第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター1

身体運動学2

Fri. Jun 5, 2015 4:10 PM - 5:10 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P1-C-0107] 若年健常者の跨ぎ動作に至るまでの歩行の制御について

藤井伸行1, 山本澄子2, 石井慎一郎3, 杉輝夫4 (1.三浦市立病院リハビリテーション科, 2.国際医療福祉大学大学院, 3.神奈川県立保健福祉大学, 4.湘南病院リハビリテーション室)

Keywords:跨ぎ動作, 歩行, 三次元動作解析

【はじめに,目的】高齢者や障がい者の転倒は,屋内環境での躓きによるものが多いと報告されている(東京消防庁2012)。歩行中の跨ぎ動作に関しては,跨ぎ動作時に着目し,障害物の種類と跨ぎ動作の比較を報告したものが多い(Chou1997,Patla1993,2003)。また障害物に至るまでの歩行に着目した報告では,視覚で障害物を捉えた後,歩幅の調節を行うことで適切な跨ぎ動作につながると述べている(Crosbie2000)。しかし,これらの研究は屋内環境にて躓きやすい2cm程度の障害物を用いていない。また,歩行中の床反力や関節モーメント等の運動力学的要因が障害物の何歩前から変化し跨ぎ動作に影響しているか報告した研究は,若年成人を対象としたものでも見当たらない。そこで本研究の目的は,健常若年成人の歩行中の跨ぎ動作時の歩幅や足部位置,床反力,関節モーメントの変化を調査し,障害物に至るまでの歩行と跨ぎ動作の制御を運動力学的な点も踏まえて明らかにすることとした。

【方法】対象は男性若年健常成人14名(平均年齢27.9±7.3歳)とし,歩行に影響する神経学的,整形外科的疾患の既往がある者は除外した。計測機器は三次元動作解析装置VICON612(VICON社製,サンプリング周波数120Hz)及び6枚の床反力計(AMTI社製,サンプリング周波数1080Hz)を用いた。運動課題は自由速度歩行(5試行)と自由速度歩行中の跨ぎ動作(25試行)の2種類とし,普段歩いている速度で歩行するよう指示した。障害物は屋内環境での躓きや転倒の関連をみるため,敷居の高さを想定した高さ2cmのものを用いた。計測手順は,まず自由速度歩行5試行の平均歩幅(以下,平均歩幅)を算出し,歩き始めから障害物までの距離を決定した。次に障害物の6歩前から1歩前まで床反力計で計測できるよう平均歩幅を用いて障害物位置を5種類設定し,5試行ずつランダムに計測した。解析項目は①各ステップの歩幅(6歩前~1歩後),②障害物と障害物前後の足部の距離,③床反力前後方向成分のピーク値,④足関節底屈モーメントのピーク値,⑤障害物跨ぎ脚の遊脚期時間,⑥障害物跨ぎ足の足部の高さの平均値とした。また,本研究では平均値と併せて標準偏差(以下SD),変動係数(以下CV)を算出し,ばらつきの程度を比較した。歩幅と障害物前後の足部の距離は,自由速度歩行の値を用いて正規化したものを用いた。統計学的分析は,Wilcoxonの符号付順位和検定を用いて以下の通り比較した。解析項目①,③,④については対象者ごとに自由速度歩行時の値と比較,②については障害物と前後の足部距離を比較,⑤,⑥については跨ぎ前脚,後脚を比較した。全ての分析は有意水準を5%とした。

【結果】歩幅は障害物の1歩前~1歩後のみ平均値が有意に増加(p<0.01)しており,2~1歩前のSD,CVは増加する傾向を認めた。障害物と1歩後の足部距離において,CVは1歩前と比較し有意に減少(p<0.01)しており,平均値は1歩前と比較し増加する傾向を認めた。床反力前後方向成分は6歩前~1歩前全てで有意差を認めなかった。跨ぎ前脚,後脚を比較した結果,遊脚期時間と遊脚期中に足部の高さが最高位となる時期と高さに有意な差はなかった。しかし,跨ぐ際の障害物上での足部の高さは後脚の方が有意に高値であった(p<0.01)。

【考察】跨ぎ動作至るまでの歩行中,障害物の2歩前~1歩前で歩幅のばらつきは増大し,1歩前~1歩後の歩幅の平均値は有意に増加していた。つまり,若年成人は障害物の5歩前からの歩幅を調節するという先行研究の結果(Patla1995,Crosbie2000)とは異なり,障害物の2歩前から歩幅を調整する可能性が考えられる。また,1歩後の足部と障害物との距離のばらつきは1歩前と比較して低く,歩幅の拡大とともに1歩後の着地位置も調整していることが考えられる。この1歩後の着地位置の調整により跨ぎ後脚が最高位に近い時期に障害物を跨ぐことが可能となり,若年成人は躓きを回避しているのではないかと考えられる。今後は,歩幅や床反力に加え歩行率を解析項目に追加するとともに障害物との距離や二重課題条件下の変化から若年成人の障害物への躓きを回避するための歩行の制御を明確にし,高齢者や障がい者と比較検討していく必要があると考える。

【理学療法学研究としての意義】歩行中の跨ぎ動作は,環境に応じて適切に行われることで躓きを回避しており,この跨ぎ動作に至るまでの歩行の制御機構を明らかにすることは,高齢者や障がい者の転倒に至る身体的,環境的な問題点を評価する一助となると考える。