[P2-A-0542] デジタルカメラとフリーソフトを用いた簡易運動計測システムによる歩行分析
キーワード:歩行分析, 簡易動作解析システム, フリーソフト
【はじめに,目的】
近年,動画撮影機能をもつ安価なデジタルカメラを用いた簡易の運動計測や汎用の画像解析ソフトウェアを用いた解析が注目されており,リハビリテーション領域でもさまざまな運動計測システムが提案されている。我々は,第49回日本理学療法学術大会において,市販のデジタルカメラとフリーソフトを使用した簡易動作運動計測システムを使用して立ち上がりの動作解析を行い,その有用性を報告した。しかし,立ち上がり動作を矢状面で撮影し,関節角度を解析する場合,正投影面で被写体とカメラとの距離の変化はないため誤差は少ないが,歩行動作を矢状面で撮影する場合,カメラと被写体との距離の変化を伴うため誤差が生じる可能性がある。そこで,本研究では簡易動作運動計測システムを使用して歩行動作の分析に応用することが可能なのか,その有用性を検証した。
【方法】
健常男子大学生4名を被験者とした。運動計測にはデジタルカメラ(ハイスピードエクシリム,CASIO)1台を使用した。直径28mmの円形ゴム製マット(黒色)に直径20mmのゴム製半球(蛍光黄色)を組み合わせた自作のカラーマーカーを被験者右側の肩峰,大転子,大腿骨外側上顆,外果,外果から床面の垂線と第5中足骨底外側を通る床面との平行線との交点,第5中足骨底外側に貼付し,通常の歩行速度で約7mの歩行路を歩かせた。歩行路中央から右側方170cm,高さ80cmの位置にカメラを三脚で水平位に固定し,HS 120モード(サンプリング周波数120Hz)で歩行の計測を行った。記録した動画を静止画像に分割し,フリーソフト(BMP_measure)による静止画像1枚ずつに対する手動マーキング作業による解析(手動解析)と有償の動画解析数値化システム(PV Studio 2D,エル・エー・ビー)の動画上でのマーカー自動追尾機能による解析(自動解析)の2種類の方法で矢状面での股関節,膝関節,足関節角度を算出した。解析区間は1歩行周期とし,腰部正中後面に装着した体幹加速度センサー(LP-WS0942,追坂電子機器)で計測した前後および鉛直成分の加速度波形から踵接地を推定し,動画との一致を確認することで同定した。2種類の解析方法によって得られた下肢関節角度の最大および最小値を中央値で算出するとともに,交差相関関数を用いて経時的データの類似度を分析した。統計解析にはIBM SPSS Statistics 21.0を使用し,有意水準は5%未満とした。
【結果】
被験者4名の1歩行周期の股関節の最大屈曲角度は手動解析22.7°,自動解析23.5°,最大伸展角度はともに8.1°であった。膝関節の最大屈曲角度は手動解析63.8°,自動解析64.6°,最大伸展角度は手動解析-3.5°,自動解析-2.9°であった。足関節の最大背屈角度は手動解析9.8°,自動解析9.4°,最大底屈角度は手動解析10.0°,自動解析15.1°であった。交差相関関数による解析ではtime shift=0で股関節角度(0.99~1.00),膝関節角度(0.99~1.00),足関節角度(0.88~0.97)がそれぞれ相関係数最大値を示した。
【考察】
本研究では手動解析と自動解析の2種類の解析方法によって算出した歩行動作の経時的データの類似度を分析した。1歩行周期の下肢関節の角度変化は股関節では伸展と屈曲が生じ,1つの正弦波が描かれる。膝関節では相対的な伸展位から屈曲し,再び伸展位に戻るという2つの屈曲の波形が描かれる。足関節では2回の背屈と底屈が生じるような波形が描かれる。本研究で手動解析によって得られた股関節,膝関節,足関節の経時的データは3次元動作解析装置で下肢関節角度を計測した先行研究と同程度の値を示すとともに,自動解析とに高い類似性を認めたことから,簡易動作運動計測システムが歩行分析にも有用である可能性は高い。ただ,交差相関関数による解析で股関節角度や膝関節角度の相関係数と比較すると足関節角度の相関係数はわずかに低値を示した。足関節では足角による影響など3次元の要素を多く含むため,矢状面での解析には従来から問題が指摘されているが,フリーソフトを用いた解析では画像解像度の限界などによって誤差がさらに拡大する可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】
簡易の運動計測システムを用いて歩行動作を経時的データから分析した本研究結果は臨床での運動計測システム利用の発展に資する意義がある。
近年,動画撮影機能をもつ安価なデジタルカメラを用いた簡易の運動計測や汎用の画像解析ソフトウェアを用いた解析が注目されており,リハビリテーション領域でもさまざまな運動計測システムが提案されている。我々は,第49回日本理学療法学術大会において,市販のデジタルカメラとフリーソフトを使用した簡易動作運動計測システムを使用して立ち上がりの動作解析を行い,その有用性を報告した。しかし,立ち上がり動作を矢状面で撮影し,関節角度を解析する場合,正投影面で被写体とカメラとの距離の変化はないため誤差は少ないが,歩行動作を矢状面で撮影する場合,カメラと被写体との距離の変化を伴うため誤差が生じる可能性がある。そこで,本研究では簡易動作運動計測システムを使用して歩行動作の分析に応用することが可能なのか,その有用性を検証した。
【方法】
健常男子大学生4名を被験者とした。運動計測にはデジタルカメラ(ハイスピードエクシリム,CASIO)1台を使用した。直径28mmの円形ゴム製マット(黒色)に直径20mmのゴム製半球(蛍光黄色)を組み合わせた自作のカラーマーカーを被験者右側の肩峰,大転子,大腿骨外側上顆,外果,外果から床面の垂線と第5中足骨底外側を通る床面との平行線との交点,第5中足骨底外側に貼付し,通常の歩行速度で約7mの歩行路を歩かせた。歩行路中央から右側方170cm,高さ80cmの位置にカメラを三脚で水平位に固定し,HS 120モード(サンプリング周波数120Hz)で歩行の計測を行った。記録した動画を静止画像に分割し,フリーソフト(BMP_measure)による静止画像1枚ずつに対する手動マーキング作業による解析(手動解析)と有償の動画解析数値化システム(PV Studio 2D,エル・エー・ビー)の動画上でのマーカー自動追尾機能による解析(自動解析)の2種類の方法で矢状面での股関節,膝関節,足関節角度を算出した。解析区間は1歩行周期とし,腰部正中後面に装着した体幹加速度センサー(LP-WS0942,追坂電子機器)で計測した前後および鉛直成分の加速度波形から踵接地を推定し,動画との一致を確認することで同定した。2種類の解析方法によって得られた下肢関節角度の最大および最小値を中央値で算出するとともに,交差相関関数を用いて経時的データの類似度を分析した。統計解析にはIBM SPSS Statistics 21.0を使用し,有意水準は5%未満とした。
【結果】
被験者4名の1歩行周期の股関節の最大屈曲角度は手動解析22.7°,自動解析23.5°,最大伸展角度はともに8.1°であった。膝関節の最大屈曲角度は手動解析63.8°,自動解析64.6°,最大伸展角度は手動解析-3.5°,自動解析-2.9°であった。足関節の最大背屈角度は手動解析9.8°,自動解析9.4°,最大底屈角度は手動解析10.0°,自動解析15.1°であった。交差相関関数による解析ではtime shift=0で股関節角度(0.99~1.00),膝関節角度(0.99~1.00),足関節角度(0.88~0.97)がそれぞれ相関係数最大値を示した。
【考察】
本研究では手動解析と自動解析の2種類の解析方法によって算出した歩行動作の経時的データの類似度を分析した。1歩行周期の下肢関節の角度変化は股関節では伸展と屈曲が生じ,1つの正弦波が描かれる。膝関節では相対的な伸展位から屈曲し,再び伸展位に戻るという2つの屈曲の波形が描かれる。足関節では2回の背屈と底屈が生じるような波形が描かれる。本研究で手動解析によって得られた股関節,膝関節,足関節の経時的データは3次元動作解析装置で下肢関節角度を計測した先行研究と同程度の値を示すとともに,自動解析とに高い類似性を認めたことから,簡易動作運動計測システムが歩行分析にも有用である可能性は高い。ただ,交差相関関数による解析で股関節角度や膝関節角度の相関係数と比較すると足関節角度の相関係数はわずかに低値を示した。足関節では足角による影響など3次元の要素を多く含むため,矢状面での解析には従来から問題が指摘されているが,フリーソフトを用いた解析では画像解像度の限界などによって誤差がさらに拡大する可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】
簡易の運動計測システムを用いて歩行動作を経時的データから分析した本研究結果は臨床での運動計測システム利用の発展に資する意義がある。