[P2-B-0540] 一般大学生における後進歩行と下肢筋機能およびバランス能力の関係
Keywords:後進歩行, 下肢筋機能, バランス能力
【はじめに,目的】日常生活における転倒要因の1つとして,方向転換や後方への踏み出しの障害が挙げられる(Fits et al, 2013)。後進歩行(BW)は,理学療法においてバランス能力の向上や下肢筋力増強を目的として用いられている。一方,前進歩行と筋機能の関係について,筋パワーは筋力よりも歩行速度と強い関係があると報告されている。また,股関節の安定化に寄与する股関節周囲筋のうち,股関節内旋筋群は前進歩行の推進力に寄与している。しかし,BWにおいて股関節周囲筋,パフォーマンスとの関連の高い等速性膝関節筋パワーおよびバランス能力との関係の報告は少ない。本研究の目的は,BWと膝関節筋機能およびバランス能力の関係について調査することとした。
【方法】対象は,一般大学生120名(男性60名,女性60名,平均年齢20.6±1.2歳)であった。測定項目は,BWの10m歩行,膝関節等速性筋力,股関節外旋,内旋筋力,重心動揺検査とした。10m歩行は,3mの助走路,減速路を設け,できるだけ速く歩くように指示して歩行時間を測定し,後進歩行速度(BWS)を算出した。重心動揺検査は,重心動揺計Twin gravicoder 6100(ANIMA)を用い,バランスパッド上で開眼および閉眼での静止立位を60秒間測定した。なお,開眼時は2m先の目印を見ることとした。等速性筋力測定は,BIODEX SYSTEM3(BIODEX)を使用し,膝関節屈曲,伸展運動を角速度60deg/sec,180deg/secで行った。股関節外旋,内旋の等尺性筋力はμTasF-1(ANIMA)を用い,センサーを内果,外果直上部にベルトで固定し,最大値を測定した。各測定の間には約30秒の休憩を設けた。統計学的分析は,JASTATを使用し,BWSと各測定項目との関係はSpearman順位相関分析を用い,有意水準を5%とした。
【結果】BWSは1.9±0.4m/sec,屈曲筋パワー60deg/secは45.8±17.4W,180deg/secは84.3±36.9W,伸展筋パワー60deg/secは73.4±21.2W,180deg/secは141.3±49.3W,股関節外旋筋力99.4±36.5N,内旋筋力127.8±48.6N,開眼時総軌跡長は108±29.1cm,閉眼時総軌跡長は196.9±72.7cmであった。BWSと各測定項目の関係は,膝屈曲筋パワー60deg/sec(r=0.54),180deg/sec(r=0.56),伸展筋パワー60deg/sec(r=0.41),180deg/sec(r=0.48),股関節外旋筋力(r=0.42),内旋筋力(r=0.48)と有意な正の相関があった。また,BWSと総軌跡長との関係は,開眼時(r=0.32)と閉眼時(r=0.19)に正の相関があり,開眼時の相関係数が高かった。
【考察】BWSと下肢筋機能の関係は,膝屈曲筋パワー,内旋筋力,伸展筋パワー,外旋筋力の順に相関が高かった。歩行中の筋活動として,BWは,中殿筋は立脚初期,大腿二頭筋は立脚後期に活動している(本間ら,2013)。BWにおける推進力は,股関節屈曲,外旋によって生じている。これらの関節運動は,靭帯性の制動が少ないため,ハムストリングス,内旋筋群の遠心性収縮による制動が必要であると考えられる。股関節,膝関節の複合運動を伴うパフォーマンスでは,内側および外側広筋の収縮で膝関節が伸展し,ハムストリングス筋群が伸張位で効率的な筋力が発揮される(Donaldら,2005)。これらのことから,BWSは,膝屈曲筋パワー180deg/secと股関節内旋筋が重要であると推察される。次に,BWSとバランス能力の関係は,BWSは開眼時および閉眼時総軌跡長と正の相関があり,開眼時の方が閉眼時に比べ高かった。後進歩行における視覚情報の特徴は,進行方向の視覚情報がなく,視標から遠ざかる空間的な視覚刺激が生じることである。視覚情報における姿勢制御は身体定位を行うと言われている(七里ら,2012)。先行研究によると,周辺視野の空間が動くような視運動刺激であるOpticflowは,刺激に応じて頭部が誘導され,姿勢の不安定性が誘発される(Jefferson et al,2007)。また,Opticflowは,後進歩行時の視運動刺激と類似していることから,BWSが遅く,開眼時総軌跡長が短いものは,視覚への依存度が高い可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】本研究の結果,BWは膝関節屈曲筋パワーおよび股関節周囲筋とバランス能力の関連することが示唆された。BWと関連する機能の調査は,理学療法によるBWの介入対象を明確するとともに,姿勢制御における視覚の依存度を評価する上で意義があると考えられる。
【方法】対象は,一般大学生120名(男性60名,女性60名,平均年齢20.6±1.2歳)であった。測定項目は,BWの10m歩行,膝関節等速性筋力,股関節外旋,内旋筋力,重心動揺検査とした。10m歩行は,3mの助走路,減速路を設け,できるだけ速く歩くように指示して歩行時間を測定し,後進歩行速度(BWS)を算出した。重心動揺検査は,重心動揺計Twin gravicoder 6100(ANIMA)を用い,バランスパッド上で開眼および閉眼での静止立位を60秒間測定した。なお,開眼時は2m先の目印を見ることとした。等速性筋力測定は,BIODEX SYSTEM3(BIODEX)を使用し,膝関節屈曲,伸展運動を角速度60deg/sec,180deg/secで行った。股関節外旋,内旋の等尺性筋力はμTasF-1(ANIMA)を用い,センサーを内果,外果直上部にベルトで固定し,最大値を測定した。各測定の間には約30秒の休憩を設けた。統計学的分析は,JASTATを使用し,BWSと各測定項目との関係はSpearman順位相関分析を用い,有意水準を5%とした。
【結果】BWSは1.9±0.4m/sec,屈曲筋パワー60deg/secは45.8±17.4W,180deg/secは84.3±36.9W,伸展筋パワー60deg/secは73.4±21.2W,180deg/secは141.3±49.3W,股関節外旋筋力99.4±36.5N,内旋筋力127.8±48.6N,開眼時総軌跡長は108±29.1cm,閉眼時総軌跡長は196.9±72.7cmであった。BWSと各測定項目の関係は,膝屈曲筋パワー60deg/sec(r=0.54),180deg/sec(r=0.56),伸展筋パワー60deg/sec(r=0.41),180deg/sec(r=0.48),股関節外旋筋力(r=0.42),内旋筋力(r=0.48)と有意な正の相関があった。また,BWSと総軌跡長との関係は,開眼時(r=0.32)と閉眼時(r=0.19)に正の相関があり,開眼時の相関係数が高かった。
【考察】BWSと下肢筋機能の関係は,膝屈曲筋パワー,内旋筋力,伸展筋パワー,外旋筋力の順に相関が高かった。歩行中の筋活動として,BWは,中殿筋は立脚初期,大腿二頭筋は立脚後期に活動している(本間ら,2013)。BWにおける推進力は,股関節屈曲,外旋によって生じている。これらの関節運動は,靭帯性の制動が少ないため,ハムストリングス,内旋筋群の遠心性収縮による制動が必要であると考えられる。股関節,膝関節の複合運動を伴うパフォーマンスでは,内側および外側広筋の収縮で膝関節が伸展し,ハムストリングス筋群が伸張位で効率的な筋力が発揮される(Donaldら,2005)。これらのことから,BWSは,膝屈曲筋パワー180deg/secと股関節内旋筋が重要であると推察される。次に,BWSとバランス能力の関係は,BWSは開眼時および閉眼時総軌跡長と正の相関があり,開眼時の方が閉眼時に比べ高かった。後進歩行における視覚情報の特徴は,進行方向の視覚情報がなく,視標から遠ざかる空間的な視覚刺激が生じることである。視覚情報における姿勢制御は身体定位を行うと言われている(七里ら,2012)。先行研究によると,周辺視野の空間が動くような視運動刺激であるOpticflowは,刺激に応じて頭部が誘導され,姿勢の不安定性が誘発される(Jefferson et al,2007)。また,Opticflowは,後進歩行時の視運動刺激と類似していることから,BWSが遅く,開眼時総軌跡長が短いものは,視覚への依存度が高い可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】本研究の結果,BWは膝関節屈曲筋パワーおよび股関節周囲筋とバランス能力の関連することが示唆された。BWと関連する機能の調査は,理学療法によるBWの介入対象を明確するとともに,姿勢制御における視覚の依存度を評価する上で意義があると考えられる。