[P2-A-0645] 頸髄不全麻痺者における動的立位練習の即時効果
Keywords:頸髄不全麻痺, 動的立位練習, 即時効果
【はじめに,目的】
頸髄不全麻痺者の理学療法では歩行能力の向上を目標とされることが多い。先行研究では機能的電気刺激(FES)や体重免荷式トレッドミル歩行練習(BWSTT)などの特殊な機器を用いた練習の歩行能力に対する効果を示した報告が多く,一般の病院で日常的に行うことができる運動療法のエビデンスは確立されていない。本研究の目的は,頸髄不全麻痺者における歩行能力向上のための動的立位練習の即時効果を検討し,即時効果に影響を与える因子およびその適応を判定する基準を明らかにすることとした。
【方法】
本研究は,急性期頸髄不全麻痺者に対し,動的立位練習による運動介入と非介入(運動と同一時間の休憩)の両方を課したクロスオーバー研究である。対象は,2014年4月から12月までに急性期大学病院で理学療法を実施した頸髄不全麻痺者35名の内,歩行が補助具を用いずに10m以上可能な20名とした。対象者の属性は,年齢57.2±17.5歳(mean±SD),発症要因は外傷性5名,非外傷性15名,受傷から理学療法(PT)開始までの日数は5.5±3.3日,PT開始から測定までの日数は6.5±3.2日であった。動的立位練習では,前後・左右への重心移動を3分間繰り返すように教示した。休憩では,3分間背もたれのある椅子に何もせずに座っているよう教示した。運動介入と非介入のどちらを先行させるかは無作為に割り付けた。運動による即時効果の指標は5m最大歩行速度・歩数とし,運動介入前後または非介入前後に測定した。初期情報として足圧中心計を用いた静止立位における足圧中心動揺(実効値面積,前後・左右の足圧中心位置),下肢運動麻痺(LEMS),下肢腰仙髄感覚(1:正常,2:鈍麻,3:脱失の3段階評価),座位能力(ISMWSF鷹野改変)を評価した。得られたデータの解析では,①即時効果について検討するために,運動介入および非介入における5m最大歩行速度と歩数の変化量を算出し,対応のないt検定を用いて差の検定を行った。②影響を与える因子を検討するために,差の検定で有意となった項目を目的変数とし,初期情報で得られた因子を説明変数とした重回帰分析(ステップワイズ法)を行った。③動的立位練習の適応を判定する基準について検討するために,重回帰分析で有意となった項目のROC曲線からカットオフ値を算出した。全ての統計手法は,統計ソフトSPSS ver.22を使用し,有意水準は5%とした。
【結果】
①5m歩数では,運動介入前後の変化量が-0.6±0.6(mean±SD),非介入の変化量が0.0±0.5となり,5m歩数は運動介入により有意に減少した(p<0.05)。5m最大歩行速度では,運動介入前後の変化量が0.37±0.49,非介入の変化量が0.21±0.35となり,有意差を認めなかった。②5m歩数の運動前後の変化量に影響を与える因子として,初回の5m歩数が抽出された(標準化偏回帰係数:β=-0.66,p<0.05)。③歩行能力改善のための動的立位練習の適応を判定する基準については,ROC曲線からカットオフ値が9歩となり,感度0.77,特異度1.0,曲線下面積は0.9と高い予測能を示した(p<0.05)。
【考察】
SayenkoらやTamburellaらは,慢性不全脊髄損傷者に対しモニターが付属したフォースプレート上で足圧中心を指標にした視覚フィードバック練習を1-8週間実施し,外周面積,歩行速度と重複歩距離の改善を認めたと報告している。これらのように特別な機器を用いた長期的な介入の報告が多く,特別な機器を用いず即時的に動的立位練習効果を示し,それに影響を与える因子の報告は我々の渉猟範囲では皆無である。本研究では,急性期頸髄不全麻痺者に対する動的立位練習は,歩数の改善を即時効果として認めることが明らかとなった。今回,動的立位練習を行う事で歩数が0.6歩減少したのは,歩行時の片脚支持時間が延長したことを示しており,歩行安定性の向上に寄与したと考える。また,その即時効果を示す適応として初回の5m歩数が9歩以上の者であることが明らかとなった。5m最大歩行速度については練習を継続していくことで改善を認められる可能性があるが,今回の研究は即時効果に絞った研究であるため中・長期的な効果については今後の課題である。
【理学療法学研究としての意義】
急性期の頸髄不全麻痺者において,動的立位練習を行うことで歩行能力の即時的な改善を認めることが明らかとなり,即時効果を示す具体的な適応基準を示すことができた。
頸髄不全麻痺者の理学療法では歩行能力の向上を目標とされることが多い。先行研究では機能的電気刺激(FES)や体重免荷式トレッドミル歩行練習(BWSTT)などの特殊な機器を用いた練習の歩行能力に対する効果を示した報告が多く,一般の病院で日常的に行うことができる運動療法のエビデンスは確立されていない。本研究の目的は,頸髄不全麻痺者における歩行能力向上のための動的立位練習の即時効果を検討し,即時効果に影響を与える因子およびその適応を判定する基準を明らかにすることとした。
【方法】
本研究は,急性期頸髄不全麻痺者に対し,動的立位練習による運動介入と非介入(運動と同一時間の休憩)の両方を課したクロスオーバー研究である。対象は,2014年4月から12月までに急性期大学病院で理学療法を実施した頸髄不全麻痺者35名の内,歩行が補助具を用いずに10m以上可能な20名とした。対象者の属性は,年齢57.2±17.5歳(mean±SD),発症要因は外傷性5名,非外傷性15名,受傷から理学療法(PT)開始までの日数は5.5±3.3日,PT開始から測定までの日数は6.5±3.2日であった。動的立位練習では,前後・左右への重心移動を3分間繰り返すように教示した。休憩では,3分間背もたれのある椅子に何もせずに座っているよう教示した。運動介入と非介入のどちらを先行させるかは無作為に割り付けた。運動による即時効果の指標は5m最大歩行速度・歩数とし,運動介入前後または非介入前後に測定した。初期情報として足圧中心計を用いた静止立位における足圧中心動揺(実効値面積,前後・左右の足圧中心位置),下肢運動麻痺(LEMS),下肢腰仙髄感覚(1:正常,2:鈍麻,3:脱失の3段階評価),座位能力(ISMWSF鷹野改変)を評価した。得られたデータの解析では,①即時効果について検討するために,運動介入および非介入における5m最大歩行速度と歩数の変化量を算出し,対応のないt検定を用いて差の検定を行った。②影響を与える因子を検討するために,差の検定で有意となった項目を目的変数とし,初期情報で得られた因子を説明変数とした重回帰分析(ステップワイズ法)を行った。③動的立位練習の適応を判定する基準について検討するために,重回帰分析で有意となった項目のROC曲線からカットオフ値を算出した。全ての統計手法は,統計ソフトSPSS ver.22を使用し,有意水準は5%とした。
【結果】
①5m歩数では,運動介入前後の変化量が-0.6±0.6(mean±SD),非介入の変化量が0.0±0.5となり,5m歩数は運動介入により有意に減少した(p<0.05)。5m最大歩行速度では,運動介入前後の変化量が0.37±0.49,非介入の変化量が0.21±0.35となり,有意差を認めなかった。②5m歩数の運動前後の変化量に影響を与える因子として,初回の5m歩数が抽出された(標準化偏回帰係数:β=-0.66,p<0.05)。③歩行能力改善のための動的立位練習の適応を判定する基準については,ROC曲線からカットオフ値が9歩となり,感度0.77,特異度1.0,曲線下面積は0.9と高い予測能を示した(p<0.05)。
【考察】
SayenkoらやTamburellaらは,慢性不全脊髄損傷者に対しモニターが付属したフォースプレート上で足圧中心を指標にした視覚フィードバック練習を1-8週間実施し,外周面積,歩行速度と重複歩距離の改善を認めたと報告している。これらのように特別な機器を用いた長期的な介入の報告が多く,特別な機器を用いず即時的に動的立位練習効果を示し,それに影響を与える因子の報告は我々の渉猟範囲では皆無である。本研究では,急性期頸髄不全麻痺者に対する動的立位練習は,歩数の改善を即時効果として認めることが明らかとなった。今回,動的立位練習を行う事で歩数が0.6歩減少したのは,歩行時の片脚支持時間が延長したことを示しており,歩行安定性の向上に寄与したと考える。また,その即時効果を示す適応として初回の5m歩数が9歩以上の者であることが明らかとなった。5m最大歩行速度については練習を継続していくことで改善を認められる可能性があるが,今回の研究は即時効果に絞った研究であるため中・長期的な効果については今後の課題である。
【理学療法学研究としての意義】
急性期の頸髄不全麻痺者において,動的立位練習を行うことで歩行能力の即時的な改善を認めることが明らかとなり,即時効果を示す具体的な適応基準を示すことができた。