第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター1

人工股関節2

2015年6月5日(金) 16:10 〜 17:10 ポスター会場 (展示ホール)

[P1-C-0223] 大腿軟部肉腫切除術後の膝関節伸展筋力と股関節機能及び歩行との関連性

石田昂彬1, 田中厚誌2, 吉村康夫1, 山鹿隆義1 (1.信州大学医学部附属病院リハビリテーション部, 2.信州大学医学部運動機能学教室)

キーワード:大腿軟部肉腫, 膝伸展筋力, 股関節筋力

【はじめに,目的】
当院では大腿軟部肉腫症例に対し腫瘍広範切除術を施行しており,術後患肢機能低下を来す症例をしばしば経験する。切除部位は前方で大腿四頭筋(以下四頭筋)切除が多い。大腿軟部肉腫症例の術後機能に関する先行研究は少なく,患肢筋力や隣接する関節機能との関連性は不明である。田中ら(2014)は,等速性筋力測定装置Biodex system4(以下Biodex)を用い,四頭筋周囲に発生した軟部肉腫術後症例の膝関節伸展トルク率は平均59.4%で健側と比べ有意に低下したと報告している。しかし,筋力以外の身体機能や隣接する関節機能の関連性は不明である。そこで今回,股関節の機能に着目し,股および膝関節の可動域,筋力,さらに歩行能力との関連性を検討した。
【方法】
2002年9月から2013年2月までに大腿軟部肉腫切除術を施行され,外来診察時に協力が得られ,測定が可能であった12症例(男性8例,女性4例,測定時年齢59歳)を対象とし,これらの症例に対して手術時の切除筋を調査し,機能測定を行った。測定項目は股および膝関節の筋力と可動域,10m最大歩行速度(以下MWS)とした。膝の筋力はBiodexを用い,角速度60度/秒の等速性運動にて膝関節屈曲,伸展トルク値を測定し,健側に対する患側の割合(以下膝伸展筋力)を算出した。股関節筋力はANIMA社製の徒手筋力測定器μTasF-1(以下HHD)を使用し,屈曲,伸展,内転,外転の最大等尺性収縮を5秒間持続させた際の最大数値を代表値とした。測定は2回施行し代表値2回の平均を測定値とした。測定開始姿勢は,屈曲は座位で骨盤中間位,腕組み,股・膝関節屈曲90°とし,伸展は腹臥位で,両上肢は体側に置き,膝関節屈曲90°,内転および外転は臥位で腕組み,股関節内転・外転・内旋・外旋中間位として測定した。関節可動域は東大式ゴニオメーターを使用し日本整形外科学会制定に準じて実施した。統計処理は膝伸展筋力と股関節周囲筋および股・膝関節可動域,MWSに対してはピアソンの相関係数の検定を,また,四頭筋のみ切除群8例と股関節屈筋合併切除群4例における股関節筋力の比較はt検定を用い,危険率5%以下を有意差ありとした。
【結果】
対象症例の切除筋内訳は大腿直筋,外側広筋,内側広筋,中間広筋,縫工筋,大腿筋膜張筋であった。膝伸展筋力と有意な相関を認めた項目は,股関節屈曲筋力(r=0.64),膝関節屈曲可動域(r=0.62),MWS(r=-0.52)であった。しかし,股関節伸展,内転,外転筋力,股関節可動域および膝関節伸展可動域との間に相関は認めなかった。合併切除筋に縫工筋,大腿筋膜腸筋を含んでいる4症例を除いた8例では,膝伸展筋力と股関節屈曲筋力に相関を認めなかった。また,四頭筋のみ切除群と股関節屈筋合併切除群の2群間において,股関節屈曲筋力でのみ有意差(p=0.01)を認めた。
【考察】
大腿軟部肉腫切除術後の患側下肢機能は,膝伸展筋力が低下する症例ほど股関節の屈曲筋力低下,膝関節屈曲可動域制限を認め,MWSが低下する傾向にあった。また患側の膝伸展筋力は股関節屈曲筋群のうち二関節筋の影響があることが示唆された。筋力は筋線維の横断面積に関連するといわれており,今回の股関節の筋力低下は合併切除による筋線維の横断面積低下が影響したと考える。また,歩行速度は下肢筋力が大きく影響するとされ,大杉ら(2014)は歩行速度への影響因子に等尺性膝伸展筋力を挙げており,今回の結果は先行研究を支持するものであった。
四頭筋切除術後症例の歩行は立脚期の体重支持や遊脚期の下肢前進が障害される傾向にある。川井ら(2003)は,軟部腫瘍切除後の歩行は股関節の筋力と関連すると報告しており,残存した股関節屈筋の活動が重要と考える。以上より,膝伸展筋力低下に伴う患肢機能・能力低下の代償方法として股関節周囲の機能が重要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
大腿軟部肉腫術後の膝伸展筋力低下に対する代償方法には股関節周囲の機能が重要であり,理学療法介入では残存筋の機能向上と股関節周囲での代償を含めた練習・患者指導をしていくことが重要であること示唆された。