのため体幹を前後へ動揺させる代償を大きく使うようになった。10m駆動時間を比較すると,23秒から1分10秒と遅くなっている。本人の意思,希望により現在も電動車いすは使用せず,電動アシスト式車いす駆動を行っている。19歳時から25歳でFIMは72点(車いす自走自立,食事自立)→65点(車いす自走中等度介助,食事監視)減少している。
【考察】6年間で呼吸機能の低下は見られるが,夜間のみ人工呼吸器使用で,日中は自発呼吸で過ごせている。またVC,%VC,MIC,MICからのCPFの減少率を小さく抑えられているのは,入所以前より現在に至るまでMICでの,エアスタッキングと咳嗽介助を継続してきたこと,入所時よりIPV®,カフアシスト®による排痰ケアを継続してきたこと,さらに毎日歌唱を行っていることで,肺・胸郭の拡張性,呼吸筋力の急激な低下を防いでいるためと考えられる。ADL動作能力に関しては肩・肘の関節可動域制限,筋力低下の進行,また姿勢の変化により動作が困難となってきているが,手指の筋力が保たれていることと,動作方法の変更や環境設定の工夫をしてきたことで,食事,電動アシスト式車いす駆動が現在でも一部可能となっている。
【今後の課題】呼吸リハビリテーションと排痰ケアを継続し,呼吸機能の維持に努めること,四肢,体幹の関節可動域維持,変形予防に最大限努めることで現在のADL,QOLの維持,向上を目指していく。また人工呼吸器,電動車いすへの移行時期の検討を行う必要がある
【理学療法学研究としての意義】18歳以上の筋ジストロフィー患者の長期に渡る機能の変化を調査できたことは,今後の同疾患に対するリハビリテーションの指標となり得ると考える。