第50回日本理学療法学術大会

Presentation information

ポスター

ポスター2

運動制御・運動学習3

Sat. Jun 6, 2015 1:50 PM - 2:50 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-B-0491] 膝関節可動域制限による股関節・足関節運動と姿勢筋の筋活動への影響

齊藤展士1, 山中正紀1, 笠原敏史1, 千葉健2 (1.北海道大学大学院保健科学研究院, 2.北海道大学病院リハビリテーション部)

Keywords:姿勢制御, 関節運動, 外乱刺激

【はじめに,目的】
整形系や中枢神経系の疾患を有する多くの患者で膝関節の可動域制限がみられる。膝関節の可動域制限は,運動能力や日常生活活動の低下を引き起こすだけでなく,姿勢不安定性の要因となる(Masui et al., 2006)。姿勢の保持が不安定になると転倒の危険性が増えるため,膝関節可動域制限を補償する姿勢の制御が必要になる。床面(支持面)が前後傾斜するときの立位バランスを調べた研究によると,立位保持のためには膝関節と協調的に働く股関節や足関節の運動が重要であると報告されている(Gage et al., 2007)。しかしながら,膝関節に可動域制限がある場合に股関節の屈曲角度や足関節の背屈,底屈角度がどのように変化し,立位保持を可能とするのかはほとんど言及されていない。また,そのとき姿勢筋が姿勢保持のためにどのように調節されるのかもはっきりしていない。今回,我々は立位保持における下肢関節運動の役割を検討するために,膝関節の可動域制限により股関節と足関節が膝関節運動をどのように補償するのかを調べた。また,この時の姿勢筋の働きを調べた。
【方法】
研究趣旨に同意した健常成人12名(21±2歳)を対象とした。下肢関節に神経学的,および整形外科学的既往のない者とした。被験者に傾斜台の上で立位を保持させた。傾斜台は,足関節軸に合わせて底背屈方向に傾斜を与えることが可能な安定した台(Nambu mechatro社製)とした。傾斜刺激を正弦波状に与え,20周期繰り返した。傾斜刺激の振幅を15°,周波数を0.75Hzに設定した。被験者は,膝関節の可動域を制限するための装具(ダイヤルロック式膝継手装具)を両膝に装着した。膝関節の条件として,膝関節が20°以上伸展しないように制限する条件と,膝装具を装着するだけで関節可動域を制限しない条件を設定した。身体各部位と傾斜台に取り付けた反射マーカーを三次元動作解析装置(Motion analysis社製)により記録した。その後,頭部の動揺距離,各関節運動の変化量を求めた。また,下肢関節運動に関与すると考えられる前脛骨筋,腓腹筋,大腿直筋,大腿二頭筋,腹直筋,および脊柱起立筋の筋活動を記録した。膝関節の各条件で股関節運動や足関節運動を比較した。また,最大筋収縮に対する筋活動量も比較検討した。統計には対応のあるT検定を用いた。危険率は5%とした。
【結果】
傾斜刺激により頭部は軽度動揺したが,膝関節伸展制限による動揺距離に有意な差はなかった(制限なし2.6±0.6cm,制限あり3.1±0.9cm,p=0.21)。股関節屈曲運動は膝関節伸展制限により有意に増加した(制限なし4.0±0.6°,制限あり7.5±1.0°,p<0.01)。大腿直筋の最大収縮に対する筋活動量も膝関節伸展制限により有意に増加した(制限なし0.08±0.01,制限あり0.13±0.02,p<0.01)。足関節背屈運動は膝関節伸展制限により有意に増加し(制限なし14.8±2.1°,制限あり22.6±2.4°,p<0.01),前脛骨筋の筋活動量も増加した(制限なし0.15±0.02,制限あり0.24±0.04,p<0.01)。足関節底屈運動は伸展制限により有意に減少し(制限なし17.6±1.3°,制限あり11.6±1.5°,p<0.01),腓腹筋の筋活動量は減少した(制限なし0.32±0.05,制限あり0.23±0.04,p<0.01)。
【考察】
傾斜刺激により身体は動揺するが,頭部の動揺距離は膝関節の伸展可動域の制限による影響を受けなかった。これとは逆に,膝関節の伸展制限により股関節で屈曲可動域の増加,足関節で背屈の増加,底屈の減少が観察された。これらのことは,健常者においては膝関節の伸展制限があっても股関節や足関節の運動が適切に調節され,身体動揺が補償される可能性を示唆している。また,中枢神経系はこれらの関節運動を導くために姿勢筋を適切に調節し,働かせたと考えられる。本研究は,健常人における結果であることから,高齢者や患者の特徴を知るために,将来,健常者と比べ股関節や足関節運動の制御に違いがあるのかを調べる必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
ある関節に機能低下が起こると,他の関節でその機能を代償することがしばしばある。立位保持における各下肢関節の代償関係を理解することはリハビリテーションにとって重要な課題であろう。理学療法士が適切な治療を提供するための一助となるはずである。