[P2-B-0488] 歩行中の方向転換動作における予期的姿勢制御に関わるステップ戦略の検討
キーワード:姿勢制御, 方向転換, ステップ
【はじめに,目的】
歩行中の方向転換動作は日常よく行われるが,高齢者や脳卒中者などにとっては転倒リスクの高い動作である。歩きながら段差や障害物を回避して方向転換を行うためには視覚情報を基にした予期的姿勢制御が重要とされ(Patla, 1997),近年注目を集めている。しかし,主にstep turnとspin turnの2種類があるとされる方向転換動作に関して,刺激からの応答としてどちらの戦略が選択されるか明らかではない。そこで,本研究では健常成人を対象に,歩行中の方向転換動作における予期的姿勢制御に関わるステップ戦略について分析することを目的とした。
【方法】
対象は健常成人男性10名(平均年齢:24.5±4.5歳)と健常成人女性10名(平均年齢:27.0±6.9歳)とした。課題は10m歩行路において,4~5m程度の定常歩行後,方向指示刺激装置(イリスコ社)により矢印ランプで転換方向を提示し(光刺激),その方向にできるだけ早く左右90°方向転換するものとした。光刺激は足底に付けたフットスイッチを用いて右または左足踵接地のタイミングとした。光刺激脚(支持脚)と転換方向の組み合わせで4パターンに分類(支持脚/転換方向:左足/左,右足/右,左足/右,右足/左)し,各5試行ずつ計20試行実施した。光刺激後のステップ戦略はビデオカメラ(JVC社;GC-YJ40)を用いて分析した。先行研究(Haseら,1999)に従い,転換方向と反対側の足を軸足として転換方向側の足を踏み出した場合(例えば,右方向に進む際に左足を軸足として右足を踏み出す)をstep turn,転換方向と同側の足を軸足とし,反対方向の足が軸足をクロスした場合(例えば,右方向に進む際に右足を軸足として左足をクロスする)をspin turnとした。また,光刺激から頭部・腰部が回旋するまでの潜時は慣性センサ(ATR-Promotions;TSDN121)を方向指示刺激装置と同期して計測した。慣性センサのデータはサンプリング周波数100Hzとし,移動平均法(10区間)を用いて処理した。各パターンにおける頭部反応時間と腰部反応時間について対応のあるt検定またはWilcoxonの順位和検定を行った。有意水準は5%とし,統計処理はR2.8.1を用いた。
【結果】
ステップ戦略に関して,全ての対象者が支持脚方向の2パターン(左足/左,右足/右)でstep turnを,遊脚方向の2パターン(左足/右,右足/左)でspin turnを行った。光刺激後の反応時間について,男性は支持脚方向(左足/左:頭部367.6±35.1msec,腰部404.2±49.8msec。右足/右:頭部361.2±41.7msec,腰部400.8±75.0msec。)と遊脚方向(左足/右:頭部316.8±35.9msec,腰部531.6±56.2msec。右足/左:頭部331.4±45.2msec,腰部520.2±47.3msec。)においていずれも頭部と腰部の連続した動きがみられた(支持脚方向:p<0.05,遊脚方向:p<0.01)。女性も支持脚方向(左足/左:頭部365.6±36.1msec,腰部447.6±70.1msec。右足/右:頭部355.4±29.4msec,腰部450.6±78.8msec。)と遊脚方向(左足/右:頭部315.6±20.0msec,腰部516.6±55.6msec。右足/左:頭部318.4±19.1msec,腰部506.4±47.1msec。)でいずれも頭部が腰部に先行した(支持脚,遊脚方向ともにp<0.01)。また,男女ともに支持脚方向と比較して遊脚方向の頭部反応時間が速く出現した(男性:p<0.05,女性:p<0.01)。
【考察】
本研究ではフットスイッチを起点として光刺激を提示している。そのため,転換方向によって戦略が異なり,健常成人においては支持脚方向でstep turnを,遊脚方向でspin turnを行うことが明らかとなった。step turnでは重心位置が支持基底面内に維持されるため回旋運動開始に時間を要し,spin turnでは重心が支持基底面から逸脱し不安定なためより素早く応答してバランスを維持することが求められると考えた。いずれも頭部と腰部の連続性がみられるものの,step turnでは頭部と腰部が同期する傾向があり,spin turnでは頭部が先行し腰部が遅れる傾向が強くみられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は歩行中の方向転換動作における予期的姿勢制御に関するステップ戦略の違いを明らかにしたもので,予期的バランス機能障害に関する評価・治療の基盤となる。
歩行中の方向転換動作は日常よく行われるが,高齢者や脳卒中者などにとっては転倒リスクの高い動作である。歩きながら段差や障害物を回避して方向転換を行うためには視覚情報を基にした予期的姿勢制御が重要とされ(Patla, 1997),近年注目を集めている。しかし,主にstep turnとspin turnの2種類があるとされる方向転換動作に関して,刺激からの応答としてどちらの戦略が選択されるか明らかではない。そこで,本研究では健常成人を対象に,歩行中の方向転換動作における予期的姿勢制御に関わるステップ戦略について分析することを目的とした。
【方法】
対象は健常成人男性10名(平均年齢:24.5±4.5歳)と健常成人女性10名(平均年齢:27.0±6.9歳)とした。課題は10m歩行路において,4~5m程度の定常歩行後,方向指示刺激装置(イリスコ社)により矢印ランプで転換方向を提示し(光刺激),その方向にできるだけ早く左右90°方向転換するものとした。光刺激は足底に付けたフットスイッチを用いて右または左足踵接地のタイミングとした。光刺激脚(支持脚)と転換方向の組み合わせで4パターンに分類(支持脚/転換方向:左足/左,右足/右,左足/右,右足/左)し,各5試行ずつ計20試行実施した。光刺激後のステップ戦略はビデオカメラ(JVC社;GC-YJ40)を用いて分析した。先行研究(Haseら,1999)に従い,転換方向と反対側の足を軸足として転換方向側の足を踏み出した場合(例えば,右方向に進む際に左足を軸足として右足を踏み出す)をstep turn,転換方向と同側の足を軸足とし,反対方向の足が軸足をクロスした場合(例えば,右方向に進む際に右足を軸足として左足をクロスする)をspin turnとした。また,光刺激から頭部・腰部が回旋するまでの潜時は慣性センサ(ATR-Promotions;TSDN121)を方向指示刺激装置と同期して計測した。慣性センサのデータはサンプリング周波数100Hzとし,移動平均法(10区間)を用いて処理した。各パターンにおける頭部反応時間と腰部反応時間について対応のあるt検定またはWilcoxonの順位和検定を行った。有意水準は5%とし,統計処理はR2.8.1を用いた。
【結果】
ステップ戦略に関して,全ての対象者が支持脚方向の2パターン(左足/左,右足/右)でstep turnを,遊脚方向の2パターン(左足/右,右足/左)でspin turnを行った。光刺激後の反応時間について,男性は支持脚方向(左足/左:頭部367.6±35.1msec,腰部404.2±49.8msec。右足/右:頭部361.2±41.7msec,腰部400.8±75.0msec。)と遊脚方向(左足/右:頭部316.8±35.9msec,腰部531.6±56.2msec。右足/左:頭部331.4±45.2msec,腰部520.2±47.3msec。)においていずれも頭部と腰部の連続した動きがみられた(支持脚方向:p<0.05,遊脚方向:p<0.01)。女性も支持脚方向(左足/左:頭部365.6±36.1msec,腰部447.6±70.1msec。右足/右:頭部355.4±29.4msec,腰部450.6±78.8msec。)と遊脚方向(左足/右:頭部315.6±20.0msec,腰部516.6±55.6msec。右足/左:頭部318.4±19.1msec,腰部506.4±47.1msec。)でいずれも頭部が腰部に先行した(支持脚,遊脚方向ともにp<0.01)。また,男女ともに支持脚方向と比較して遊脚方向の頭部反応時間が速く出現した(男性:p<0.05,女性:p<0.01)。
【考察】
本研究ではフットスイッチを起点として光刺激を提示している。そのため,転換方向によって戦略が異なり,健常成人においては支持脚方向でstep turnを,遊脚方向でspin turnを行うことが明らかとなった。step turnでは重心位置が支持基底面内に維持されるため回旋運動開始に時間を要し,spin turnでは重心が支持基底面から逸脱し不安定なためより素早く応答してバランスを維持することが求められると考えた。いずれも頭部と腰部の連続性がみられるものの,step turnでは頭部と腰部が同期する傾向があり,spin turnでは頭部が先行し腰部が遅れる傾向が強くみられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は歩行中の方向転換動作における予期的姿勢制御に関するステップ戦略の違いを明らかにしたもので,予期的バランス機能障害に関する評価・治療の基盤となる。