第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター1

脳損傷理学療法4

Fri. Jun 5, 2015 4:10 PM - 5:10 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P1-C-0261] 脳卒中片麻痺者における歩行速度の違いによる運動学的動作分析

北川めぐみ, 前川遼太, 宇野友季子, 谷川史, 西村有可, 宿谷直輝, 伊藤和寛 (医療法人恒仁会近江温泉病院総合リハビリテーションセンター)

Keywords:片麻痺, 歩行速度, 股関節

【はじめに,目的】
脳卒中片麻痺者(以下,片麻痺者)において,歩行動作の獲得は重要である。しかし多くの片麻痺者は様々な代償を用いて異常歩行を呈し,異常歩行は繰り返されることで,後の二次障害に繋がると報告されている。よって,片麻痺者の歩行動作練習では,より正常に近い歩行動作の獲得を目標とする必要があると考える。正常な歩行動作を獲得するために,運動療法や物理療法,神経可塑性を目的としたニューロリハビリテーションなど,様々な方法が用いられているが,臨床場面では,歩行速度を速くすることで正常歩行に近い挙動となる患者を経験する。この現象は歩行速度の条件が,正常歩行動作を獲得するために重要な要素であることを示唆していると考えられ,片麻痺者において,それぞれに応じた最適な歩行速度の設定が存在するのではないかと考えている。
しかし先行研究では,歩行速度と麻痺側下肢荷重率や麻痺側下肢筋力,歩行自立度,ブルンストロームステージなど,歩行速度と麻痺側下肢機能の関係性を示したものが多く,片麻痺者における歩行速度と下肢挙動の関係を分析した報告は散見する程度である。
そこで今回,片麻痺者の歩行動作練習において最適な歩行速度を検討するための予備的研究として,歩行速度を速くすることで,麻痺側下肢挙動がどの様に変化するか運動学的に検討した。
【方法】
対象者は著明な高次脳機能障害を認めない独歩可能な片麻痺者19名とした。歩行動作は『普通』,『速く』の2条件で行い,麻痺側下肢各関節角度を有意水準5%でWilcoxonの符号順位検定にて検討した。歩行動作は歩行開始から4歩目以降の一歩行周期を矢状面上にて計測した。マーカは両側の肩峰,大転子,膝関節裂隙,外果,第5中足骨頭に貼付し,両側の矢状面方向からデジタルビデオカメラで録画した。録画した映像から,動画再生ソフト(GOM Player)にて静止画を切り出し,画像処理ソフトウェア(Image J)にて矢状面上における股関節,膝関節及び足関節の関節座標を計測した。計測したデータを,臨床歩行分析研究会が呈する歩行データ・インターフェイス・ファイル(DIFF)にて,関節角度を算出した。また外果の座標点より重複歩距離を,10m歩行にて歩行速度を計算した。麻痺側初期接地から再度麻痺側下肢の接地が生じた瞬間までの時間で正規化し,歩行速度と麻痺側下肢挙動との関係性を検討した。
【結果】
重複歩距離と歩行速度は『普通』の条件と比較し,『速く』の条件で増加する結果となった。
麻痺側下肢挙動の共通点として,遊脚中期における股関節屈曲角度のピーク値が,『普通』(23.2±1.6[deg])の条件に比べ,『速く』(25.0±1.5[deg])の条件において有意に増加(p<0.05)した。その他の周期における各関節の角度変化は,有意な変化は認められなかった。
【考察】
本研究結果より,『普通』の条件と比較し,『速く』の条件で,歩行速度と重複歩距離は増加する結果となった。これは健常者の先行知見で報告されている様に,片麻痺者の歩行においても,重複歩距離を増加させ,一歩行周期にかかる時間を減少させることで,歩行速度を増加させていることが示唆された。歩行速度と重複歩距離が増加した要因に関して,遊脚中期における股関節屈曲角度のピーク値が増加することで,重複歩距離を増加させ,それと同時に一歩行周期の速度を増加することが出来たためと考える。
したがって『普通』の条件において,遊脚中期における股関節屈曲角度のピーク値が小さい症例には『速く』の条件で歩行動作練習を行うことが有効であると示唆された。一方,『普通』の条件において,遊脚中期における股関節屈曲角度のピーク値が大きい症例には,『速く』の条件で歩行動作を行うと,股関節屈曲による代償動作を強めることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,歩行速度条件を『速く』することで,麻痺側股関節屈曲角度のピーク値に増加がみられた。この結果より片麻痺者の歩行動作練習において,より適切な歩行速度での歩行動作練習を提案することが可能となり,正常歩行動作を獲得するための一助となると考える。