[P2-A-0651] 脊髄損傷者の退院後生活に関する追跡調査
Keywords:脊髄損傷, 在宅生活, アンケート調査
【はじめに,目的】
脊髄損傷者(以下,脊損者)の在宅生活においては住環境,福祉機器の活用,身体機能,年齢,介護力などの違いにより,その生活様式は変化する。このため個々の生活レベルに合わせた対応が必要となる。しかしそのような対応を経て在宅復帰した脊損者が,実生活でどのような問題に直面しているかを,我々は十分把握できていない。そこで我々は,脊損者の在宅生活の現状を知る目的で実態調査を行い,第42回理学療法学術大会で報告した。今回,退院後長期間経過した脊損者の在宅生活の状況がどのように変化しているかを再調査し,若干の知見を得たので報告する。
【方法】
平成8年1月から平成17年12月までの期間に当院を退院された脊髄損傷者310名(前回,平成17年度調査対象者123名を含む)を対象に郵送でのアンケート調査を行った。
調査内容は,現在の住環境,日常生活動作(以下,ADL)状況,介助の必要度,在宅サービスの利用状況,在宅生活での問題点などとした。また回答が得られた脊損者については,入院中の基本情報(年齢,性別,損傷レベル,入院期間,ADL達成状況,転帰先など)をカルテより抽出した。
【結果】
アンケート回収率は51.0%(158名)であった。内訳は男性128名,女性30名,頸髄損傷者83名,胸髄損傷者53名,腰髄損傷者21名,不明1名,調査時年齢53.8±15.5歳(うち前回調査対象者70名を含む)であった。
全体の94.9%(150名)は自宅生活をされており,81.6%(129名)が住宅改修や新築時の住環境調整を行っていた(前回調査76.1%)。住宅改修箇所についてはトイレ,浴室,洗面所,居室の順に多く,前回調査と同様であった。介助の必要度については,完全自立(以下,自立群)が25.3%(40名),部分介助が必要(以下,部分介助群)48.1%(76名),常時介助が必要(以下,常時介助群)25.3%(40名)であった。これについては前回調査時より自立群の割合が減少しており,介助量が多い群ほど年齢が高い傾向がみられた。介助が必要な動作は入浴,外出,更衣,排便の順に多く,前回調査と同様であった。
在宅復帰後の介助量の変化については,介助量が増加した者が全体の23.4%(37名)を占めていた。介助量が不変あるいは減少した者は全体の75.3%(119名)であったが,うち20.2%(24名)は全介助レベルであった。
在宅サービスについては全体の46.8%(74名)が利用していたが,部分介助群,常時介助群の利用は6割程度(60.3%)であった。利用しているサービスについては訪問介護,訪問看護,デイサービスなどが多かった。
在宅生活の問題点としては,「身体機能に関すること」が最も多く,次いで「医療に関すること」,「介護に関すること」であった。
【考察】
前回調査では,長期的なリハビリテーションによりADLを向上させ,住環境調整を行うことで,入院中に獲得したADLをある程度維持することが可能であるという結論を得た。今回の結果でも,対象者の多くは在宅復帰時のADLを現在も維持していることを再確認した。しかしその反面,経年的変化に伴い,身体機能低下などが原因で,介助量が増加しているケースが増えていること,介護者の介護力の低下による問題が生じていることも確認した。在宅サービス導入に関しては,利用者のニーズやライフスタイルに合わないなどの理由でサービスを利用しないケースも少なくない。また介助量が多いほど,多くのサービスを必要とするが,現行の介護保険制度や身体障害者自立支援法などの制度では,十分なサービスを受けられないという実態がある。ゆえに経年的変化に伴い,在宅生活の状況変化に応じた必要な医療サービス(短期入院による身体機能改善への取り組みや住環境,介護方法の見直しなど)を再度提供できる体制を作り,脊損者の在宅生活を支援していく必要がある。そのためには医療・介護による多職種間連携を密にし,多様化する個々の生活状況やニーズに応じた柔軟な対応を行い,継続的な情報提供やフォローアップを行うことが重要である。
【理学療法研究としての意義】
経年的変化が脊損者の在宅生活におよぼす影響について調査し,問題点や課題を抽出することができた。この結果をもとに,脊損者のQOL向上やリハビリテーション提供に有益な情報を発信することは,脊損者が快適な在宅生活を営むための一助になると考える。
脊髄損傷者(以下,脊損者)の在宅生活においては住環境,福祉機器の活用,身体機能,年齢,介護力などの違いにより,その生活様式は変化する。このため個々の生活レベルに合わせた対応が必要となる。しかしそのような対応を経て在宅復帰した脊損者が,実生活でどのような問題に直面しているかを,我々は十分把握できていない。そこで我々は,脊損者の在宅生活の現状を知る目的で実態調査を行い,第42回理学療法学術大会で報告した。今回,退院後長期間経過した脊損者の在宅生活の状況がどのように変化しているかを再調査し,若干の知見を得たので報告する。
【方法】
平成8年1月から平成17年12月までの期間に当院を退院された脊髄損傷者310名(前回,平成17年度調査対象者123名を含む)を対象に郵送でのアンケート調査を行った。
調査内容は,現在の住環境,日常生活動作(以下,ADL)状況,介助の必要度,在宅サービスの利用状況,在宅生活での問題点などとした。また回答が得られた脊損者については,入院中の基本情報(年齢,性別,損傷レベル,入院期間,ADL達成状況,転帰先など)をカルテより抽出した。
【結果】
アンケート回収率は51.0%(158名)であった。内訳は男性128名,女性30名,頸髄損傷者83名,胸髄損傷者53名,腰髄損傷者21名,不明1名,調査時年齢53.8±15.5歳(うち前回調査対象者70名を含む)であった。
全体の94.9%(150名)は自宅生活をされており,81.6%(129名)が住宅改修や新築時の住環境調整を行っていた(前回調査76.1%)。住宅改修箇所についてはトイレ,浴室,洗面所,居室の順に多く,前回調査と同様であった。介助の必要度については,完全自立(以下,自立群)が25.3%(40名),部分介助が必要(以下,部分介助群)48.1%(76名),常時介助が必要(以下,常時介助群)25.3%(40名)であった。これについては前回調査時より自立群の割合が減少しており,介助量が多い群ほど年齢が高い傾向がみられた。介助が必要な動作は入浴,外出,更衣,排便の順に多く,前回調査と同様であった。
在宅復帰後の介助量の変化については,介助量が増加した者が全体の23.4%(37名)を占めていた。介助量が不変あるいは減少した者は全体の75.3%(119名)であったが,うち20.2%(24名)は全介助レベルであった。
在宅サービスについては全体の46.8%(74名)が利用していたが,部分介助群,常時介助群の利用は6割程度(60.3%)であった。利用しているサービスについては訪問介護,訪問看護,デイサービスなどが多かった。
在宅生活の問題点としては,「身体機能に関すること」が最も多く,次いで「医療に関すること」,「介護に関すること」であった。
【考察】
前回調査では,長期的なリハビリテーションによりADLを向上させ,住環境調整を行うことで,入院中に獲得したADLをある程度維持することが可能であるという結論を得た。今回の結果でも,対象者の多くは在宅復帰時のADLを現在も維持していることを再確認した。しかしその反面,経年的変化に伴い,身体機能低下などが原因で,介助量が増加しているケースが増えていること,介護者の介護力の低下による問題が生じていることも確認した。在宅サービス導入に関しては,利用者のニーズやライフスタイルに合わないなどの理由でサービスを利用しないケースも少なくない。また介助量が多いほど,多くのサービスを必要とするが,現行の介護保険制度や身体障害者自立支援法などの制度では,十分なサービスを受けられないという実態がある。ゆえに経年的変化に伴い,在宅生活の状況変化に応じた必要な医療サービス(短期入院による身体機能改善への取り組みや住環境,介護方法の見直しなど)を再度提供できる体制を作り,脊損者の在宅生活を支援していく必要がある。そのためには医療・介護による多職種間連携を密にし,多様化する個々の生活状況やニーズに応じた柔軟な対応を行い,継続的な情報提供やフォローアップを行うことが重要である。
【理学療法研究としての意義】
経年的変化が脊損者の在宅生活におよぼす影響について調査し,問題点や課題を抽出することができた。この結果をもとに,脊損者のQOL向上やリハビリテーション提供に有益な情報を発信することは,脊損者が快適な在宅生活を営むための一助になると考える。