第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター2

変形性膝関節症2

2015年6月6日(土) 13:50 〜 14:50 ポスター会場 (展示ホール)

[P2-B-0558] TKA術後の腫脹と屈曲可動域の関係性について

浅海祐介 (昭和大学横浜市北部病院)

キーワード:人工膝関節全置換術, 腫脹, 可動域

【はじめに,目的】
人工膝関節全置換術(以下TKA)術後の腫脹の強い症例において屈曲可動域制限を認める印象がある。亀田らはTKA術後の抗凝固薬投与により,有意に術後早期の腫脹が増加し,関節可動域の改善が遅れると報告している。TKA術後の可動域や腫脹の経時的変化についての報告はされているがそれらの相関についての報告は少ない。本研究では,周径と屈曲可動域の経時的変化を調査し,それらの関係性を明らかにすることを目的とした。
【方法】
平成25年6月から平成26年9月の間に当院において内側型変形性膝関節症に対し,初回TKAを施行した35例37膝(男性10例11膝,女性25例26膝)を対象とした。年齢73.5±7.2歳,BMI25.7±3.0,術前屈曲可動域は127.3±18.3度(75-150度),抗凝固薬最終使用日は術後7.1±2.3日であった。術後経過は術翌日もしくは術後2日のドレーン抜管後よりリハビリを開始し,退院は片側TKAで術後19.6±5.3日,両側TKAで30±9.9日であった。
術前,術後2日,4日,1週,2週,退院時の周径((膝蓋骨下縁(以下下縁),膝蓋骨上縁(以下上縁),膝蓋骨上縁5cm(以下上縁5cm)),屈曲可動域の値を後方視的に調査した。周径は術前の値を基準とし,屈曲可動域は術後2日の値を基準として正規化,各計測間の変化率を算出し,一元配置分散分析及び多重比較を用いて経時的変化ついて検討した。有意水準は5%未満とした。また,周径変化率と屈曲可動域改善率についてSpearmanの順位相関係数にて関係性を検討した。
【結果】
周径変化率は下縁において,2日から2週(p<0.05),退院時(p<0.01),4日から退院時(p<0.05),1週から2週(p<0.05),退院時(p<0.01)で有意に減少した。上縁,上縁5cmにおいては2日から2週,退院時,4日から2週,退院時,1週から2週,退院時に有意に減少(p<0.01)した。屈曲可動域改善率は2日から4日,1週,2週,退院時(p<0.01),4日から2週,退院時(p<0.01),1週から退院時(p<0.01)において有意に改善が認められた。全期間における周径変化率と屈曲可動域改善率の関係に関してはいずれも弱い負の相関を認めた(下縁:r=-0.37,上縁:r=-0.37,上縁5cm:r=-0.36)。各時期においての関係では周径変化率と屈曲可動域改善率に相関は認められなかった。
【考察】
TKA術後の周径は2日から1週にて最大となり,その後減少する傾向がみられた。先行研究において抗凝固薬使用により腫脹が増加することが報告されており,本研究では抗凝固薬を1週間前後使用した為,それ以降に周径が減少したと考えられる。和田らは健常者において膝屈曲30から120度で膝蓋靭帯部と膝蓋上嚢部皮膚の伸張性が必要と報告し,浅野らはTKA術後において膝蓋骨部・膝蓋靭帯部の長軸方向の皮膚伸張性低下,膝蓋上嚢部・膝蓋骨部の横軸方向の伸張性低下があると報告している。阪本らはTKA術後1週から4週における疼痛と屈曲角度に負の相関があると報告している。本研究において腫脹が屈曲可動域に及ぼす直接的な要因について言及することは出来ないが皮膚の伸張性低下や腫脹に伴う疼痛などが影響していると考えられる。村上らはTKA術後早期の弾性包帯の導入により腫脹が抑制され,膝関節屈曲可動域や動作時痛の改善にもつながったと報告している。本研究にて屈曲可動域制限の一要因として腫脹が影響していること,そして,屈曲可動域に対するアプローチの一環として腫脹管理が有効である可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
TKA術後における腫脹と可動域の関係性に関して一定の見解は得られていない。本研究において周径変化率と屈曲可動域改善率に負の相関が認められ,TKA術後の理学療法として腫脹管理を含めたアプローチが膝関節屈曲可動域改善につながる可能性が示唆された。