第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター2

運動制御・運動学習3

Sat. Jun 6, 2015 1:50 PM - 2:50 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-B-0494] 立位姿勢における異なる注意方向の教示が重心動揺に与える影響

清木宏徳1,2, 森下元賀2 (1.光市立大和総合病院リハビリテーション科, 2.吉備国際大学大学院(通信制)保健科学研究科理学療法学専攻)

Keywords:姿勢制御, 重心動揺, 二重課題

【はじめに,目的】
運動療法や動作指導を行う際に,効率的な運動学習を促すことは,早期に動作の再獲得に繋がり,日常生活動作の改善に重要である。運動学習を促すための方略の一つとして,運動課題への注意の向け方が考えられる。
近年,注意の方向性の教示を変えることで運動パフォーマンスが変化するとの報告がある。例えば運動によって生じる身体外部の効果に注意を向けるExternal focusは無意識的,反射的な運動制御過程の働きを高めるため運動パフォーマンスが向上すると報告されている。一方で,引き算やストループ干渉課題などの認知課題と運動課題を同時遂行させることで運動パフォーマンスが向上するとの報告もある。これら,External focusと認知課題の共通点として,運動時に意識を身体以外に向けさせることで身体への注意配分が減少し,無意識的に動作を遂行することで運動パフォーマンスが向上すると考えられる。
運動パフォーマンスの向上に関与すると報告されているいくつかの注意の方法については,どのような方法が最も促進的に作用するのか一定の見解を得ていないのが現状である。
本研究の目的は,立位姿勢保持中の異なる注意の方向性の教示が立位重心動揺に与える影響を調べ,コントロール条件,認知課題,External focusのいずれの方法が運動パフォーマンスの向上に作用するのかを検討することである。
【方法】
対象者は当院入院中の脳血管疾患4名,廃用症候群4名,下肢疾患1名,腰部疾患1名(男性7名,女性3名,平均年齢72.7±8.4歳)とし立位保持が30秒間可能で著明な認知症,高次脳機能障害を有していないものを対象とした。
重心動揺の計測は,開眼で両足内側間を10cm開き,片側肩関節屈曲90°,肘関節伸展0°の肢位で100gの重りを保持し行った。課題はコントロール条件,認知課題,External focusをランダムで各一回ずつ実施し,その際の重心動揺を計測した。コントロール条件には重りを保持した状態で体が動かないように教示した。また,認知課題においても重りを保持した状態で「100-3」の計算を任意の速さで行った。External focusでは100gの容量のカップに水を溢れそうになるまで入れた。そして,対象者にはカップから水を溢さないよう集中し保持してもらった。重心動揺は,重心動揺計(Zebris社製WinPDM-S)を使用し計測を行った。
統計解析はIBM SPSS Version20を用いて,各課題間でFriedman検定を行った後にBonferroniの多重比較法を用いた。
【結果】
総軌跡長においてコントロール条件は1184.09±343.55mm,認知課題は1337.91±452.28mm,External focusは1195.95±477.78mmで認知課題に比べExternal focusの方が有意に減少した(p<0.05)。また,Y方向実行値においてはコントロール条件では3.67±1.59mm,認知課題は4.44±1.6mm,External focusは3.48±1.66mmとなり,認知課題に比べExternal focusの方が有意に減少した(p<0.05)。
【考察】
External focusは認知課題よりも総軌跡長とY方向実行値において有意に重心動揺が減少した。その要因としてExternal focusではカップの水に集中する課題を行ったことにより身体外部に注意を向けることができ,他の2条件よりも無意識的な姿勢反射が促された可能性が示唆された。そのため,身体外部に注意を向けさせるExternal focusは運動パフォーマンスの向上が期待できるのではないかと考えられる。また,認知課題が重心動揺の増加を招いた要因として対象者の認知機能が低下していたことが考えられる。そのため,計算課題に注意配分が多くなり,立位姿勢保持に必要な注意量が減少してしまい重心動揺の増加に繋がったのではないかと考えられる。
今後は,認知課題の難易度について検討を行い,立位姿勢保持時の重心動揺と注意機能,身体機能との関連を調査し,注意の方向性の教示の使い分けを行えるようにしていきたい。
【理学療法学研究としての意義】
本研究において立位姿勢保持における注意の方向性の教示の違いが立位重心動揺を減少させExternal focusが有効である可能性が示唆された。注意の方向性の教示はセラピストの口頭指示で容易に行えることから,通常用いている運動課題にプラスするというかたちで導入できるため,臨床応用が行いやすいのではないかと考えられる。