[P1-C-0176] 腓腹筋起始腱膜と下腿筋膜間での剥離損傷が疑われた肉離れの一症例
超音波エコーによる損傷部位の同定と経過観察の有用性
Keywords:肉離れ, 腓腹筋, 超音波エコー
【はじめに,目的】
肉離れには,超音波エコー(以下,エコー)やMRIを用いた分類があるが,その中に腱膜と筋膜間での剥離損傷のような分類は我々が渉猟しえた限り報告されていない。
今回,腓腹筋起始腱膜と下腿筋膜間での剥離損傷が疑われた症例を経験した。本症例に認めた理学所見ならびにエコー所見を踏まえて,その病態について考察を加えたので報告する。
【方法】
症例は,中学2年生の男子で,部活動はサッカー部に所属している。現病歴は,玄関の段差を昇段した際,左下腿後面に疼痛が出現した。同日当院を受診し,「左腓腹筋肉離れ」と診断され,弾力包帯による圧迫処置と,免荷目的に両松葉杖が指示された。エコー画像は,腓腹筋内側頭の起始腱膜と下腿筋膜の間とで離開している像が確認された。受診から1週間後より運動療法開始となり,理学療法評価は,関節可動域(以下,ROM)が膝関節屈曲120°,伸展-45°,足関節背屈-10°であり,徒手筋力テスト(以下,MMT)が足関節底屈2+であった。ROM最終域とMMT測定時において,腓腹筋内側頭に疼痛が出現し,また同部位に圧痛を認めた。自動底屈時の疼痛は,弾力包帯にて疼痛部位および遠位部を圧迫すると軽減した。エコー画像は,初診時と比べて離開している範囲が狭小化していた。運動療法は,疼痛自制内での腓腹筋の反復収縮,腓腹筋内側頭の損傷部位より遠位部のストレッチングを施行し,自主トレーニングとしてエルゴメーターを行なった。また弾力包帯での圧迫を徹底し,歩行時は踵部に補高を装着した。
【結果】
運動療法開始1週間後(5回目),弾力包帯圧迫下にて疼痛無く独歩可能となった。ROMは,膝関節の健患側差が消失し,足関節背屈が膝関節伸展位で0°,膝関節屈曲位で20°,MMTが足関節底屈2+であり,疼痛を腓腹筋内側頭に認めた。運動療法2週間後(8回目)に走行が可能となり,ROMは,足関節背屈が膝関節伸展位で6°,膝関節屈曲位が30°で健患側差が消失し,MMTが足関節底屈4であった。運動療法3週間後(10回目),ROMは,足関節背屈が膝関節伸展位で10°,MMTが足関節底屈5,圧痛および運動時痛が消失したためスポーツ復帰し理学療法終了とした。エコー画像は,腓腹筋内側頭の起始腱膜と下腿筋膜間に高エコー像が確認でき,同部での瘢痕形成が示唆された。
【考察】
肉離れとは,急激に筋肉が収縮した結果,血管や筋線維,腱膜の損傷,付着部の断裂などを生じる疾患である。肉離れには様々な病態があり,治療方針や経過が異なるため,病態を把握することは大変重要である。本症例は,エコー画像にて腓腹筋内側頭起始腱膜と下腿筋膜の間で離開する像が確認でき,同部位の剥離損傷が疑われた。疼痛は,腓腹筋内側頭の伸張時や収縮時に認め,弾力包帯で疼痛部位および遠位部を圧迫すると軽減していたため,損傷部位の離開ストレスが疼痛出現の要因であると考えられた。損傷部位が不安定な時期の運動療法は,離開ストレスが加わらないように,損傷部位より遠位部の腓腹筋内側頭のストレッチングや弾力包帯による圧迫を実施した。また,筋力低下の予防と循環を促し血腫の吸収を促進する目的で,腓腹筋の反復収縮と補高,エルゴメーターを実施した。結果,損傷部位が瘢痕で安定する時期までにROMや筋力の改善を行なえたことで,すみやかにスポーツ復帰が行なえたと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
肉離れには,腱膜と筋膜間での剥離損傷も含まれる可能性が示唆された。損傷部位が不安定な時期の運動療法として,離開ストレスが加わらないよう考慮し,ROM制限と筋力低下を防止することが重要であり,損傷部位が安定した時期にすみやかにスポーツ復帰できることが理想であると考える。
肉離れには,超音波エコー(以下,エコー)やMRIを用いた分類があるが,その中に腱膜と筋膜間での剥離損傷のような分類は我々が渉猟しえた限り報告されていない。
今回,腓腹筋起始腱膜と下腿筋膜間での剥離損傷が疑われた症例を経験した。本症例に認めた理学所見ならびにエコー所見を踏まえて,その病態について考察を加えたので報告する。
【方法】
症例は,中学2年生の男子で,部活動はサッカー部に所属している。現病歴は,玄関の段差を昇段した際,左下腿後面に疼痛が出現した。同日当院を受診し,「左腓腹筋肉離れ」と診断され,弾力包帯による圧迫処置と,免荷目的に両松葉杖が指示された。エコー画像は,腓腹筋内側頭の起始腱膜と下腿筋膜の間とで離開している像が確認された。受診から1週間後より運動療法開始となり,理学療法評価は,関節可動域(以下,ROM)が膝関節屈曲120°,伸展-45°,足関節背屈-10°であり,徒手筋力テスト(以下,MMT)が足関節底屈2+であった。ROM最終域とMMT測定時において,腓腹筋内側頭に疼痛が出現し,また同部位に圧痛を認めた。自動底屈時の疼痛は,弾力包帯にて疼痛部位および遠位部を圧迫すると軽減した。エコー画像は,初診時と比べて離開している範囲が狭小化していた。運動療法は,疼痛自制内での腓腹筋の反復収縮,腓腹筋内側頭の損傷部位より遠位部のストレッチングを施行し,自主トレーニングとしてエルゴメーターを行なった。また弾力包帯での圧迫を徹底し,歩行時は踵部に補高を装着した。
【結果】
運動療法開始1週間後(5回目),弾力包帯圧迫下にて疼痛無く独歩可能となった。ROMは,膝関節の健患側差が消失し,足関節背屈が膝関節伸展位で0°,膝関節屈曲位で20°,MMTが足関節底屈2+であり,疼痛を腓腹筋内側頭に認めた。運動療法2週間後(8回目)に走行が可能となり,ROMは,足関節背屈が膝関節伸展位で6°,膝関節屈曲位が30°で健患側差が消失し,MMTが足関節底屈4であった。運動療法3週間後(10回目),ROMは,足関節背屈が膝関節伸展位で10°,MMTが足関節底屈5,圧痛および運動時痛が消失したためスポーツ復帰し理学療法終了とした。エコー画像は,腓腹筋内側頭の起始腱膜と下腿筋膜間に高エコー像が確認でき,同部での瘢痕形成が示唆された。
【考察】
肉離れとは,急激に筋肉が収縮した結果,血管や筋線維,腱膜の損傷,付着部の断裂などを生じる疾患である。肉離れには様々な病態があり,治療方針や経過が異なるため,病態を把握することは大変重要である。本症例は,エコー画像にて腓腹筋内側頭起始腱膜と下腿筋膜の間で離開する像が確認でき,同部位の剥離損傷が疑われた。疼痛は,腓腹筋内側頭の伸張時や収縮時に認め,弾力包帯で疼痛部位および遠位部を圧迫すると軽減していたため,損傷部位の離開ストレスが疼痛出現の要因であると考えられた。損傷部位が不安定な時期の運動療法は,離開ストレスが加わらないように,損傷部位より遠位部の腓腹筋内側頭のストレッチングや弾力包帯による圧迫を実施した。また,筋力低下の予防と循環を促し血腫の吸収を促進する目的で,腓腹筋の反復収縮と補高,エルゴメーターを実施した。結果,損傷部位が瘢痕で安定する時期までにROMや筋力の改善を行なえたことで,すみやかにスポーツ復帰が行なえたと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
肉離れには,腱膜と筋膜間での剥離損傷も含まれる可能性が示唆された。損傷部位が不安定な時期の運動療法として,離開ストレスが加わらないよう考慮し,ROM制限と筋力低下を防止することが重要であり,損傷部位が安定した時期にすみやかにスポーツ復帰できることが理想であると考える。