第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター2

生体評価学2

Sat. Jun 6, 2015 11:25 AM - 12:25 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-A-0529] 近赤外分光法(NIRS)による外側広筋の血中酸素動態の評価

利き足と非利き足の違いによる検討

山本裕晃1, 中村朋博2, 伊良部諒馬1, 吉塚久記3,4, 森田正治5 (1.特定特別医療法人弘医会福岡鳥飼病院リハビリテーション科, 2.特定特別医療法人弘医会大刀洗病院, 3.専門学校柳川リハビリテーション学院, 4.佐賀大学大学院医学系研究科, 5.国際医療福祉大学大学院医療福祉学研究科)

Keywords:近赤外分光法, 筋疲労, 利き足

【はじめに,目的】上肢は利き手・非利き手の存在が明確に知られている中,下肢は左右の利き足の存在がいまだに確立されていない。リハビリテーションの臨床場面においても,その役割が充分考慮されることは少ないように思われる。しかし,近年では非利き足と比較して利き足の方が筋力を発揮するという報告がされている。また,臨床場面においても,利き足は非利き足より活動しやすい印象を受けることから,利き足の方がより筋疲労を来しやすい可能性も考えられる。しかし,利き足と非利き足の最大筋力の比較に関する先行研究は数多くある中,運動実施後の筋疲労に着目した研究報告はまだ少ない印象を受ける。運動中の局所筋における酸素動態については,非侵襲的かつリアルタイムに観察する方法として,近年では近赤外分光法(以下NIRS)が用いられるようになってきた。NIRSは,生体組織内のヘモグロビンが酸素との結合状態により,近赤外光の吸収特性が異なることを利用して,非観血的に血中酸素動態を計測する光計測法である。NIRSを用いて血中酸素動態を計測した先行研究はいくつか存在し,NIRSによる筋疲労評価の可能性が示唆されている。そこで今回,健常成人を対象に自転車エルゴメータをALLOUTするまで実施した後,外側広筋の血中酸素動態をNIRSで測定し,利き足と非利き足に着目して分析した。本研究では筋疲労の左右差を明らかにすることで,臨床場面における運動療法処方の一助となることを目的した。
【方法】対象は整形外科及び神経学的既往のない健常男女11名(男性6名,女性5名,平均年齢25.9±4.6歳,身長:164.9±8.2cm,体重:56.6±8.7kg,BMI:20.7±1.8)とした。また,対象者の利き足はボールを蹴る等の機能的に働く足を基準に設定した。研究方法として,対象筋の外側広筋にNIRS(Spectratech inc.社製OEG-16)のブローブを取り付けた。開始前に自転車エルゴメータ(フクダ電子社製)上に安静座位にて3分間の休息を取った。自転車エルゴメータのサドルの高さはクランクが上向き垂直時を0°(上肢点),下向き垂直時を180°(下肢点)とした1回転360°の下肢点にて膝関節屈曲30°に設定し,足部はペダル中心上にベルト固定を行うことで代償動作が生じないようにした。運動強度は1分間毎に15W漸増するRamp負荷法を設定し,対象者がALLOUTするまで実施した。尚,自転車エルゴメータは60rpmを維持するよう指示し,実施後は自転車エルゴメータ上で安静座位により10分間休息を取った。データ処理は外側広筋の血中酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンの濃度変化量(⊿Coxy・D,⊿Cdoxy・D)を算出し,その差(⊿Hb120s)を筋疲労の値として採用した。統計処理は各群の正規性,等分散性を確認後,2標本t検定を用いて,危険率5%未満を有意とした。
【結果】血中酸素動態⊿Coxy・D,⊿Cdoxy・Dは利き足・非利き足ともに,動作終了後すぐに動作前の値(ゼロ)に漸近し,安静時を越え,逆転後10分経過しても再度安静時に漸近することはなかった。120秒毎の結果を2群で比較したところ,⊿Hb360sでは利き足が有意に高値を示した(p<0.05)。また,⊿Hb240s,⊿Hb480s,⊿Hb600sは,有意差を認めなかったが,利き足に増加傾向を認めた。さらに⊿Hb120sでは,有意差は認められなかったが,非利き足が増加傾向を示した。
【考察】NIRSは相対的ではあるが,⊿Coxy・Dと⊿Cdoxy・Dの差は疲労の程度を意味しており,動作前の値(ゼロ)に漸近,収束することが回復だとされている。本研究の⊿Coxy・Dと⊿Cdoxy・Dの差の結果は,⊿Hb360sに有意差があり,⊿Hb240s,⊿Hb480s,⊿Hb600sでは利き足で増加傾向を示したから,非利き足より利き足が疲労しやすい傾向にある可能性が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】利き足と非利き足の筋疲労の差を検証するため,NIRSにより測定した血中酸素動態を2群間で検討した。結果から,利き足は非利き足よりも筋疲労を生じやすい可能性が示唆された。よって,理学療法場面で運動強度・頻度・回数を設定する際,本研究で示された利き足と非利き足の特徴を考慮することも有用だと考えられた。