[P1-C-0196] 痛みに対する破局的思考と心理社会的ストレスの関連
Keywords:破局的思考, 心理社会的ストレス, 痛み
【はじめに】長期間持続する慢性疼痛の形成と進展には様々なストレス要因が関連すると考えられている。近年,慢性疼痛において,痛みの経験をネガティブに捉える傾向を評価する破局的思考の重要性が提唱されている。心理社会的ストレスが強い場合,不安,抑うつ,怒り,焦燥などの精神症状が現れ,物事をネガティブに捉えやすい状態に陥ると考えられる。本研究では,痛みを伴う患者の社会的,心理的,環境的なストレス因子に目を向ける必要性を明らかにするため,痛みに対する破局的思考と心理社会的ストレスの関連を調査した。
【方法】調査期間は,平成26年4月1日から同年10月31日とした。対象は,整形外科疾患を有する者51名(男性:11名,女性:40名,平均年齢62.4±13.7歳)とした。疾患部位の内訳は上肢疾患33名,下肢疾患16名,体幹疾患2名であった。中枢性疾患及び明らかな認知症を有する者は除外した。調査は,アンケートを用い,自己記入質問紙法にて行った。調査内容は,Pain Catastrophizing Scale(以下,PCS:13項目),Stress Check List for Self(以下,SCL-S:30項目),安静時および運動時のNumeric Rating Scale(以下,NRS)の4項目とした。PCSは,痛みに対する破局的思考を測る尺度であり,13項目から更に,反芻,無力感,拡大視の3つの下位尺度に分類される。PCSは,Sullivanらによって作成された原版を,松岡らが日本語版に翻訳したものを使用した。PCSは合計点と反芻,無力感,拡大視それぞれの点数を算出した。SCL-Sは,30項目からその時点で本人が感じているものを選び,その得点でストレスの度合いを判定するものであり,値が大きい程,心理社会的ストレスを感じていることを示す。運動時NRSは日常生活上の特に痛みの出る動作の痛みとした。統計処理には,Spearmanの順位相関係数を用いて分析した。PCSとSCL-S,安静時及び運動時NRSの相関関係とSCL-SとPCS,反芻,無力感,拡大視,安静時及び運動時NRSの相関関係を分析した。全ての統計学的検定は両側検定とし,有意水準は5%未満とした。
【結果】PCSと安静時NRSに正の相関関係が認められた(rs=0.287,p<0.05)。PCSと運動時NRSに正の相関関係が認められた(rs=0.352,p<0.05)。PCSとSCL-Sに有意な相関関係は認められなかった(rs=0.178,p=0.212)。SCL-Sと拡大視に正の相関関係が認められた(rs=0.443,p<0.01)。SCL-Sと安静時NRSに有意な相関関係は認められなかった(rs=0.271,p=0.055)。SCL-Sと運動時NRSと有意な相関関係は認められなかった(rs=0.115,p=0.420)。
【考察】本研究結果から,安静時及び運動時の主観的な痛みが強い程,痛みに対する破局的思考が強くなる傾向が示唆された。PCSとSCL-Sの間に相関関係は認められなかったことより,心理社会的ストレスの程度は,痛みに対する破局的思考に影響しないことが分かった。しかし,PCSを下位尺度で分類した際,SCL-Sと拡大視に正の相関関係が認められたことから,心理社会的ストレスの程度によって,痛みの強さやそれによって将来起こりうる障害を合理的に予想されるよりも大きなものとして見積もる傾向があると考えられた。SCL-Sと主観的な痛みの程度に相関関係が認められなかったことから,痛み自体は心理社会的ストレスになっていないことが考えられた。本研究は,各因子の関係性が示唆されたのみであり,破局的思考が痛みを強めるのか,痛みが破局的思考を強めるのかは明確ではない。また,心理社会的ストレスが痛みに対する拡大視を強めるのか,痛みに対する拡大視が心理社会的ストレスを強めるのかも定かではない。しかし,心理社会的ストレスが痛みの難治化を引き起こす一因子として考慮しなければならない可能性を示唆するものとなった。
【理学療法学研究としての意義】痛みを有する者に対して,痛みに関連した機能障害,心理的因子の評価を行うだけでなく,社会的背景を含んだ,心理社会的ストレスの評価を行うことで,痛みに対して現実よりも大きく見積もる心理状態に陥りやすいことが分かった。痛みに対する拡大視の強い者の背景に付随する社会的,心理的,環境的なストレス因子に目を向けていく必要性を示すことができた。
【方法】調査期間は,平成26年4月1日から同年10月31日とした。対象は,整形外科疾患を有する者51名(男性:11名,女性:40名,平均年齢62.4±13.7歳)とした。疾患部位の内訳は上肢疾患33名,下肢疾患16名,体幹疾患2名であった。中枢性疾患及び明らかな認知症を有する者は除外した。調査は,アンケートを用い,自己記入質問紙法にて行った。調査内容は,Pain Catastrophizing Scale(以下,PCS:13項目),Stress Check List for Self(以下,SCL-S:30項目),安静時および運動時のNumeric Rating Scale(以下,NRS)の4項目とした。PCSは,痛みに対する破局的思考を測る尺度であり,13項目から更に,反芻,無力感,拡大視の3つの下位尺度に分類される。PCSは,Sullivanらによって作成された原版を,松岡らが日本語版に翻訳したものを使用した。PCSは合計点と反芻,無力感,拡大視それぞれの点数を算出した。SCL-Sは,30項目からその時点で本人が感じているものを選び,その得点でストレスの度合いを判定するものであり,値が大きい程,心理社会的ストレスを感じていることを示す。運動時NRSは日常生活上の特に痛みの出る動作の痛みとした。統計処理には,Spearmanの順位相関係数を用いて分析した。PCSとSCL-S,安静時及び運動時NRSの相関関係とSCL-SとPCS,反芻,無力感,拡大視,安静時及び運動時NRSの相関関係を分析した。全ての統計学的検定は両側検定とし,有意水準は5%未満とした。
【結果】PCSと安静時NRSに正の相関関係が認められた(rs=0.287,p<0.05)。PCSと運動時NRSに正の相関関係が認められた(rs=0.352,p<0.05)。PCSとSCL-Sに有意な相関関係は認められなかった(rs=0.178,p=0.212)。SCL-Sと拡大視に正の相関関係が認められた(rs=0.443,p<0.01)。SCL-Sと安静時NRSに有意な相関関係は認められなかった(rs=0.271,p=0.055)。SCL-Sと運動時NRSと有意な相関関係は認められなかった(rs=0.115,p=0.420)。
【考察】本研究結果から,安静時及び運動時の主観的な痛みが強い程,痛みに対する破局的思考が強くなる傾向が示唆された。PCSとSCL-Sの間に相関関係は認められなかったことより,心理社会的ストレスの程度は,痛みに対する破局的思考に影響しないことが分かった。しかし,PCSを下位尺度で分類した際,SCL-Sと拡大視に正の相関関係が認められたことから,心理社会的ストレスの程度によって,痛みの強さやそれによって将来起こりうる障害を合理的に予想されるよりも大きなものとして見積もる傾向があると考えられた。SCL-Sと主観的な痛みの程度に相関関係が認められなかったことから,痛み自体は心理社会的ストレスになっていないことが考えられた。本研究は,各因子の関係性が示唆されたのみであり,破局的思考が痛みを強めるのか,痛みが破局的思考を強めるのかは明確ではない。また,心理社会的ストレスが痛みに対する拡大視を強めるのか,痛みに対する拡大視が心理社会的ストレスを強めるのかも定かではない。しかし,心理社会的ストレスが痛みの難治化を引き起こす一因子として考慮しなければならない可能性を示唆するものとなった。
【理学療法学研究としての意義】痛みを有する者に対して,痛みに関連した機能障害,心理的因子の評価を行うだけでなく,社会的背景を含んだ,心理社会的ストレスの評価を行うことで,痛みに対して現実よりも大きく見積もる心理状態に陥りやすいことが分かった。痛みに対する拡大視の強い者の背景に付随する社会的,心理的,環境的なストレス因子に目を向けていく必要性を示すことができた。